第62話 料理人拓哉の本領発揮!神的扱いはもうお腹いっぱい!

「みんな、一度手を止めて聞いてくれ。 神のお菓子を考案された、拓哉様に来て頂いた。 今回出した前菜を更なる至高の料理にしてくれるということだ。 今すぐ中断し、場所をあけてくれ」


料理長が、そう言うと10名以上の料理人が手を止めて歓声が上がる。 拓哉も、まさかここまで歓迎されるとは思ってもみなかった為、戸惑いが隠せない。


「拓哉様、好きに厨房をお使いください」


「料理長、感謝します。 アボカドいやアボドだったか、それと塩とエビとレモンとこれに使われたハーブを用意してください」


部下の前ということもあり、拓哉はジュドーではなく料理長と呼ぶ。


「お前ら、聞いたな!すぐに塩とアボドとエビとレモンとフィーユの葉を用意しろ」


それを聞いた部下達が慌てて用意し始める。 その間に、バルトから貰ったまな板と包丁と各種調味料とブランデーを取り出す。


「お待たせしました。 こちらが言われた物になります」


部下が全部揃えて持ってくる。


「今から調理していきますね」


そう言うと、魔国の料理人全員の目が拓哉に注がれる。


「まずは、アボドの種をくり抜きます。その後、皮を剥いて1cm幅で切るまでは変わりません。 ここからレモンの汁を振りかけて、布でもいいですが、今日は私が持ってきたサランラップという物で包んで置いておきます。 レモンの汁を振る事で変色を防ぎます」


拓哉が、手を動かしながらも説明を続ける。 それを見ていたジュドーは必死にメモを取る。 


「次は、エビにいきます。 まず、背ワタを取って殻を剥きます。 取り終わったらボールに入れて塩をかけて粘り気が出るまで揉み込みます。 それから、片栗粉と水を入れて揉み込み、汚れが目立ってきたら水で洗い流して布で水気を取ります。塩は、身を引きめる効果と汚れを浮かす効果があります。 更には、片栗粉によって細かい汚れを吸着させてより細かい汚れを取ります。 この作業で汚れや臭みがなくなりプリっとした食感にもなります。 ここから、沸かしたお湯に白ワインと塩を入れて茹でます。 白ワインは、こちらにないので、料理に使える酒を探してみてください。 茹で終わったら水分をちゃんと切ってください」


今まで気にもしていなかったことや、調理スキルに圧倒されるジュドーと料理人達。

より真剣な眼差しで魅入っている。


「ソースは、このマヨネーズとケチャップとブランデーとレモン少々を混ぜ合わせます。 出来上がったソースとアボドとエビにかけてフィーユの葉を散らせたら完成と言いたいですが、端にサラダ菜という物とカットしたレモンを添えて完成!より見栄えが良くなったと思います」


静かに見守っていた料理人から歓声が上がる。


「貴方様は料理の神ですか? 見たこともない調理法に調味料とお酒! 今にも食べたいと思わせる見栄えのいい料理。 素晴らしいの一言です」


「はは、ありがとうございます。まぁとりあえず食べてみてください。 料理人が試食しないと提供できる物は作れませんからね」


ジュドーは、フォークにエビを刺して食べる。 その瞬間、目をこれでもかと見開く。


「違う! 全然別物だ...」


涙を流しながら答えるジュドー。 


この時ジュドーは、これこそ探し求めていた料理だと感じ感激のあまり涙を流してしまった。

周りも固唾を飲んで見守っている。


「えっと、お口に合いませんでしたか?」


「いいえ神よ! 貴方様は、なんて素晴らしい物を作ってくれたのですか? 感激のあまり涙が出てしまったのです」


ジュドーの崇拝するような言葉に引いてしまう拓哉。


「あ、あ〜そうでしたか。お口に合ってよかったです。 皆さんも今からこれを作って再度お出ししましょう。 もし、この後の料理もアドバイスできるとこはしますので、待っている方々に最高の料理を提供しましょう」


その言葉を聞いたジュドーと料理人達は、歓声をあげて作業し始める。


それから拓哉は、料理人一人一人に丁寧なアドバイスをして夕食は大成功で幕を閉じた。


全てが終わり、みんなが待つ大食堂に戻る拓哉。


「拓哉すまんな...歓迎する立場が見事に歓迎される形になってしまった。 それから相変わらず見事な料理だった。 料理長には悪いが、城でこんな満足した食事は初めてだ」


「調味料の差ですよ。 ここの料理人の調理スキルは素晴らしいと思います。 後日、時間を作って調味料の作り方を教えようと思います」


「なんと! それはありがたい。これで楽しみが増えるな」


「貴方、こんなおいしい食事が城でも食べれるようになったら、使用人もよりやる気が出るわ。 私も毎日が楽しみになるもの」


「お父様、お母様、またブルのフィレ肉の赤ワインソース添え食べたいですわ。 口に入れたらトロけて濃厚な赤ワインソースの味がジュワーと出てくる肉汁と絡まって、ふわぁ〜思い出しただけでよだれが出ますわ」


それを皮切りに、何が美味かったやらあのソースはどう作るのかやら、みんなで感想を言い合っていた。


それから暫くして、解散となり拓哉と桜花は風呂に入りのんびりしていた。 ラリサとアニカはというと、昼間の訓練や授業で疲れて寝てしまっている。


城の部屋

「桜花は先に寝ててちょっと出てくるから」


「あるじ、どこ行くの?」


「腹が減って厨房を借りようかなって。まさかあんな感じになると思ってなくて」


笑いながら答える拓哉。


料理人達の真っ直ぐな目を見て、結局デザートまでアドバイスした拓哉は何も食べずに夕食を終えたのだ。


「僕も行くんだよ。 まだまだ入るから」


桜花はお腹を叩きながら言う。


「まだ食べるのかよ。 じゃあ行くか」


「うん」


それから、厨房に向かおうと歩いているとセバスが正面から歩いてくる。


「これは、拓哉様!こんな夜更けにどちらへ?」


「お恥ずかしながら、お腹が空いちゃいまして...あはは」


「そういえば、夕食は食べておられませんでしたね。 私どもが気づいてお伺いせず申し訳ございません」


セバスが90度のお辞儀をして謝る。


「気にしないでください。 私が勝手にやり始めちゃったことなので。 あ!セバスさんも食事まだでしたらご一緒にいかがですか?」


「有難いお誘いですね。 私も、実は食べてみたかったのですよ。 お言葉に甘えてご一緒させて頂きます」


セバスはニッコリ笑って答える。


厨房に着くとちょうどジュドーが出てきた。


「拓哉様と桜花様、それにセバスさんまで、こんな時間にどうしたのですか?」


驚いた感じで聞いてくるジュドー。


「拓哉様が、夜食を作ってくれるとのことで私も頂こうと思いましてね」


「夕食を食べ逃してしまいましたからね。 これから作って食べようかなと」


「あ!我々の為に...申し訳ございません」


「あ〜それは、こちらが勝手にしたことですので気にしないでください。 もしよろしければ一緒にいかがですか?」


拓哉がジュドーを誘う。


「私もいいのですか? 逆にお願いしたいくらいです」


「是非一緒に食べましょう。 ささっと作りますので、椅子を用意しておいて下さい」


「畏まりました」


セバスが用意しようと動く。


拓哉は、アイテムボックスから調味料と冷やご飯とチャーシューとネギとエビと卵とサラダ油を出す。


手慣れた手付きでチャーシューとネギを切り、エビの下処理をして小さく切る。 横では真剣な表情でジュドーが見守る。


「エビと卵以外初めてみる食材ばかりですね。 どのような料理か想像がつきませんよ」


ジュドーが不思議そうな顔をして言う。


「そうですよね。 私の故郷の食材ですからね。 今回作るのは、万人受けする料理ですので安心してください」


炒め始めて具材を入れて、調味料を加えた頃にいい匂いが漂う。


「この香ばしい何とも言えない香りはなんでしょうか? 絶対おいしいと私の脳が訴えかけてきます」


「出来上がりだ。 これはうまいぞ。うまくパラパラに仕上がったしな」


パラパラなチャーハンしか認めない拓哉。 皿に移して、みんなの所に行く。


「皆さんお待たせ致しました。 チャーハンというライスを使った料理です。 スプーンで掬って食べてください。 味変したくなったら横にある赤い福神漬と一緒に食べてみるのもありです」


みんなが、一斉に食べ始める。


「ん! これは、おいしいです。ライスとはもっと粘りがある印象でしたが、これには一切ありません。 ですが、この料理にはそれが必要なのですね。 一粒一粒に卵の味が絡まってライスの甘みと未知の調味料。 そして、この肉の旨味とジューシーさがなんとも言えないおいしさですよ」


ジュドーが感動する。


「そうですね。 私もこんな複雑な味がする料理は初めてですね。 それに、このエビのプリプリした食感に、エビ本来の甘みとライスの甘みと香ばしい香りの調味料が合わさることで美味しさが倍増しますね」


「あるじ、おいしんだよ。 チャーシューはオークエンペラー?」


「おっ!よくわかったな。こないだ、師匠が狩ってきてくれたやつだ」


「拓哉様、今なんと?オークエンペラーと聞こえたのですが?」


セバスが言っている間、ジュドーに至ってはワナワナして震えている。


「え? オークエンペラーですよ。 炒めてるはずなのに、この肉汁は流石ですよね。 やっぱりチャーハンうまいわ。 福神漬も最高」


「拓哉様!!」


セバスが大声で叫ぶ。


「平然とおっしゃっていますが、我々のような使用人が食べれるものではないのですよ」


ジュドーは、エンペラーエンペラーと独り言のように呟いている。


「2人共、気にしないでくださいよ。 うまい物は誰かと食べる方がよりうまくなるんですから」


「はぁ〜拓哉様は、そういう方なのですね。 では有り難く頂きます。 一生に一度食べられるか食べれないかの魔物ですので。 ジュドーも気にせず食べなさい。 せっかく拓哉様に作って頂いたのですから」


「...セバスさん今オークエンペラーと...」


またしても同じやり取りが繰り返されるのだった。 その後、チャーハンを食べ終えた拓哉達は部屋まで戻る。


部屋の前


「セバスさん、明日メイドさん達と他の執事の方に、これを配ってください。 キャラメルと言いまして、とても甘いお菓子です」


拓哉は、出発前に大量に作り置きをしていたのだ。 


「何から何まで申し訳ございません。 こちらは必ずお配り致します。 色々とありがとうございます」


「はい!ではまた明日からもよろしくお願いします」


そう言って桜花と部屋に入る。 

部屋に入るなり、桜花からキャラメルをねだられたのは言うまでもない。

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