第53話 後編!魔力たっぷり畑作り!外ではやっぱりおにぎりだよね!

手を洗いに行ったみんなが戻ってきた。


「これはおにぎりっていうんだけど、手で持ってそのまま齧り付いたらいいから。中には色々な具があるから楽しんで」


みんなに伝えてから手を洗いにいく拓哉。


「この黒いのはなんでしょうか?」


キャリーナは不思議そうに見て尋ねる。


「これは、海苔だな。 海藻を干したものだったと思うが、俺も一度しか食べたことがない」


小次郎は、火乃国の海辺に行った時に食べたようだ。


「ほぉ〜塩気があってうまいのぅ。ライスの甘みもあってうまいのじゃ。 これは、魚かのぅ」


「それは鮭だよ。 塩気があっておにぎりの定番の具なんだよ。 あ!こっちは、昆布だよ。甘辛い昆布が米とあっておいしいよ〜」


日本の神獣だけあって桜花は詳しくみんなに説明する。


「鮭と言うんじゃな。魚のうまみがしっかりあってうまいのぅ」


「みんなうまそうに食べてるな。 おっ!やっぱりおにぎりうまいな」


「使徒様、これはなんですか? 粒々した物が入っているのですが?」


「それは、鮭の卵でイクラだな。 プチプチしててうまいんだよ。 ガブって食ってみ」


パクッモグモグ


「ん〜プチプチして濃厚な味がライスに絡まっておいしいです。 ふぁ〜帰ってからも食べたいですよ〜」


ビーチェが幸せそうな顔をする。


「はは、気に入ってくれたのは嬉しいけど、ちゃんと処理をしてこの味をつける調味料がないと美味しくはならないからな。 うちに食べに来てくれたらこれ以外のイクラの料理を出すよ」


イクラはおいしいけど、日本ですら不味いイクラばっかりだしな。 スーパーとか回転寿司とか生臭くて食えたものじゃない。 日本でも不味いのだから異世界だと、余計にこの味は再現できないだろうな。


「絶対行きます。 キャリーナ様、連れて行ってくださいね」


目をキラキラさせながら懇願する。


「わかったわよ。 シャーリーもビーチェも連れて行くわ」


2人ともやった〜と喜んでいる。


「使徒様、これピリ辛で口いっぱいに肉汁が広がって凄くおいしいのですが、なんのお肉ですか?」


シャーリーが不思議そうに尋ねる。


「あ〜シャーリーさんが当てたか! 1つだけ火竜のカルビを入れてみたんだよ。 おにぎりに合うだろ?」


丼物にしようと火竜の肉を捌いていたのだが試食で食べたのが、あまりにも美味くて1つだけ入れてみたのだ。 しかも地竜より赤身に近くて旨味がより凝縮された味だったので、桜花と2人で試食と言いながら1人500g近く食べてしまった。


「火竜のお肉が食べれるの幸せです。 地竜より魔力が多いのか、こっちの方が好きかもしれません」


「ずるいぞ!拓哉」 「ワシのはないのかのぅ?」 「シャーリーだけずるいです〜」 「使徒様、私達のはないのですか?」


桜花以外みんなが言う。


「1つだけ! 近々丼物で出す予定だから食べに来てくれ」


立ち上がり言う拓哉。それでも後ろでブーブー聞こえる。


「みんな、ブーブー言わないの! 畑作業やるよ」


渋々、は〜いと言ってついてくる。


「シャーリーさん、この畑を2週間経った状態にしてください」


「わかりました」


あれ?今思ったけど、2週間で通じるんだな。 気にしていなかったけど、その辺は地球と同じなのか。


無言で手をかざすシャーリー。


「終わりましたよ。 2週間進めました」


「え?もう終わり? 詠唱とかピカーって光るとかは?」


「詠唱なんかしませんよ。 精霊は魔法に長けてますから私これでも上位精霊なんですよ」


え〜上位精霊さんは、無詠唱が当たり前なの? ん?今更だけど、ここに来る客の戦力ヤバくないか? 人間に知られたら討伐部隊派遣されそう...どうにか隠さないと


「そうか。 いや〜流石上位精霊だな。 この調子で頼むよ」 


「はい。任せてください」


意気込むシャーリー。


「次は、この石灰肥料を撒くよ。 これを撒く理由は、雨が降ると作物を育てるのに必要な成分な流れちゃうんだ。 それを調節する為に、石灰肥料が必要になる」


「へぇ〜流石使徒様、よく知っていますね。 私達は自然の恵みに頼っていたので勉強になります」


キャリーナが感心する。


「ワシも知らんぞい。 聞いたこともなかったわ」


「俺も初めてだ。 火乃国でも農業は盛んだが、排泄物を撒くくらいしかしていなかったな。 確かに、育ちのいい場所と悪い場所が存在していたが、そういうことだったのか。農業とは意外と大変で奥が深いのだな」


「俺もプロではないから詳しいことは知らないですよ。 おいしい野菜を求めて生産者を訪ねた時に、そこのおじいさんから色々聞いて勉強したくらいです」


前世のことを話す拓哉。


「また、バルトと師匠頼みます。 混ぜるのは俺達がやっていきます」


順調に混ぜ合わせ作業を進めて行く。


「シャーリーさん出番だよ。 1週間時間を進めてください」


「は〜い」


また手をかざすシャーリー。


「終わりました」


「ありがとう。 次は肥料を撒いていきますね」


その後は、今までと同じでバルトと師匠が撒き、拓哉と女性陣で混ぜていく。 今回も1週間時間を進めてもらい土台は完成した。


「次が完成したら種を植えられますよ。 畝(うね)を作っていきます。 これをすると、水はけと通気性がよくなり育ちやすくする効果があります」


拓哉が見本を見せる。(10センチ程、土を盛り上げる作業)

みんなも、拓哉のを見ながら作業をしていく。


「皆さん、とりあえずお疲れ様です。 あとは、種を蒔いていきますよ。 今回は試しなので、トマトとイチゴの種を蒔きましょう」


区画を分けて左にトマト 右にイチゴの種を蒔く。


「あの〜水撒きは任せてもらえませんか?私は水の魔法が使えますので、綺麗に行き渡らせることができます」


ビーチェは、水の上位精霊のようだ。


「じゃあお願いするよ」


土に手をかざすビーチェ。 次第に土が湿ってきてちょうどいい感じになる。


「ありがとう。このくらいでちょうど良さそうだ」


「よかったです。シャーリーだけで、私は全然役に立てませんでしたからどうしようかと思いました」


シャーリーだけが、時空魔法で役に立っているのを見て焦っていたビーチェ。


「え?耕してくれたり色々手伝ってくれたから凄く役に立っていたよ」


「そう言って頂いてありがとうございます」


本当に役に立っていると思う拓哉。 みんなのお陰でこんな早く畑ができたのだから。


「使徒様、私が時間進めましょうか? そうすれば育ちますよね?」


「そのことなんだけど、途中で受粉て作業があるんだ。 作物にも雄と雌がいて、ある程度育つと雄が花粉という実を大きくする物を飛ばすんだけど、それを雌の花の先端に付ける必要があるんだ。 そうしないと実は育たないから、時間経過だけではどうしようもなくて、解決策があればいいんだけどな」


「僕に任せるんだよ。 生きてる物ならなんでも完全支配できちゃうからね。 完全支配をして、あるじが言ったタイミングで受粉させるようにするんだよ」


おいおい!もうなんでもありだな。 今は、ありがたいけど魔法やスキルがなくなったら生活出来なさそうだな。


「じゃあ桜花頼んだ。 シャーリーさん、難しいお願いですが、成長過程を見ながら時間を進めることはできますか?トマトとイチゴは期間が違うので、まず期間が短いイチゴにしましょう。 あとビーチェさんも、水の調節をお願いします」


「魔力は操作が難しくなりますが、可能ではあります。 やってみます」


「私も、頑張ってみます」


手をかざすとうねうねと動きだし芽が出てきた。 そのままグングン伸びていき受粉可能な状態になる。


「シャーリーさんとビーチェさん、止めてください。 桜花、完全支配を頼む」


「わかったんだよ。 いくよ〜」


急にイチゴの花達がサワサワ動き始める。 次第に雄しべが雌しべに近寄り、ピタっとくっついた。 ある程度、時間が経つと完全支配を解いたのか、イチゴの花達は元の位置に戻り動かなくなった。


「あるじ、受粉できたと思うよ」


「桜花、偉いぞ。 それにしても、こんな凄いスキルを受粉に使うとか前代未聞だろうな」


頭を撫でながら褒める。


「シャーリーさん、そのまま時間を進めてください。 ビーチェさんもお願いします」


「「はい!わかりました」」


徐々に小さな実のような物が出来て、黄緑色の小さな実が大きくなりいびつだが真っ赤なイチゴができた。


「シャーリーさんとビーチェさん、止めてください。 やはりいびつな形になりましたね」


いびつな形なったのは、人工受粉のせいだな。 本来、虫達が花粉を運んで実をつける。そうすると、よく見かけるイチゴの形になる。 何故かは知らないが。


「皆さん、食べてみましょう」


全員がイチゴを取って口に運ぶ。


・・・・だれも声を発しない。 全員が心ここに在らずという顔をしている。


5秒くらい経ち我にかえる。


「うはぁっ!えっ?俺は一体...なんだこの口の中を優しく包み込むような甘さは...」


「おっ?どういうことじゃ!ワシは何をしとったんじゃ。 なんじゃ?なんじゃ?口の中が甘いんじゃ〜」


「僕は、何をしていたんだよ。 ふわぁ〜口の中でイチゴが溢れてるんだよ〜」


「うっ! ここは? 俺はなにを?そうだイチゴを食べたのだった? ん?ん?このとてつもないうまさはなんなんだ」


「イチゴ様イチゴ様〜シャーリーは幸せです」


「ビーチェは、もう他の果実が食べれませんよ〜イチゴ様責任取ってください〜」


「精霊女王の私がイチゴに負けてしまう〜あはぁ〜ん! 果肉のうまみと水分がどんどん溢れて...だめです〜」


みんながトリップしてあり得ない状態になっている。


「これは人を変えてしまう凶器だなぁ。 表現のしようがないくらい旨味が凝縮されて噛んだらジュワ〜と水分が溢れ出して抗えない旨さがある。 果たしてこれを育てていいのか?」


「使徒様、お願いです。なんでもしますから、畑でもっと色んなものを作って食べさせてください」


土下座をする精霊達。


「わかったから頭をあげてください。 そのかわり、今日みたいに手伝って欲しいんですが」


「わかりました。 シャーリーとビーチェはここで畑の管理をしなさい」


え?いや、時々手伝ってくれたらそれでよかったんだけど...2人とも凄く喜んでいるから違いますとは言えない雰囲気だよな。


「「はい! 任せてください」」


「キャリーナさん、2人も上位精霊を居なくなっていいのですか?」


「大丈夫ですよ。 里に帰っても毎日のんびり過ごすだけですから。 使徒様のお役に立てるなら構いません」


精霊女王が言うんだからいいのか。 でも精霊の里がどんな所か気になるよな。 またラリサとアニカと桜花との旅行先が増えそうだ。


「えっと、シャーリーさんとビーチェさんはいいの?精霊は働くのが嫌いでは? あと衣食住しか提供できないけど?」


「使徒様と神獣様と同じ空間にいれるだけで幸せです。 それに、あんなおいしい物が作れるなら働くの苦ではありません」


「私も、全然苦ではないですし、まさか衣食住まで考えてもらえるなんて」


「それならいいんだけど。 バルト、悪いけど早急に2人の家頼めないかな? 対価はウイスキーボトル5本でどうかな?」


「拓哉はわかっとるのぅ。 任せるんじゃ。立派な家を建ててやるわい」


ウイスキー効果でやる気が出たのか、早速鍛治工房に向かうバルト。


「任せた! 桜花も悪いけど、受粉を手伝ってくれないか?」


「任せるんだよ。 おいしいのいっぱい作るよ」


「トマトも同じ手順で作って、今日の晩飯は奢るから食っていってくれ。 もうひと頑張りするぞ」


みんなが、各々の仕事に向かうのだった。

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