第51話 夜の支配者と濃厚でトマトベースのうまいアレ!!
20時
ヴァレリー一家と師匠とバルトは、相変わらず毎日来てくれて今日もワイワイ騒いでいる。 ラリサとアニカが来ていない理由は、基礎訓練が終わり本格的な修行が始まったらしく、疲れて寝てしまっているようだ。
カランカラン
「「いらっしゃいませ」」
入ってきたのは、金髪の髪を後ろで束ねた20代半ばくらいの細い目をした男性である。 身なりも、白いシャツにベストにワインレッドのコートを羽織り、見ただけで金持ちだとわかる。
「久しぶりに魔境に来てみれば、こんな安全地帯が出来ていてビックリ致しましたよ。 それにしても、ここにいる人達は美味しそうな香りがしますね」
今俺たちに対して美味しそうと言ったよな。 なんだこの人?
桜花は、既に拓哉の前に立ち臨戦体制に入る。
そこにヴァレリーが声をかける。
「アーノルド伯爵、そのくらいにしてもらおう。 ここは、私の庇護下にあり拓哉は友である。 手を出すのなら俺も敵となったと思え。 どうする?アーノルド伯爵」
ヴァレリーさんとは知り合いみたいだな。 それにしても、このアーノルド伯爵って人が謎だ。
「これはこれは、ヴァレリー陛下ご無沙汰しております。 まさか、貴方様のご友人とは知らず大変申し訳ございません。 このような強い人間やドワーフに神気を纏う者を見てしまっては本能が抑えきれず...」
「相変わらず白々しいやつだ。 俺が居たことはわかっていただろう。 もしまた同じ発言や俺の居ないとこで手を出してみろ。 お前の支配領域もろとも灰にしてやるぞ」
「フフッ私もバカではありません。 貴方様の物に手を出そうとは思いませんよ。 ですが、そこまで気にいる人間がいようとは、気になりますね〜私もここに通うことにしましょうか」
「好きにしろ。 客としてくるなら俺は何も言わん。 拓哉、何かあればすぐに言え。こいつに、月を一生拝めなくしてやるからな」
ありがたいですが、朝日ではなく月ですか?
「ありがとうございます。ヴァレリーさん。あとアーノルドさんでしたか? 私はここの店の店主をしています拓哉です。 こっちにいるのが桜花です。 料理屋なので何か食べていかれませんか?」
久々に冷静沈着が発動したな。 この状況下でも平然としていられる自分がいる。
「フハハハ、これはおもしろいですね。私にさん付けで呼び、私を前にして平然と話しかけてくる人間が居ようとは、貴方に興味が湧きましたよ。 あと私は吸血鬼のアーノルドと申します。 是非とも貴方の料理が食べてみたいですね」
吸血鬼だったのか。 しかも伯爵って上位貴族だよな。 それにしても、変なやつが来たもんだな。
「好きなお席にお座り頂いて、こちらのメニューからお選びください」
席に座り1枚1枚丁寧に見ていくアーノルド。
「ウイスキーをストレートでくれんかのぅ。 あとつまみはナッツで頼むわい」
バルトが頼む。
「了解、すぐ持ってくるから待ってて。 それにしても最近バルトは、ウイスキーにハマってるよな」
以前はスピリタスだったが、最近は一杯だけビールでそれ以降はウイスキーを呑んでいる。
「これだけ色々な種類があるからのぅ。 飽きるまで呑んで次を楽しみたくなるんじゃよ。 ここは、ドワーフにとって天国じゃからな」
そのやり取りを、ずっと眺めていたアーノルドが注文をする。
「注文をお願いします。 ウイスキーをストレートで!それからつまみをナッツでお願いします。 料理は呑み終わったら注文します」
ドワーフが夢中になる酒が気になったアーノルドが注文する。
「畏まりました。 少々お待ちください」
注文を受けて厨房に行く拓哉。
暫くしてホールに戻ってくる拓哉。
「バルトお待たせ。 いつも通りボトルで持ってきたよ」
一杯ずつ出していたら、ものの数秒で呑んでしまうから今やボトルをそのまま渡すようにしている。
「アーノルドさんお待たせ致しました。 ウイスキーとナッツになります」
ほう〜精巧に作られたグラスに琥珀色のお酒が映えますね。 うん!?酒精は強いですが、甘い香りがしますね。ミードとも違う洗練された香りですね。 では、呑んでみましょう。
ゴクッ
「んんん!? この濃厚な口当たりは何ですか? 甘い?苦い?やっぱり甘い。例えようのない味わいですね。 不味くはない...いやむしろおいしいですね。 ナッツの塩気とカリカリとした食感にも合いますね」
本当に素晴らしいですね。 お酒だけでも、魔王がいる理由がわかりますよ。 実に興味深い人間ですね。 これは、本当に私も通わないといけませんね。
アーノルドが拓哉に興味を持ちだす。
「そろそろ、料理を注文したいのですが、ハヤシライスという物をお願いします」
「は〜い畏まりました。少々お待ちください」
厨房に向かう拓哉。
アーノルドの心情。
説明文を見た感じだと、トマトをベースにしたスープに肉と野菜が入っており、それをライスと食べるとありましたね。 最初は、酒場でよく出るトマト煮みたいな物かと思いましたが、他の客を見ると見たこともない料理を食べていますし、トマト煮なんかではないと私の第六感が囁いています。 これは、期待できる何かが出てくると確信しましたよ。フフッ
そう考えていると、拓哉が料理を持ってきた。 置かれた瞬間、第六感は正しかったと思うアーノルド。
「ハヤシライスお待たせ致しました。 熱いのでお気をつけて食べてください」
ほぅ〜いい香りですね。早速頂きましょう。
パクッモグモグ
「拓哉殿、これはなんですか?今まで食べたどの料理よりおいしいです。 濃いドロッとしたスープに野菜の甘み?なのか?とにかく甘みがあり、嫌ではない酸味もある。 このスープがライスによく合いますね。 食事で感動したのは初めてですよ」
今まで食事は血を飲めば事足りる為、付き合いか気分が向いた時にしか食べていなかった。 ましてや、人間に対しては食事としか見ておらず、同じ人間の拓哉をバカにしていたが、ハヤシライスを口にした瞬間、尊敬すら芽生える人物となった。 思わず殿付けをする程に認めてしまったのである。
「お口に合ったようでよかったですよ。 他にもお口に合う料理がたくさんあると思いますので、いつでも食べにきてくださいね」
「それはそれは、毎日通わなくてはいけませんね。 それと、先程の非礼をお詫び致します。 もし、助けが必要な時はいつでも言ってください」
吸血鬼が人間に頭を下げるなど前代未聞のことである。 だが、常連のメンバーは当たり前だなという感じでうんうんと頷いている。
「気にしないでください。 文化や習慣の違いがあって当たり前です。 ただ、ここで食事をする時は、人種関係なく対等に接して喧嘩などせず、楽しく料理を食べてもらいたいです」
「はい。わかりました。 それがここのルールなら従いましょう。 あの〜...申し訳ないのですが、おかわりのハヤシライスとウイスキーを頂けませんか?」
「畏まりました。 少々お待ちください」
そのまま厨房に行くと、桜花が注文されたであろうお茶を入れていた。
「さっきは守ってくれてありがとうな」
頭を撫でながら言うと桜花は、「えへへ当たり前だよ」と返してきた。
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