第24話 僕と妻とで圧倒的ザマァを仕掛ける①
数日後――ムギーラ国王主催の夜会が行われた。
あらゆる独身女性は今か今かとカズマを狙っており、その瞳はまるで獲物を狩る虎のようであった。
しかし、こちらも負けてはいられない。
ありとあらゆる贅を尽くした美しいマリリンのドレスに見たこともない程の輝かしい宝石。洗練されたそれらは世紀末覇者である妻を美しく輝かせている。
ドラゴンの首すら腕で絞殺すマリリンの硬く、太い腕はカズマの小さき手が乗っており、お互いを見つめ合う視線は相思相愛そのものであった。
カズマの登場に一斉に貴族も令嬢も動き出す。
それを守るようにジャックとマイケルが動く。
1,2,3……合計46人の女性がカズマに近寄る前に吹き飛んだ。
異例の事態である。
それもその筈、カズマのアクセサリーや今回の社交用のスーツには、レディー・マッスルの最強付与師軍団による、徹底した防御……魅了を弾く付与がされていたのだ。
それがまさか物理的に吹き飛ぶとは思っていなかったが、倒れた令嬢たちは皆救護室へと運ばれていった。
一時会場は騒然としたが、マリリンもカズマも何もしていないのを見ている貴族達からは、一体何が起きたのか理解出来ていない。
しかし、彼女たちの親は娘がナニを使っていたのか知っている為、顔面蒼白である。
その貴族達の面々を覚え、後で徹底的に情報を割り出そうと思っていると、各国の要人たちも会場に入り、最後の方ではどこぞこの王族の〇〇……みたいな感じでお偉いさんたちが登場した。
その中には、レディー・マッスルが立ち退いたあの国の女王と王配もいたが、カズマは無視を決め込んでマリリンと仲睦まじく微笑み合った。
ムギーラ国王の言葉が終わり夜会がスタートすると、美しい装いのマリリンをチラチラと見つめるご婦人たちや、相も変わらず仲の良いカズマ達を見て「カズマ殿は素晴らしい男性ですな……ある意味で」と言う微妙な誉め言葉も聞こえてきた。
一応ムギーラ国王の相談役な為、上位貴族の要るエリアには居たが、基本的にマリリンとカズマ達は二人だけの世界に没頭していた。
「本当に素敵だよマリリン……全てが輝いて見える」
「ありがとうカズマ……私も身体がとても輝いているようだ」
「物理的にも輝いて良そうで素晴らしいよ」
「カズマはオーラが既に眩しい程に輝いているさ」
「「フフフ」」
相思相愛溺愛夫婦、ここに極まる。
そんな様子であっても、声を掛けてくる人間とはいるもので、各国の要人たちやどこぞこの王族だったりとカズマとマリリンも忙しかった。
それらが掃けた頃、「マリリンとカズマ」と声を掛けてきたのはムギーラ宰相とその家族で会った。
アルサンは年齢制限で夜会には来ていないが、その後ろには見たことのない男性と、儚げな美少女らしき人物の姿が見受けられる。
「ジャックも久しいな」
「お久しぶりで御座います、お元気そうで何よりです。先日マリリンから受けたダメージは回復しましたか?」
まずはジャックが先制。
第二夫人の話を持ってきたら次は命はないぞと言う脅しでもあったわけだが、一瞬顔を引き攣らせたマギラーニ宰相を無視して儚げな美少女はマリリンに駆け寄った。
「マリリン! 結婚おめでとう!」
「久しぶりだな、マルシェリティ」
「もう! 昔みたいにマリィって呼んで? 他人行儀で悲しいわ」
「他人なんだが?」
「旦那様はお隣のカズマ様ですわね! わたくし、マリリンの従妹のマルシェリティと申します! マギラーニ宰相及び父からの推薦で、貴方様の第二夫人にどうかと言うお話を頂いていますの」
「そうなんですね、必要ありませんお引き取りを」
間髪入れずカズマは笑顔で断った。
これにはマギラーニ宰相及び、マルシェリティの父親も驚き、尚且つ隣にいるマリリンも驚いた様子でカズマを見ていた。
「どうやら僕の好みは貴女のような一般的な人間より、マリリンのような清らかな女性を好むようです」
「まぁ……酷い……っ わたくしが清らかではないと仰りたいの?」
「まず、清らかな人とは愛し合っている夫婦の間に第二夫人として入ってくることを嫌がりますし、第二夫人に宛がうと言われて嬉しそうにすることは無いでしょう。何か裏があるのが鉄則です」
笑顔で答えるとマルシェリティは目を見開き、カズマは尚、笑顔で口を開く。
「それに、あなたの言葉には【悪意】が見えます。あなたに纏わりついている悪意がね」
「悪意だなんてっ」
「マリリンが羨ましいのですか? 確かに羨ましいでしょうね。僕のマリリンは、これ程美しい女性ですから心の底から愛さねば神に罰せられます。それなのに、第二夫人等と失礼極まりない言葉……何と嘆かわしい事か」
「嘆かわしい……」
最早表情を保っていられなくなったのだろうマルシェリティは、今にも憤慨しそうな表情でカズマを睨みつけている。
「それに、貴女ほどの女性が未だに独身と言うのも……何か問題があるご令嬢なのでしょうか?」
「なんて失礼な人なの!?」
「婚約者の一人くらいはいても可笑しくない年齢だとお聞きしておりますが?」
「それは……っ」
「どうなんです? マギラーニ宰相。これほどの女性が何故未だに婚約者もなく独身なんです? 何かしらの事情が無ければ独身のままな筈はありえませんし、第二夫人等と言う中途半端な地位に縋る程、問題がある女性なのですか?」
まさか自分にまで火の粉が来るとは思っていなかったマギラーニ宰相は滝のように汗を流し、「いや、確かに何故いままで婚約者が……?」と今になって気になった様だ。
視線を上げマルシェリティの父親を見ると、あからさまに狼狽えている。
目を細くし、その様子を無言で見つめているとマルシェリティの父親は耐えかねたのか、彼女の腕を掴んで一言も発することなく会場のどこかへ消えていった。
あの年代の令嬢が、今まで婚約者の一人もいなかったと言うのであれば、大問題だろう。
余程の男好きか、余程人に話せぬ醜悪があるか、どちらかだろうと予想できる。
つまり、第一夫人には適さない……と言うナニカがあると言う事だ。
顔面蒼白で「何故……どうして」と呟いているマギラーニ宰相に、小さく溜息を吐いたマリリンが声を掛けた。
「お父様」
「……マリリン」
「今回の事は水に流しますわ。けれど、次……またカズマに女を紹介しようとすれば、お解りですわね? 我がレディー・マッスルの制裁がそちらに向かいますわよ?」
「………心得ておこう」
そう言うとマギラーニ宰相は頭を下げて去っていった。
多分あの後、マルシェリティの父親との話し合いが行われるのだろう。
しかし、何故第一夫人に適さないのかも気になるところだ。
今度聞いてみよう。
一難去ってホッと安堵の息を吐き、マリリンと熱い視線で微笑み合っていたその時だった。
「まぁ。此処は動物園かしら? ゴリラが檻から逃げてきているわ」
随分と懐かしくて聞きたくもない甲高い声が周囲から聞こえ、本人に似あってるつもりのドレスに身を包み、顔を引き攣らせた王配を連れてあの時の女王がやってきた。
さて、第二ラウンドの始まりだ――。
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