第3話 異世界人とボクの金銭的感覚が食い違っている件について。

それから一週間。

斎藤家にホームステイしたマリリンは、この世界の情報を脳に叩き入れた。

異世界で得られた情報は、まさに解明されていない古代文明そのものでもあり、彼らの使う道具や日用品全てが、マリリンのいる世界では発掘されれば信じられない値段がつくものばかりであった。


故に、マリリンは試したくなったのだ。

彼女が異世界で得たスキル――『換金スキル』を。


監禁スキルではないところがマリリンとしては不満でしかないが、この異世界で自分のいた世界でのモノを換金したら、どれだけの金額になるだろうか?

そして、自分の生まれ故郷である世界で、こちらのアイテムを換金したらどうなるのか。

知りたいと思えばやるしかない、寧ろやらない理由などないのだ。



「と言う事で、私の持っているあちらの世界でのアイテムを、こちらの異世界で換金した場合の金額というものを調べたくなってしまった。問題が無ければ一室借りてやってみてもいいだろうか?」

「それは面白そうだな。異世界のアイテムがこの世界の通貨でどれくらいの価値があるのか興味がある」



一週間と言う短い間に、マリリンはカズマとある程度打ち解け始めていた。

それはひとえに、マリリンのぶっ飛んでいるけれど真面目な性格が、カズマとしては唯一の安心材料であったからなのだが、当の本人であるマリリンは知る由もない。



「種類も幾つか決めて換金してみてくれるか? 僕はそれらの記録をとるよ」

「確かに種類は多い方がいいな。アイテムボックスに入っているのは……鉱石類に魔物の素材、あとは薬関係に装備品……」

「ああ、異世界で絶対的に使うであろう装備品に関しては無しにしておいてくれると助かる。装備品やアクセサリー系なんてレアな物を沢山持ってそうだし……」

「では、一般的なアイテムなんかは換金してみよう。まぁ、私のギルドでは秘薬すらも錬金する部署が存在するから、特に問題はないのだがな」



マリリンがリーダーを務める【レディー・マッスル】は、異世界ではトップの座に長年君臨する巨大ギルドであることを、カズマは知らなかった。

各国の貴族から王族までもが薬の依頼や討伐依頼などを、頭を下げて金を山のように積んで頼む……恐らく一番異世界で敵に回してはならないギルドなのだ。

ちなみに、マリリンはリーダーとはいえ、ギルド運営をしているのは基本的にマリリンの兄のジャックであり、全ての部署へスムーズな指示を出しているのはマイケルである。

それは兎も角、二人は元旅館である家をフル活用することにし、大広間を二つ使ってやる事にした。



「では最初のアイテムは、私のギルドが所有する幾つかの鉱山とダンジョンから発掘、または出土することが出来る鉱石類から始めてみよう」

「え? 複数の鉱山とダンジョン持ちのギルドってなに?」

「持ってきている数は少ないが……ではまずこちらのオリハルコンから行ってみよう」

「ゲームで言えばかなりのレアアイテムの筈だけど?」

「レッツ換金!!」



マリリンはワクワクしながらアイテムボックスから取り出したオリハルコンを、スキルを使い換金すると、アイテムは淡く光ると同時に消え、古い畳の上には山のように積み上げられしこの世界での紙で出来たお金が現れた。



「……ああ、うん、何となくだけど、こうなるかなって……思った」



高く積みあがったピラミッド札束に、カズマはノートに震える文字で【オリハルコン】と記入し金額を数え始めた。無論マリリンも出来うる限りの手伝いをする。

そして、出た金額は――30億だった。




「オリハルコン1つで30億……と」

「んん? 金額的には意外と少ない? この程度の金ではカズマを養っていく事など到底できないではないか。オリハルコンはこの異世界では安物だな」

「あ、ちょっと待って。いま色々精神と頭と心がついていけてない」

「う~む……。オリハルコン1つの値段がこちらの異世界では30億。つまり、アイテムボックスに入っている残り9999個のオリハルコンを換金すれば」

「マリリン、それだけは避けて。色々この世界では大変なことになるし、これだけのお金をまずどこに預ける……? いや、隠した方がいいのかを考えた方が良さそうだ」

「しかし、30億程度ではカズマを一生養っていくには、なんとも少なすぎる金額ではないか? 次は違う物を換金してみよう」

「他のアイテムの換金は気になるから続けてみるけど……マリリン、この世界での30億って一人の人間が使うには、一生遊んで暮らしても使い切ることが出来ない金額だよ……」

「はっはっは!! 面白い冗談をいうものだな! いや待てよ? もしや、あまりにも少なすぎる金額に対し気を使っているんじゃないか!? 大丈夫だカズマ、次はもっといいブツを換金しよう!!」



カズマの言葉に嘘はない。

そして、マリリンの感情にも嘘はない。

噛み合わないのは仕方のない事である。



「カズマを安心させるアイテムアイテム……次は薬を調べてみよう。何事も人間生きるには薬に頼ることもあるからな」

「確かにそうだね」

「では、これらのアイテムはどうだろうか?」



そう言ってマリリンがアイテムボックスから取り出したのは【あらゆる身体の欠如を治す秘薬】【あらゆる病を瞬時に治す秘薬】【理想のスタイルを手に入れることが出来る秘薬】【若返りの薬】【ハゲを治す薬】そして……【黄泉がえりの秘薬】だった。



「……」

「これらのアイテムは我がギルドでも人気爆発の錬金術アイテムだ! きっとこの異世界でも人気爆発に違いない!」

「人気爆発なのは間違いないかもしれないけれど、明らかにヤバいから全部アイテムボックスに隠しておきなさい。っていうかこれらのアイテムが大人気とか……もう本当異世界って怖い……」

「おお……泣くのはおよし……。私が不甲斐ないばかりに……せめてこれを換金すれば、カズマが喜ぶだけのお金が手に入るかも知れない」



ダイヤモンドよりも硬い胸板が目の前に迫り、カズマは瞬時に移動してマリリンから距離をとりつつ、彼女の取り出した綺麗な宝石を受け取った。



「これは?」

「永遠の命を得られる秘宝……賢者の石だ。我が錬金術部門でも数年に一度見ることができるかどうかの激レアだぞ!」

「お返しします。そして絶対に僕に使わないでください。そして絶対に換金しないでください」



最早カズマの顔に血の気はない。

寧ろアイテムボックスに普通に入っている賢者の石……と言う、謎の恐怖が残った。

そして異世界人とは、いや、異世界とは、やはりカズマには理解力が遠く及ばない世界だと、悟りを開き始めていた。





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