僕の妻は異世界人で、世紀末覇者のようなマッスルボディの可愛らしい妻です。
udonlevel2
第1話 正座している世紀末覇者を見て二度寝する。
「これで貴様は私のものだ……フフフ……フハハハハハハ!!!」
「せ……世紀末覇者!!」
――この日僕は、現実の厳しさを知った。
★★
僕の名前は、斎藤カズマ。
日本生まれの日本育ち、何処にでも普通にいる男子高校生。
親がかねてより切望していた自然あふれる田舎での生活がしたいと言う事で、母の祖父母……つまり、僕にとっては曾おばあちゃん達が住んでいた田舎へと引っ越してきたのは数カ月前。
バスは辛うじて数時間に一度通るような田舎……トイレなんて今では珍しいボットントイレだった。
それ以上に、元々が旅館だったと言う事もあり部屋数がすんごい。
庭も凄いけど、いつ野生動物が部屋に突っ込んできてもおかしくないような、そんな……言い方を替えれば野性的な家に移り住んだ。
利便性はもちろん最悪。ちょっと最寄りのスーパーまで行こうものなら、車で片道30分は掛かる。オンライン授業が主流になってなければ苦労するところだった。
そして、旅館の隣に建っている頑丈な木々で出来た納屋は二階建てになっていて、もう何十年と人が入っていないのが分かる。
授業が終わると、僕はこの大きな家と納屋の掃除をコツコツ進めていた。
――そんなある日、納屋の二階で、僕は見つけてしまったのだ。
そう……異世界への扉を。
初見で異世界への扉だって分かるってすごくね? って思うだろうけど、巨大な鏡の向こうは僕が映っている訳でもなく、如何にも異世界転生とかそっち系の小説に出てきたりするような光景が広がっていた。
胸躍るよね。
でも、それ以上に困惑するよね。
この鏡を潜ったら一方通行とかない? 大丈夫?
鏡の前で暫く考えたのち、僕は――見なかったことにした。
異世界への憧れはある。
憧れはあっても、現実的ではない。
チートの俺ツエーとか、余裕綽々で敵を倒していく自分が……うん、想像できない。
寧ろ血を見るのが無理。
ノーグロテスク、ノータッチ。これ大事ね。
こうして僕の異世界への道は、自らの力で回避した筈だった。
――まさか、異世界への扉……いや、鏡が……向こうにもあるとは思いもせずに。
★★
翌朝、カズマが目を覚ますと……部屋に巨大な男性が正座していた。
目と心臓の両方が飛び出すかと思った。
目と目があったけれど、カズマは静かに、二度寝しようとした。
「これこれ、ガッツリ目と目があったのに何事もなかったかのように眠るんじゃない」
「いえいえ、お構いなく……」
「話せば短いんだが取り敢えず起きてくれんかな」
「うわ、ぶっとくて硬くて大きな手」
グワングワンと揺さぶられ、観念して起き上がると彼はカズマを見つめ「ほう」と顎を摩った。そんな彼をカズマはシッカリと観察する。
短い金髪に鋭い碧眼……そしてスンゴイ筋肉。眉毛も太い。顔の堀が凄い。
もうなんだよ、異世界から来るなら出来れば巨乳美少女とかにしてくれよ……屈強な男がやってきても誰も得をしないじゃないか。
カズマは落胆し、大きく溜息を吐いた。
「それで……えーっと……」
「そうそう、部屋にある鏡が突然光ったと思って、何となく鏡に突撃してみたらゴミだらけの場所に投げ出されてしまってね! 一応元の場所に戻れるかも試したんだけど、すんなり戻れたから、この際ご近所挨拶していこうかと思って」
「え? 異世界への行き来が出来るのも驚きだけど、異世界とこっちがご近所扱いのその感性って何?」
なんか色々ついていけない。
いや、なんか異世界人怖い。
普通戻れない可能性があるのに、何となく割れるかもしれない鏡に突撃するその考えがマジで怖い。
「ようこそ異世界へ……そしてどうぞお帰り下さい」
「折角異世界に来たというのに、周辺の観光くらいしかしないで終わるとか勿体ない」
「観光したんですか?」
「まさに、辺境の村と呼ぶにふさわしいな!」
異世界人から見ても、この場所って辺境の村扱いなんだ……。
「山におわす野性味あふれる獣たち……毛皮にすればそこそこの値段で売れそうだ。肉質はどうだろうなぁ……昨夜のうちに一匹仕留めてきてお庭を拝借して血抜きして食べられるようにはしているんだが、ご近所への挨拶としては新鮮な食べ物がベストだと兄さんから教えてもらっていたからね」
「庭に……」
徐に立ち上がりカーテンを開けると、どうみても結構大きめな猪です……ありがとうございます。
「いやいやいやいや、ちょっと待って? こっちの人って猪の解体とかやったことある人の方が少ないから!!」
「なんと!! こちらの異世界では肉を食べる習慣がないというのか!!」
「いや食べるけど!!」
「専門ジョブでなくては獣を捌けないとか、そういうことか?」
「んん! 限りなく近いけど限りなく遠い気もする!!」
朝からツッコミどころ満載で二人で叫び合っていると、甲高い悲鳴が聞こえた。
窓を慌てて開けると、朝のラジオ体操にやってきた母が、逆テルテル坊主的にぶら下がっている異世界人からの新鮮な贈り物を見つけてしまったようだ。
これは色々ヤバいのではないだろうか。
「ま―――!! 立派な猪!! ジビエ? ジビエしちゃう? 牡丹鍋!?」
お母さ―――ん!!!
「おお、これは立派な猪ですね。何方が仕留めたのでしょう。何とも手際が良い……」
お父さ―――ん!!!
そうだった、両親結構ズレてる人だった……。
しかしこの現状をどう報告すべきだろうかと悩んでいると、異世界人は窓枠に頭をぶつけない様に屈みながら外に出た。
そこからは……なんか……うん、僕の耳が異世界だった。
両親揃って元々生粋のゲーマー。母に至っては異世界系小説が大好物な人種だ。
異世界人の彼が挨拶しても微塵も動じない。寧ろ母なんて喰い気味に「それ詳しく!!」と目を輝かせている。
あれ……僕一人取り残されてる?
あれ? 普通って、一般的ってなんだっけ……。
それにしても異世界人の背丈凄いな……2メートルは軽くあるんじゃないか? 152㎝しかない小柄な母と並ぶと差が凄い。それに筋肉凄い。もう筋肉だるまって感じ。
「異世界っていっても扉一つで繋がってるんだもの! ご近所よね!」
「こちらの銘菓でも持ってご挨拶に行くべきでしょうかね?」
「是非とも私のいた世界にも遊びに来て頂きたいね! その時は私のギルドから護衛人を何人かつけよう! 無論私がついていっても構わないさ!」
「まぁ!! お父さん聞いた!? ギルドですって!! と言う事は冒険者ランクとかその辺りも凄いのかしら!!」
「よく聞いてくれた! 私がリーダーを務めるギルドの名は【レディー・マッスル】。そして私こそが英雄の称号を持つ最高ランクでレベルマックスの冒険者さ!」
レディー・マッスルとか、全然萌えないギルド名……いやいやちょっと待て?
カズマは地雷に自ら踏みに行くかどうか悩んだ後、好奇心に勝てず聞いてしまった……。
「えっと、レディー・マッスルのリーダー……さん? え? 異世界人……その見た目でまさか」
「見て分からないかい?」
無理がある。
おっぱいってどこ!?
漂うオーラと見た目が既にどこぞの世紀末覇者なんだけど!?
喉元まで出そうだったけれど、覇気溢れる姿に何とか呑み込んだ。
「そう言えばまだ名乗っていなかったな。私の名前はマリリン!! ドラゴンの爪をも通さぬ頑丈な肉体を持ち! ドラゴンのブレスさえも私の咆哮で蹴散らすだけの肺活量を持ち! オリハルコンゴーレム程度なら拳で屠るうら若きの20歳! 現在彼氏募集中!」
ワオウ、聞きたくなかった情報が最後にあったけれど、ワオウ。
どうみても巨大な馬に跨って降臨しているあの人みたいなオーラしか感じない。
僕にはとても、寧ろ何度生まれ変わっても手に入れることは絶対に出来ないと思う。
異世界人はチート持ちとは定番の定番。
けれど、今この場で絶対的に言えることは……マリリンさんは別のベクトルでチート持ちだなと気持ち的に受け入れることにした……。
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