第4話 負の連鎖

 浮気断罪計画書を見てから明さんとまともに話すとが出来なくなってしまった。そして、何より明さんの服を着ていたのを見られてしまって余計に顔を見るのが怖くなって......意図的に生活リズムを変えた。


 普段なら明さんの仕事が休みの日に合わせて私もバイトのシフトを休みにするけど、今は一緒に休みの日を過ごして離婚を言い渡されるのが怖すぎて、私が避けているだけだけど、明さんがどんどん遠のいって心を痛めた。


 唯一の救いは、バイト先に来てくれる真奈美さんがかずき君を連れて来てくれて、私にかずき君という可愛い癒しと今回の事の相談にのってくれる事


「で、あれからどうなの?」

「それが......。怖くてまったく顔も見れないですし、家でもなるべく会う時間を減らしているんです...私が...。」

「誤解を解くとかそんなレベルの話じゃないのね...。」


 真奈美さんに呆れられてしまったけど、私にとってはすごく重大な事だし。それに、これ以上良くない方向に行くのもいや...。


「ねぇ、ねぇ~。光おねぇちゃん。」

「なに?かずき君」


 服の裾をつんつんと引っ張られてかずき君と目線を合わせ、どうしたのと尋ねる。真奈美さんもかずき君の目線に合わせてしゃがんだ為、駄菓子屋の店先で小さな井戸端会議をしているみたいになった。


「あのね、あのね。さっきからあの道の角でね。誰か見てるの!」

「「...えっ」」


 かずき君の一言に驚いて、思わず真奈美さんと顔を見合わせた。


「か、かずき君? ...え? ...誰か見てる?? うそでしょ??」

「ぼく嘘なんてついてないよ! ときどき視線感じるもん!!」

「因みにどの辺?? 今も視線感じる??」

「うん!」


 いや、かずき君そんなに元気よく返事されても......困るのよ。明さんとあまり話せない時にストーカーとか本当に笑えない...。


「光さん最近誰かに付け回されるような覚えはある??」

「いえ、そんな......。お客さんも子供が多いですし...。お子さん連れの家族とか大人一人で来店されることは滅多にないですし...」

「その中でリピーターは??」

「お子さん連れか......。学校の帰りに友達と買いに来る子達とかだけですかね....?」


 普段のお客さんを思い返しても何度も話しかけてくる大人は思い当たらないし、学生さんとか小さい子はよく話しかけて来るけど....みんな元気のいい感じの子しかいないし...


「う~ん....。じゃあ、ショッピングしていてしつこくされたとかは?!」

「買い物に行くときは明さんと行ってたから特には......」

「でも、最近は旦那さんと別行動なんでしょ? 変わった事はない?!」

「近所の人に『最近旦那さんと一緒に居ないけど喧嘩でもしたの?』って聞かれるくらい......?」

「男の人に?!」

「いえ、女の人に」


 本当に身に覚えがなさ過ぎて謎の井戸端会議は迷走状態に入った。そしたらいきなり、かずき君が視線を感じる方に走って行ってしまった。真奈美さんも焦って追いかけ丁度角を曲がったところでかずき君を捕まえたのが見えた。


「だいじょーぶですか!!」

「だいじょーぶよー!!」


 少し距離が離れている為、声をはり二人の安否を確認したところで再びかずき君が真奈美さんの手を振り切り私の方まで走って来た。


「光おねーちゃん!! 悪い人追い払ったよ!!!」

「ありがとう。でもね。危ないからもうやっちゃダメだよ。」

「なんで??」

「悪い人に連れ去られちゃうかも知れないでしょ? それに、中には凶暴な人もいるから危険な事はしないでね」


 悪い人を追い払ったと誇らしげにするかずき君に思わず目を合わせて、もうしないように説明し、かずき君が納得した様子で今度からはしないと約束してくれた。


「でも、ありがとう。かずき君は私のヒーローだね。」

「うん!!」

「でも、今回は逃げて行ったからよかったけど、これからどうするの?」


 真奈美さんの言う通り今後同じような事があるなら本当に相談しなくてはいけないし、そうなると明さんと話し合いをする日を設けなくてはいけなくて.....


「ぼくがだんなさんとお話する?だって、ぼく、おねーちゃんのヒーローだから!!」

「こーら。夫婦の事に他人が口出すもんじゃないのよ」

「ありがとう、かずき君。でも、私がちゃんと話さなくちゃいけない事だから大丈夫!」

「う~ん...。わかった!! でも、おねーさんがつらくなったらぼくが助ける!!」


 まだ幼稚園に通っているかずき君に元気づけられ家に帰ったら明さんと向き合う覚悟を決め


「真奈美さん! 私決めました!!」

「えぇ、なにを??」

「今日家に帰ったら明さんと話し合いします! そして、嘘でした、ごめんなさいっていいます!!」


 私の勢いがすごかったみたいで真奈美さんが少し引いていたけど、正直このくらい気合いを入れないと心が折れてしまいそうで


「えぇ~っと、ほどほどに...ね?」

「はい!!」


 真奈美さんに相談にのってもらい大体の話の流れが出来たので、かずき君を連れて真奈美さんは帰って行った。私は、そのままの勢いでその日の仕事も終わらせ自宅玄関を開ける前にもう一度、気合いを入れなおし”ただいま”と家に入りそのままの勢いで


「明さん!! お話があります!!」


 リビングの扉を開けると同時に勢いよく声を掛け明さんをまっすぐ見るとテーブルの上に豪華な料理とエプロンを付けた明さんがいた。


「おかえり、仕事で疲れたろ。今日は俺が作ったから。さ、食べようか」

「あ、ありがとうございます」

「なんで敬語なのさ。いいから、手を洗っておいで」


 あんな計画書を見る前ならとても嬉しくて無邪気に今の状況を喜べたけど、今はこの豪華な料理が最後の晩餐にしか見えなくて手を洗いながら涙が出そうになった。

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