黒鬼隊
Side 木里 翔太郎
自分達の機体のオーバーホールも無事に終わる。
アインブラッド・レイヴン。
なんだかんだで長いこと一緒に戦場を駆けた機体が一番だ。
背中のレールガン内蔵型バインダー。
両腰部のブレード。
二丁のビームピストル。
ビームライフル。
装甲もピカピカだ。
手毬も桜花の特別装備仕様に戻る。
相変わらずメカ娘みたいな背格好。
ビームライフルにガトリングシールド。
背中の二門のキャノン砲とブレードが二本マウントされた浮遊ユニットも整備されたらしい。
元の機体に戻った俺と手毬は当番制のパトロールに出かけた。
作戦も準備も整い、決行を間近に控えたそんな時に真っ昼間から複数のパワーローダーが此方に向かって来ているのが分かった。
俺達二人は空を飛んで現場に直行する。
『あれは――自衛隊同士の仲間割れか?』
「前回の時といい、内部崩壊が進んでいるみたいね」
だが現場――木々に挟まれた道路に辿り着き、目に見えたのは仲間割れだった。
仲間割れだと分かったのは日の丸のエンブレムを両者とも付けていたからだ。
黒い見たこともないパワーローダー部隊が逃げるパワーローダーや車両に銃弾を浴びせている。
『此方にも攻撃を仕掛けてきたぞ!』
「なんなのこいつら!?」
軽く回避し、俺達は地上を滑走しながら応戦する。空中に飛んでると敵の良い的になるからだ。
敵は黒いパワーローダー。
ローラーダッシュ方式で地面を滑り、実体弾のパワーローダー用のライフルを武器としている。
両肩は厳ついアーマー。
流線的かつホッソリとした感じのフォルムの零戦Ⅱとも違うマッシブなシルエット。
特に頭部の四つ目は日本製ではなく、ヴァイスハイト帝国制ではないかとも思える。
日の丸のエンブレムが無かったらヴァイスハイト帝国だと思ってしまいそうだ。
『数が多い上に腕も立つぞ!!』
「なんなのこいつら――」
俺と手毬は二手に分かれる。
敵も二手に分かれて追撃してきた。
とにかく包囲して確実に仕留めようと位置取りしてくる。
『一機やられた』
『ブルー2、カバーに入れ』
『了解』
味方がやられても特に動揺した様子もなく、無人機ではないかと思える時もあるがセンサーは有人機であると答えを出している。
「自衛隊が助けてくれた!?」
ここで窮地を救ってくれたのが追われていた自衛隊だ。
『こいつらは汚れ仕事専門の部隊だ! 情け容赦なく殺しに来るぞ! 同じ人間だと思わない方がいい!』
「汚れ仕事専門の部隊ね・・・・・・本当なの?」
手毬が尋ね返す。
『ああ――俺達みたいな離反者を殺したり、政府に逆らう奴は民間人すら殺す最低最悪の部隊だ』
「詳しいわね」
手毬はそこを疑問に思った。
『あいつらの後始末手伝わされたんだよ!!』
との事だった。
嘘をついてるようには見えない。
実際こいつら本気で処分しようとしているし。
『取りあえず、味方の増援が来るまで持ち堪えるぞ』
「そうね」
と言いつつ、逃亡した自衛隊達の態勢を建て直す時間を稼ぐ。
『こいつら、自衛隊を狙い始めて――』
「このままだと――」
俺達を包囲して時間稼ぎしつつ自衛隊を狙いはじめた。
このままでは――
その時だった。
『なっ!?』
敵が驚いた。
此方側の増援が来たのだ。
漆黒の機体とグレーの機体。
漆黒の方は両肩にサイドブースター。
背中にバズーカ―とビームキャノン砲。
手にはガンブレードとハンドガン。
比良坂学園チーム、荒木 将一のブラックウォーリアー
グレーの方は機体の各部に銃火器をマウントしている。
肩や背中のバックパック、太もものホルスター。両足のスネ前面にも銃器。
手にはビームサブマシンガンでパーツを付け替えればビームスナイパーライフルになる。
比良坂学園チームで荒木 将一の相棒で纏め役の一人、加々美 瞬のバレットウォーリアー。
ブラッド・リアクターと言うとんでも動力で空中を滑らかに浮遊しながら此方に辿り着く。
二人とも息の合った連携で地上に降りて回避行動を取りながら銃弾を敵に浴びせる。
彼達も伊達に修羅場を潜り抜けてはいない。
荒木 将一が突撃して活路を開き、それを加々美 瞬がサポートする戦闘スタイル。
そうやって二人は生き延びて来たのだろう。
『俺達も続くぞ!!』
「ええ!!」
俺と手毬も反撃に転じた。
手毬のビームライフル、シールドガトリング、背中の浮遊ユニットのキャノン砲。
俺もビームライフルに背中のバインダーの内蔵レールガンを使う。
『は、速い!?』
『先程までとは動きが――』
『我々が捉えきれない!?』
一機、二機、三機。
次々と倒していくウチに、敵が後退していく。
『す、すげえ・・・・・・』
『本当にまだ子供かよ・・・・・・』
助けられた自衛隊も聞き慣れた感想を言う。
☆
助けられた自衛隊は多大な情報提供や支援物資の提供と引き替えに捕虜扱いになった。
まあその方が彼達も気持ちが楽なのだろう。
今回の一連の騒動は自衛隊の内部も相当追い詰められている事を知るいいキッカケだった。
こんなんでヴァイスハイトとまた戦争になったら負けるだろう。
・・・・・・この国はこれからどうなっちまうんだろうな。
☆
作戦前夜。
町を見て回っていた。
なんだかんだでこうして町を見て回るのは初めてかもしれない。
少々寂れていて営業している店も少ないが、比良坂市は活気づいているように思えた。
「こうしていると学生だった頃を思い出すわね」
「そうだな・・・・・・随分と遠いところまで来ちまったな」
「でも死んでしまった人達のためにも、私自身のためにも、もう戻ることも立ち止まることもできない。ただ前に進むだけよ」
「ああ・・・・・・」
昔から手毬はこんな感じだ。
見掛け小学生ぐらいの女の子なのに大人よりも大人びていて。
ただ時折見せる少女らしい一面はあまり見なくなった。
それ程までに過酷な状況だしな。
「私達――元の生活に戻れるかしら?」
「ああ、戻れるさ。とりあえず、高校卒業ぐらいはしときたいな」
「今の世の中で学歴役に立つのかしら?」
「今はな。だけど十年、二十年先どうなるかも分からないだろう?」
「それもそうね。今じゃ戦場に出てドンパチする身だもん」
「ああ」
本当に人生って言うのはよく分からん。
学生時代だったのが随分昔の事のように思える。
中学時代からケンカばっかりして、高校でも相変わらずトラブルに巻き込まれて。
図書室で皆で集まって文芸部状態になったりして。
あの頃にはもう戻れないんだろう。
だけど戻れるのは戻りたい。
俺はそう思った。
「こんな戦い、早く終わらせような」
「そうね――どうやって終わらせるかが問題だけどね」
それが問題だ。
俺たちは国家反逆罪認定されている。
場の流れとは言え、このままずっと比良坂市で反政府活動するワケにもいかないだろう。
絶対何かしらの形で終わらせなければならない。
だがこれからどうするにしても安全地帯のような物はあった方がいいと思っている。
それに――皆を。
この町の人々を守りたい。
この町には竹宮高校や俺たちの関係者だっているのだ。
無関係ではない。
そのためなら
「――これからどう生きるにせよ――どの道、戦わないといけないか」
戦う事を放棄すること。
現状それは死ぬのと一緒だからだ。
☆
Side 手毬 サエ
将来の事。
これから先の事。
考えないようにしてきた。
十年先の未来より今日や明日の事で手一杯だからだ。
これもそれも日本政府の馬鹿どもやヴァイスハイトの前時代的な覇権主義に付き合わされた結果である。
今の日本政府も悪だが、侵略戦争を続けるヴァイスハイトも十分悪辣だ。
日本政府が味方を巻き込んで核兵器を使ってようやく止まった。
だがそれはヴァイスハイトの逆鱗を叩き割る行為。
あの帝国はゼロサムゲームが通用する思考回路ではない。
準備が整い次第、休戦条約を破って再び戦争を再開するだろう。
その時、日本は――そして私達は―――
(やめよう)
今私達が考えても仕方がない。
今は忘れよう。
最初の懸けの日は近いのだから。
☆
Side 天王寺 イチゼン
臨時駐屯地。
艦隊を数隻を集結させ、パワーローダーをはじめとした機甲部隊。
あの町を踏み潰すには十分な戦力だ。
もしも負けてもいざとなったらアレを使えばいい。
所詮あいつらはテロリストだ。
テロリストは何をしてもおかしくない。
その論法なら何をしても許される。
そうしたらついでにあの町を徹底的に焼き払ってやろう。
俺様に逆らった罰と言う奴だ。
☆
Side 比良坂市・武装勢力征伐艦隊提督(司令)
(日本人同士で争っている場合ではないと言うのに・・・・・・どうしてこんな事になったのだ・・・・・・)
私は陸上戦艦のブリッジで心を痛める。
最前線で戦う兵士は心を病んで脱走が相次いでいる始末だが無理からぬことだ。
上は上で少年少女達を戦場送りにした挙げ句、国家反逆罪にしようとしたり――味方もろとも核ミサイルを使ったりやりたい放題だ。
そもそも日本は非核三原則だけではない。
広島、長崎に原爆を落とされたからこそ核を禁止したのだろう。
にも関わらず核兵器を使用して、敵だけで自衛官まで焼き払った。
さらには自分達の都合で斬り捨てた少年少女達を始末しようと躍起になっている。
この土地に来てからも問題ばかりで――特に天王寺 イチゼンとか言う何処の誰かも分からないボンボンが好き放題していると聞く。
あのボンボンのせいで傭兵達は全員出て行ったそうだ。
更には黒の部隊――黒鬼(ブラックオーガ)が脱走兵などを処分して回っている裏で汚れ仕事をしているせいでよけいに雰囲気が悪化している。
これではどちらが大義があるか分かったものではない。
(この戦い・・・・・・負けるやもしれんな・・・・・・)
私はそう感じずにはいられなかった。
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