「あんた、どこかで見たことあるね」

 徹は若い女に声をかけられた。邑子はこの男が恵子と逃げた男だったことを思い出す。

「今度はずいぶん若い子見つけたじゃない」

「でも、犯罪だよ」

 そう言ってニヤつく女のことを徹も思い出した。

「ボディ・ガード兼マネージャーだよ」

「へえそうなんだ」

 翼のまわりがざわついてきた。徹は翼をガードするように男たちを後ろに下がらせる。

「徹さんありがとう」

 翼はギターを片付け始めた。

「それじゃ、帰りますか」

「明日は休みだし、もう少しこっちにいたいの」

「そう言われても、女将さんがねえ」

 徹は立ち去ろうとする邑子をつかまえた。

「何するのよ」

「あの子だけでも預かってくれないか」

「温泉タダにするから」

「温泉って」

「あの子は老舗旅館の跡取り娘なんだ」

「そそのかして連れてきたんでしょう」

「違うよ。ちゃんと旅館に返すんだ」

「こっちに出てきたのも今日がはじめてじゃないし」

「あたしはずっとこっちでいいんだよ」

 翼が二人の間にひょっこり顔を出す。

「それはおすすめしないなあ」邑子が翼の手を引いて言う。

「あんたは先に帰ってな。この子はあたしが預かるよ」

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