第二章

第51話 デルヴィンへ

 デルヴィン学園都市はエルフや獣人たちに向けて魔法を教えるだけでなく、アビリティや魔物、薬、魔道具についても教えているらしい。入学には知識と能力がいるが、俺は別に入学するわけではなかったので心配ない。


 アルコラーダからかなり離れた場所にあるようだ。馬車で2週間かかるというのだから相当だ。


「そんなに無駄にしたくない」


 ヴィネットは店の奥にある居住スペースで、地図を取り出した。


「ハイペリカムに転移の設備がある。そこまで2日かかるけど、まあそのくらいなら良いでしょ」


 転移の設備とはなんだ。

 とても気になる。


 ヴィネットの旅の準備はできていたが、マヌエラと同じように空間に穴を開けて物を詰め込めるようだったから手に持っているものは少なかった。

 良いなあ。俺も使えるようになりたい。


「じゃあ、ターニャ。留守番よろしくね」


 ヴィネットは小さい(ヴィネットよりは大きい)メイドに言った。アニーはつれていくみたいだった。ファンたちはがっかりするだろう。小さいメイドにファンがいれば話は別だけど。


 馬車で2日移動して今まで見た中で一番大きな街に来た。

 ヴィネットは結構有名人らしく門番に挨拶され、通行人に挨拶され、店の人に果実をもらっていた。アルコラーダであんな店を開いているから変人扱いされるのだと思っていたがそうではないらしい。普通に畏敬とか尊敬の眼差しだった。


「色々やったから」


 ヴィネットが言った。

 アルコラーダをでてから彼女は変な色の服ではなく、普通の黒いコートを着ていた。あれは商売用だから、と。そうですか。

 

 転移装置は冒険者ギルドの中にあった。ギルドマスターがいそいそとやってきて案内されると、その部屋には大きなアーチが見たいなものがあった。石で作られていてところどころ何かが埋まっているのか光っている。


「どうやってつかうの?」

「魔力を流せば使える。すんごくつかうけど、ニコラなら三人分くらい簡単でしょ? 『マジックバッグ』をパカパカ開けられるんだから。僕は二人分で精一杯。三人分流したら倒れる」


 倒れられて右も左もわからないこの場所に残されるのは困る。


「これって大きな都市ならどこにでもあるの?」

「何処にでもじゃない。数は限られる」

「ノルデアは?」


 アリソンが行ったその都市について俺は尋ねた。もし転移装置で行けるのなら、一度会いに行っても良いのかもしれないと思ったから。


「ない。特殊なのはあるみたいだけど、一般人の私達は使えない」

「そっか」


 それは残念。


 俺は、アーチに触れた。

『マジックバッグ』を使うときに似ている。革の袋を使う時は中に入っているものが頭の中に浮かんだが、このアーチの場合行き先の候補が頭に浮かぶ。

 デルヴィンもその中にあって選択する。 


 依然マヌエラが空間から物を取り出したときのようにアーチの中にポッカリと穴のようなものが開いている。しばらくすると水面のように揺れ、向こう側が透き通り始めた。


 アーチの向こうはこの部屋と同じような石造りの部屋になっている。デルヴィン側の転移装置につながったのだろう。くぐり抜ければ転移できるらしい。


 アニーが躊躇なくアーチをくぐった後、ヴィネットは俺に忠告した。 


「アーチに入ってから手を離して。体が真っ二つになるから」

「こわ。今言うかねそれを」


 ヴィネットが入った後、俺もアーチをくぐって、急いで手を離して引っ込めた。

 腕が切断されることはなかった。


 アーチの中に揺れていた水面のようなつながりは、しばらくするとすっと暗くなって消えていった。


 ここも冒険者ギルドらしい。部屋から出ると活気に溢れていた。

 獣人だろうが人間だろうが入り混じっているし、パーティを組んでいるふうでもあった。物珍しくてジロジロと見てしまう。


 中にはエルフの姿もあったが、それほど多くない。


「うげ」


 とヴィネットは言って俺の後ろに隠れた。嫌な奴にあったのだろうか。と思っていたら、相手は気づいたようでまっすぐこちらに歩いてきた。

 長身のエルフの男性で温厚そうだったが、かがみ込むとヴィネットに怒鳴った。


「ヴィネット! 何隠れてるんだ!」

「いや……はは……お久しぶりです……師匠」

「30年も顔を見せなかったな。アルコラーダに引きこもりおって」

「すみません」


 ヴィネットは俺の服を掴んで隠れたまま言った。


「師匠はどうしてここに?」

「実験の材料を依頼してたんだ。お前はどうしてここに? 久しぶりに顔を出したからには理由があるんだろうな?」

「ええ、研究の発表に……」


 師匠と呼ばれた彼はそれを聞いて少し驚いた顔をした。


「ほお。前の研究は諦めて新しい研究を始めたんだな? お前はかなり執着していたがあれは結果が出ないからなあ……。新しい研究で結果がでたならそれはそれでいい。私が譲った『精霊の血』も少しは役に立っただろう……」

「あの、前の研究で結果がでたんです」

「……本気で言ってるのか?」


 ヴィネットはコクリとうなずいた。

 彼は頭を掻いて少しその場で足踏みするようにウロウロした後言った。


「ついてきなさい。私の研究室で話をしよう。30年前と変わっていない」


 彼はそう言っていそいそと冒険者ギルドをでていった。

 俺は彼について行きながら小声でヴィネットに尋ねた。


「なんでそんなにビビってるの?」

「30年も連絡してなかったし……全然結果出せないのに執着して喧嘩したし……。いい人なんだけどね」


 怒られるのが怖かったのか。子供かな?

 

 冒険者ギルドからスタスタと歩いて入り組んだ通りを抜けると壁に囲まれたでかい建物がいくつも見えてきた。


 おおすげえ。

 俺は感動して上方を見ながら門を抜けた。


「あ?」


 突然パリパリと音がして、地面から棒が何本も突き出してきて、俺を囲った。俺は反応できずただ呆然と立ち尽くしていた。突き出してきた棒たちは鳥かごのような形になって俺を捕らえた。


 ヴィネットもこれを知らなかったようでぎょっとしていた。


「なにこれ」


 と、血相を変えた騎士たちがやってきて剣を抜き、俺を睨んだ。


「動くな!!」


 なーんか前もこんなことあった気がする。






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