第15話 とある日の夕食時の出来事
「っていうことがあったんだけど、どう思う?」
その日の夜。いつものように瀬凪が腕を奮ってくれた料理に舌鼓を打ちつつ、私は昼間の出来事を伝えた。
「……なんでそれを僕に聞くの?」
すると瀬凪は少し不満げにそう言った。
「なんでって? 別に第三者からの意見を聞いてみたいだけだけど?」
瀬凪の反応の意図がわからず聞き返すと、瀬名は小さくため息をこぼした。
「僕はあまり、そういう話はしたくない」
「そういう話って?」
したくないというのであれば無理にするつもりはないが、それにしたってこの話のどこが瀬凪の気に障ったのかが分からない。
それを把握しておかないと、また同じ話を繰り返してしまう可能性がある。
私は確認のためにそう問い返した。
「そういうは、そういうだよ」
しかし、瀬凪は少しムッとした感じでそう言うに留めた。
「いや、それじゃわかんないって。具体的にどういう話が嫌なのかを言ってもらわないと、こっちも気を付けようがないんだけど?」
別に期待した答えが返ってこなかったことにいら立ちを覚えたわけではないけれど、若干問い詰めるような口調になってしまった。すると瀬凪はしばらく黙り込んだあと、とても小さな声で答えた。
「……だから、好きとか嫌いとか、そういう話」
「え?」
小さな声ではあったが、聞き取れなかったわけではない。しかし、要領を得ない回答に思わずそう言ってしまうと、瀬凪は声を荒げた。
「だから! 誰かが朱侑のことを好きとか嫌いとか、そう言う話だよ!」
「……え、なんで?」
普段温厚な瀬凪のそんな反応に面食らってしまったものの、改めて尋ねる。
「そ、それ……は」
すると瀬凪は答えに詰まり、視線を泳がせた。
「……あの、ひょっとして、さ」
代わりに私が今見た状況から推測したことを口に出そうとすると、瀬凪はハッとして慌てて口を挟む。
「別に違うから!」
「え、何が?」
私が言おうとしたことが何なのか、瀬凪には分かったのだろうか。その正否は判別しようもないが、少なくとも瀬名が推測した私の意見は、否定しなければならない部類のものだと判断したようだ。
「えっと、だから」
見るからに思考をフル回転させているであろう瀬凪。
「うん?」
私は次の言葉を待つ。
「……あの、ごめん。やっぱり何でもない」
良い切り返しが思いつかなかったのだろう。瀬凪はそこで力尽きた。
「……そう」
そこからさらに問い詰めることも出来たけれど、私は自分の思考を整理するためにも深追いはしなかった。
そしてその後は当たり障りのない話をして、私達は夕食を終えた。
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