結婚という名の戦略はありかなしか

第2話 結婚する気はありませぬ

 なぜこんなことになったのか。それを理解してもらうには、まず私がなぜ夫と結婚したのかを理解してもらう必要があるだろう。




 そもそも私にはあまり結婚願望というものがなかった。


 もちろん年端のいかない子供の頃は、漠然といつかは結婚するのだろうと思っていた。けれど、リアルに結婚を意識する年齢になってからというもの、結婚の必要性をあまり感じなくなっていた。


 恋人がいれば楽しい。恋人と過ごすのは幸せだ。しかし、同時に私は自由を愛していた。何かに束縛されたくないという気持ちが強かったのだ。


 それはもしかしたら束縛体質の母親の影響があるのかもしれない。




 実は私には将来有望な兄がいたのだが、小学生の時に病気で鬼籍に入ってしまった。母は嘆き悲しみ、兄へ向いていた期待が私に向かっただけではなく、まるでまた失うことを恐れるかのように過剰に執着するようになったのだ。


 もちろんこれは憶測に過ぎず、もしかしたらもともと束縛体質だったのかもしれないが、とにかくそんな事情もあったので、私も健気に母の体質に合わせようと努力した。


 そうして高校生までなんとか耐えたが、やはり母と離れたくて自宅からは通えない大学に進学した。もちろんその選択は母の猛反対にあったわけだが、そこは父の力を借りて、なんとか母の手をすり抜けたのだ。


 はじめての一人暮らしに不安がなかったわけではないが、それよりも一度味わってしまった自由は、すぐさま私を虜にした。


 誰とどこで何をしようとも、報告する義務がない。いつ帰り、いつ寝て、いつ起きても何も言われない。好きな時間に風呂に入り、好きなものを食べ、好きな服を着て、好きな場所に行き、好きなことができる。


 それがなんと幸せなことか。


 ちなみに、母が三日と空けずにものを送りつけてきたり突然訪ねてきたりというトラブルが発生し、これも父の力を借りて母に内緒で引っ越しをしたとか、母からの連絡が酷すぎて、ついに私がノイローゼ寸前になり、これまた父の力を借りて直接母から私に連絡できないようにしたとか、そんなあれやこれやもあったわけだが、それは本筋とは関係ないので割愛する。


 とにかく私は何より自由を愛してやまない人間へと成長し、それは恋人が出来ても変わらなかった。


 束縛しない、させない。


 それが私の恋人に求める絶対条件だ。


 そして、恐らく最近のはやりで言うところの〝毒親〟に育てられたと言っても過言ではない私がまともな母親になれる自信もなく、また私から自由を奪うことがほぼ確定している子どもという存在を、無償の愛とやらで包み込める自信もなかった。


 ゆえに一般的な結婚像というものが、私にはあまり魅力的に映らなかったのだ。

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