3-3
「……天原、知ってる? テストが終わると何が始まるか……」
机に突っ伏した花崎が、うめくような声でミコトに尋ねる。
六月は雨が沢山降るのに、何故水無月などと呼ばれているのか、と不思議に思ったミコトが片瀬とともにスマホで調べていた時だ。
しとしと、じめじめとした今の気候よろしく花崎は憂鬱そうな顔をしている。
「……何も始まらない。通常の授業に戻るだけだ」
「違うわよ! またテストが始まるのよ! 中間テストはまあヤバい奴は赤点免れたけど、期末は絶対ヤバいわ。このままだと夏休み補習コースまっしぐらだわ!」
頭を掻きむしりながら嘆く花崎に、片瀬は苦笑した。
「まだ三週間もあるのに、そんなに悲観的になるのは早いよ」
「優等生の片瀬クンはそーかもですけどぉ!? こっちは必死なんだっつーの! コツは!? どうやって勉強してんの!?」
詰め寄られた片瀬はうーんとうなってから、少しして。
「……毎日ちょっとずつ予習復習すればいいんじゃないかな?」
「出た、優等生発言! 模範解答すぎて逆に腹立つ!」
マリナの理不尽発言に片瀬はまた困ったように笑った。
「えええ……理不尽だよ……。あとは……苦手なトコを重点的に繰り返し解いてみる、とか」
「苦手だからやりたくないのよー!」
「……とにかく質より量だ大作戦かな。ひたすら問題を解いて覚えるとかさ」
「もっとさ……! 労力とか時間が少なくてすむような効率的なやり方はないの?! こう……睡眠学習的な……」
「……補習、ガンバッて」
「うわああああん! 片瀬に見捨てられたあああ!」
足をじたばたさせる花崎に、ミコトは腕を組んで口をはさんだ。
「花崎、コツを聞いてもやらなければ意味がない。君は普段から勉強もせず遊んでばかりだろう」
ずばりとミコトに指摘されると、花崎はうっ、と一瞬言葉を詰まらせたが、ふふんと得意げな顔をした。
「いや、遊んでないし。あたしは未来のジャーナリストだから、取材とかに余念がなくてさぁ。ホーテーシキだの、インスーブンカイだの、そんな事に脳みそのキャパシティー割いてる暇はないわけ。わかる?」
「よく分からないが、言い訳だけは一人前だな」
「なんですってえ!?」
「なんだ? 聴覚に異常があるのか? 言い訳だけは一人前だなと……」
「聞こえてるわよ! アンタだって現代文のテスト、物語の読解問題全部間違ってたじゃないの!」
「物語の登場人物の気持ちを想像しろ、という問題は俺には理解できなかった。花子は聡い女だから、太郎がクラリネットを破壊してしまった事実を知ってしまったがために口留めに殺害されることを恐れ、太郎の前から姿を消した、と思ったのだが……」
「それは想像じゃなくて妄想よ!」
花崎のツッコミを無視して、ミコトは淡々と続けた。
「そもそも、片瀬の言う通り日ごろから勉強していれば、焦って勉強する必要などない。なぜ焦る」
「うぐっ……!」
「今この時、大騒ぎしている暇があれば、職員室に向かって、君の苦手な科目である数学の担当の東山先生に手ほどきを受けるなど、方法はいくつもあるだろう」
「うげぇ……!!」
「未来がどうこうの前に、目前に控えている期末テストを乗り越えろ。目の前の物から目を逸らすものが、未来を語るなど思い上がりも甚だしい」
「ひぎぃ……!」
ミコトの正論攻撃に耐え切れず、花崎は胸を押さえて再び机に突っ伏した。
「ま、まあまあ、天原。花崎がかわいそうだよ。あんまりいじめてやるなって」
「いじめではない。指導だ。花崎の惰弱な精神を鍛えるための」
どこまでも厳しいミコトの発言に苦笑してから、片瀬はあ、と声を上げた。
「それにテストの前にクラスマッチがあるじゃん。例の事件で延期になっちゃったけどさ」
「クラスマッチ?」
片瀬の言葉に、ミコトが首を傾げた。
「クラスマッチって言うのは、各学年でクラス対抗の球技大会みたいなものでね。これがなかなか盛り上がるんだよね」
「出た、運動バカしか嬉しくないイベント」
顔を上げて、花崎がぼそりと呟いた。
「そう言わないで。結構楽しいじゃん。……ホラ、天原も総合の時間で一緒にサッカーに出場するって決めたでしょ?」
「ああ、そうだったな。……サッカー。覚えているぞ」
御宅田の一件で失念していたが、確かにそんな事があったことをミコトは思い出した。
「確か……妨害をしてくる敵兵を押し退け、人間の頭部ほどのサイズのボールを蹴りながら敵陣の奥地を目指し、敵の要塞に攻め入り、防衛している兵を切り抜けてボールを蹴り込む競技だな。何故ボールが必要なのかよくわからないが」
「うーん。クラスマッチの前にもう一回ルール、教えてあげるね……」
かなり偏見のあるルールの解釈のミコトに片瀬が頬をかいて苦笑していると、花崎はバン!と突っ伏したまま机を叩いた。
「クラスマッチなんてどーーーでもいいのよ!成績にさして影響しないし!あたしは夏休みが補習で潰されないように必死なんだからぁ!」
「うーん……じゃあさ、三人で勉強会でもする? お互い、苦手な科目を教え合うとか。俺も英語、得意じゃないし」
そう片瀬が提案すると、水を得た魚のように花崎が勢いよく顔を上げる。
「楽しそうね! サテンでとか、どう?」
「さてん?」
首をかしげるミコトに、マリナは呆れかえった表情を浮かべた。
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