第15話 スキル獲得 3
休暇の翌朝、木刀を持ったミローが宿にやってきて、一緒に町を出る。
歩きながら昨日疑問に思ったことをミローがバルームに聞く。
「魔物と戦っていれば身体能力は上がっていくみたいですけど、ずっと戦わないと弱くなるんでしょうか」
「下がると聞いている。ただし急激に下がることはないらしい。大怪我をして半年間治療専念したシーカーを知っているが、鑑定の石版で見ても下がりはしなかったそうだ。体感的には若干鈍っていたと言っていたから、見えない部分で若干下がっていたんだろう。そいつは怪我が治って一ヶ月トレーニングなどをやってほぼ元通りになった」
ただしそれは治療できたからで、手足の欠損や目を失ったりすると能力は下がる
「若い頃シーカーで引退して久しい老人も一般人よりは強いから、下がるといってもある一定のところで止まるんじゃないか」
「そうなんですねぇ」
「詳しいことを知りたいならクルーガム様に聞けば教えてくれそうだ」
「いつか聞いてみますね」
どうしても知りたいということでもないので後回しにする。
そのまま西に向かい、魔物と戦う前にスキルの確認を行う。
「ミローは家で木刀を振ってみたか?」
「少しだけ。なんとなく動きやすかったような気がします」
「剣に属する武器を使ったことで無事スキルが適用されたんだろう。クルーガム様が言っていたように俺と模擬戦だ。イレアスはスキルの使い方はわかっているな?」
「うん」
「だったら一度なにも考えずに誰もいない方向に使ってみるんだ」
早速やってくれというバルームに頷いて、イレアスは二人がいない方向へと向いて、手のひらを前に突き出す。
「いけ」
短く告げると、手のひらから幅十センチ、五メートル弱といった距離まで炎が噴き出て、そのまま出続ける。その炎は五秒ほどで消えた。
火が間近だったのに熱くなかった手をイレアスは不思議そうに見ている。
「それが今のお前の通常効果なんだろう。そして今のお前にできるのは、強弱をつけることだそうだ」
「誰かに聞いたの?」
伝聞系なので昨日誰かに聞いたのかと思う。
「本にそう書いてあった。もう一度使ってみてくれ。それで使うときは思いっきり炎が出るように力を込める」
「やってみる」
イレアスは手のひらを突き出し、少しだけ呼吸を整えてスキルを使う。同時に体に力を込める。
今度は幅五十センチを超える炎が噴き出して、二秒ほどで消えていった。距離は三メートルに少し届かないくらいだった。
「今できる一番強いのはそれだな。二回使ってみたが消耗はどうだ? あと何回使えそうだとかわかるか?」
「疲れてはない。何回使えそうかはわからない。ただ力いっぱい使うと、よけいに魔力を使った気がする」
「そうか……今日の課題は通常のスキルを何回使えるのかおおよそ把握すること。明日からはスキル発動を素早く行えるようになること。前に立つだろうミローを巻き込まないように動くことにするか。このあとは模擬戦するからイレアスは待機だ」
「うん」
頷いて二人から少しだけ離れる。
「よし、じゃあ模擬戦開始だ。好きに攻めてくるといい」
「わかりました」
バルームの能力を見て、自分よりも強いことはわかっているので遠慮なく頷いて構える。
バルームはいつもの鎧と小型の盾だ。メイスは使うつもりがないようで腰にある。
なんとなくどう攻めても防がれそうだと思ったミローは、深く考えずに木刀を振り下ろす。それを一歩横にずれて躱された。
「小型ばかり相手していたから、狙いが下方になっているな。もう少し上を狙ってこい」
「はい」
すぐに助言が飛んできて、それに従い上を狙うように心がける。
バルームは頷きつつ、真正面から木刀を振ってくるミローの攻撃を避けていく。
五分ほどそれが続いて、バルームは一度止めた。
「もっと自由に攻めていいぞ」
「自由にですか? 好き勝手やっていたつもりですけど」
「そうか? 目の前に立って、木刀を振り回していただけだ。もっと足を使って動き回ったり、跳ねたり、大振りの攻撃をしたり、騙すような動きをいれてみたり、蹴りを使ってもいい。模擬戦なんだから色々と試して、その中から自分に合ったものをみつけるんだ」
虚をつかれたようにきょとんとしたミローはなるほどと呟いた。
剣法という剣を使うスキルを得たので、自然と剣に拘っていた。でもそれだと剣に縛られていることになる。剣も手段の一つにして、自由にやれという意味なのだと受け取った。
「どうやりましょうか」
バルームは答えない。質問というより自問だとわかったので、ミローを観察するだけだ。
すぐにどう動くか決めて、防御を捨てて勢いよくバルームに接近する。
まずは全力で動いてみることにしたようで、隙だらけの攻撃が続く。
そのような攻撃ではバルームに当てることはできず、すべて躱されていく。それでも攻撃の手は止まらずに三分間全力で動き続けた。
「ラストぉっ」
上段からの振り下ろしが地面を叩く。叩いた衝撃が木刀を伝わって手を痺れさせた。
「ちょっと休憩いいですか」
息を弾ませてミローは聞く。バルームは頷いた。
深呼吸を繰り返すミローを見つつ、バルームはその表情に満足したものを見つけていなかった。
「今の動きだと自分に合ったものはなかったようだな」
「はい。これだなってものは感じませんでした」
「今のところは剛剣ではないんだろう」
「剛剣ってどんなもの?」
イレアスから質問が飛んでくる。
「力を主体にした剣だ。相手の防御ごと叩き斬るような感じだな」
「そういうのってほかにもあるの?」
「柔剣。必要以上の力は使わず相手の攻撃をいなし、隙を見つけ相手の柔らかいところを斬るといったところか。あとは正道を突き詰めた堅実な正剣。相手の裏をかいて、予想外の戦いをする奇剣といったところだな」
「その中だと私はどれにあたるんだろう……奇剣かな」
力は足りず、隙を見つけるような技術はない。正当な剣術を学んでもない、独自の戦い方だ。
「無理に当てはめたらそれになるんだろうが、だからといってそちらに合せる必要はない。そもそも戦っていればどれも必要になってくるからな。臨機応変に使い分けていけばいい」
仲間だったブレッドは剛剣に偏り気味ではあったが、ときによっては柔剣、正剣、奇剣と使っていた。どれか一つに拘る必要はないし、その余裕もなかったのだ。
「ひとまず次の模擬戦で終わりだ。魔物を狩らないとな」
「はい」
呼吸をある程度整えたミローが剣を構える。
どう動くのかバルームはしっかりと見る。
視線を受けながら動いたミローは大きく跳ねて剣を振り下ろす。それは避けられたが、織り込み済みだったミローは下方から剣を振り上げた。それも避けられると、蹴りを放つと同時にその勢いを利用して、真横に木刀を薙ぐ。
攻撃を繋げていくことを意識しているようで、威力は二の次の攻撃を次々と繰り出していく。
その攻撃を一度でもバルームが弾けば勢いが削がれて攻撃は止まるだろう。しかし経験を積ませるため、全て避けていった。
「これでも一度も当たりませんかー」
「まあさすがに凡人といえども、駆け出しの攻撃に当たってやるほど俺も弱くはない。俺はスキルの効果で攻撃の対象とされることが多い。結果色々と攻撃を見てきて、目が鍛えられているからな。防御や回避は得意な方だぞ」
そう言ってバルームはなにかに気づいたような表情になる。
「もしかするとミローの得意なものは柔剣かもな」
「そうなんです?」
「クルーガム様から相性がいいと聞いている。こういった得意分野も似ているからこその指導役の可能性もあるんだろうかってな。ただの想像だから模索は今後もしていくぞ」
「はい」
模擬戦を終わりとしてバルームはイレアスに手招きして、これからの戦闘について話すことにする。
「今日からスキル有りで戦っていくことなる。これまで戦闘時間は二十五分前後といった時間だったが、おそらく十分で終わるようになる」
「いっきに半分ですか」
鼠の魔物にかかる時間がそうなのであって、ダンゴムシの魔物やトカゲの魔物では二十分くらいかかるだろう。それらとの戦いに慣れれば十五分を切る。
「スキルというのはそれだけ有用ということだな。ただしこれまでと同じ戦いはできない。なぜかわかるか」
「これまでと同じというと二人で挟んで叩き合うというものですよね。ああ、そっか」
「気づいたようだな。まだ話すなよ。イレアスはどうだ?」
「私もわかった」
答えはと促されて、イレアスは自身のスキルでミローを攻撃してしまうからと答えた。
「その通りだ。味方に攻撃を当てるというのはやっちゃいけないことだ。築き上げた信頼にひびが入る。それに予想外のところから攻撃が飛んでくるとどうしても動揺する。しかもそれが味方からだとわかると余計にな」
「だとしたら今後は挟んでの戦い方じゃなくて、隣とかに移動すればいいの?」
「移動位置はそのときそのときで変えればいい。魔術師は前にでないで背後とかに位置するのが普通だ。能力と防具の関係上、前衛よりも脆いことが多いからな。今はさほど差がなくても、今後どんどん頑丈さには差が出てくる」
イレアスは立ち位置を想像してみて、すぐに疑問を抱く。
「後ろから攻撃したらミローは気付けなくて当たることもあるんじゃないの?」
「そんなときは声に出して伝えるか合図を出す。もしくは当たらないところまで移動する。攻撃しようとするのがわかる位置まで移動する。このどれかだ。今日のところはどっちに避けてほしいか声に出していこうか。ミローは声を聞いたら、それに従うように」
「はい」
「それじゃ早速戦ってみようか」
一体でいる鼠の魔物を探して、ミローが前、イレアスが後ろといった陣形をとる。
ミローが攻撃をしかける。鼠の魔物を叩いた手応えの違いをすぐに感じ取った。これがスキルの効果なんだなと思いながらさらに木刀を振っていくと、イレアスから声がかけられた。
それに従って横に移動する。
すると鼠の魔物はチャンスと捉えたのか、逃げ出そうとした。
「あ」
「炎、いけ!」
待てと言おうとしたミローの声とイレアスの声が重なる。
炎は逃げ出そうとした鼠の魔物をかすめる。そのまま鼠の魔物は足を止めずに駆けていく。
追いかけようとしたミローに、バルームから止まれと声がかけられた。
「追いかけなくていいんですか」
「あれだけ必死だと追いつくのは難しいし、ほかの魔物と遭遇する可能性もある。いい勉強になっただろう。逃げれることもあるんだってな」
「これまで逃げられなかったのはどうしてですか?」
「挟んで戦っていたから、逃げづらい状況だったんだ。でも今回は正面以外はがら空きだっただろ。だから逃げやすい状況だったんだ」
これまでは挟み撃ちという状況以外に、逃げ道を塞ぐ位置にバルームが陣取っていたという理由もある。
「どうやったら逃げられずにすむの?」
せっかくダメージを与えたのに逃げられたことが悔しいようで、イレアスはほんの少しだけ不機嫌そうだ。
「俺のようにスキルで逃げにくいようにする。壁際とかで逃げ道を塞ぐ。相手よりも素早く動く。このほかに現状でお前たちがやれる方法がある、考えてみろ」
休憩がてら二人は話す。
「どうやろうか」
「これまでどおり挟み撃ちというのは? 私がスキルを使うときだけミローには火の当たる範囲からずれてもらう」
思いついたことをイレアスが口に出し、ミローは問題点になりそうなところを返す。
「ありっぽいけど、魔物が間近にいてスキルを使える? スキルを使うタイミングは隙になると思う。そうじゃなくても近くにいるということは攻撃の対象になるだろうし」
「……スキルは出せそうだけど、落ち着いてやれるかわからない。慌てて合図を出し忘れたり、ミローの避けた方向に火を向けるかも」
それを聞いてミローはバルームを見る。
バルームの表情からは正解といったものは浮かんでいないように思えた。
「今の案以外になにかあるっぽい。考えてみよう」
「うん」
少し話し合った二人には位置をどうこうするといった考えしか浮かばなかった。
これ以上は話しても無駄だと二人はバルームに答えを求める。
「位置をどうこうというのも間違いじゃない。ほかにはミローが石を拾って、魔物が逃げようとしたら投げつけて動きを止めるんだ。さっきもミローの出した火はかすっていただろう? 動きを止めたら当たっていたはずだ」
「そんな簡単なことでいいんですか?」
「石投げってのは誰でもできる有効的な攻撃なんだぞ。弓や投げナイフと違って元手もかからないしな」
「人に投げたら怪我させると思いますけど、魔物に投げても効果あるんでしょうか」
「そこは大丈夫だ。筋力が2あるだろう。十分使い物になるぞ」
そうなんだなとミローは一応納得し、地面の小石を拾い、試しに投げる。
前に投げたのはいつぐらいだったか。記憶に残っている石の勢いと今を比べると格段に今の方が速く勢いがあった。
それを見てもしかしてとバルームは思うことがあった。ナイフを投げたらスキルが適用されるかもしれないと。後日試してみることにして、戦いの続きを促す。
二人は話し合ったことをいかして動いていく。
そうして三戦目の途中で、イレアスが棒を持って魔物の背後に回る。
「どうしたの?」
「魔術をこれ以上使えないから」
納得したミローは意識を魔物に戻して、戦闘を続行する。
戦闘が終わり、休憩中に魔術に関して話す。
「今日一日で魔術を使った回数は通常を八回、強いものを一回の合計九回でいいな」
確認するとイレアスが頷く。
「通常だけだとおよそ十回くらいだろう。今の限界はそこくらいだな。無理すればもう一回くらいはいけそうか?」
「たぶん。あまりやりたくないけど」
「やらんでいいぞ。となると力いっぱいの火は通常の五割増しで魔力を使うとかそういった感じなんだろうな」
「使える回数は今後もその回数なんでしょうか」
「いや魔物を倒していれば魔力も上がっていく。使える回数もそれに伴って増える。だが威力はそのうち足りなくなるから、より多い魔力を使って攻撃していくことになる。戦闘で使える回数はさほど増えないと思っておいた方がいい。仲間だった魔術師も戦闘で十分にダメージを与えられる魔術は一日十五回くらいだった」
工夫などしないただ発動させるだけのスキルの使用回数は増える。しかし今後この雑魚を一撃で倒せない威力で魔物と戦っていくのは不安があるため、魔力をさらに使い威力を底上げしなければならなくなる。
そういった制御や工夫の仕方が、買った魔術の本に書かれているのだ。
もうしばらくは今のスキルの使い方でも大丈夫だが、三ヶ月後くらいには物足りなくなっているだろうとバルームは見る。
そのくらいには本を読めるくらいには読み書きを覚えてもらいたいものだと思いつつ、新たな魔物に二人を向かわせる。
次の日からイレアスのスキルの使い方は一回の戦闘で三回スキルを使って、四戦目からは最初にスキルでダメージを与えてあとは棒で叩いていくといった感じになった。
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