第103話 共食いと異形

『は』

『え……』

『嘘だろ……………………』

『やば…………』


(風鬼が、雷鬼を…….喰った?)


 依然として戦闘が続いているはずの戦場に、バリバリと、まるで煎餅を食べているかのような咀嚼音が響き渡った。


 その風貌も音も、とても気持ちいいものではないはずだ。しかし、なぜだか目が離せなかった。


 歪んだ口から滴る血が風鬼の装いを汚すが、気に留める素振りもない。味わうように長い時間をかけ雷鬼の頭部を咀嚼し終えると、やがて飲み込んだ。


 まさに、絶句。混乱の濁流に襲われたヴァリアンとその視聴者達は、現状をただ見ていることしかできなかった。


 シュゥゥゥゥゥゥ


 そんなヴァリアンの意識を引き戻したのは、高温に熱した刀を池に漬けたかのような音。


 その音源は、風鬼の身体であった。風鬼の身体は煙を上げながら膨張し、ボコボコと波打つ。


 それはまるで、飲み込んだ爆弾が体内で爆発しているかのようであった。


(嫌な予感がする……)


 窮地に陥った敵の変化とは、大抵不吉な物である。実際にそう言った場面に遭遇するのは初めてだが、大抵はそうだと相場が決まっている。


 次々と雷鬼の身体を口に運ぶ風鬼を阻止するため、即座にサラマンダーの炎を放つと、強大な炎の渦が風鬼を包み込む。


『ナイス!』

『やったか!?』

『流石ヴァリアン、判断が早い!』


 高火力に加えて攻撃範囲も広く、長射程なので安全マージンも取れる。サラマンダーの能力は本当に便利で強力なのだが……炎が晴れてみれば、無傷の風鬼が姿を見せた。


(これはまずいな……変身中に邪魔はさせないってか?)


 目を凝らすと風鬼の周囲には雷の障壁が展開されていた。サラマンダーの炎は、その障壁によって掻き消されてしまってようだ。


 もしも、あの障壁が雷鬼の最後の技だったとしたら、こちらのリスクを負わない攻撃で破れるはずもない。


(くそっ、時間がない! リスクを背負うか? 代償系の能力はこちらにもいくつかある。しかし、この後に控えるSSランクとの戦闘を考えると、そう簡単に代償を払うわけにはいかないんだよな……。)


 チラッと防衛側と魔物の戦闘を見るも、戦力は均衡している。手助けは期待できそうにないか……。


 思考している間にも、時間は進んでいく。


 悲しげに死体を抱くその表情とは裏腹に、風鬼は次々と雷鬼の体をちぎり、口に運んでいった。


 ゴクリと喉を鳴らすたび、風鬼の体が膨張し、ボコボコと波打ち、煙をあげる。


 いつのまにかヴァリアンは風鬼の異形化を止めることを忘れ、ひと口、またひと口と、着実に『異形』と化していく風鬼をじっと見つめていた。



あとがき


ここまでお読みくださりありがとうございます!相変わらず忙しくしておりますが、投稿し続けられるよう頑張ってまいりますので、応援のほどよろしくお願いいたします!

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