第62話 脅威のAランク

『名声値が100000になりました。Aランク特典が与えられます』


「はは……嘘だろ?」





 昨日は本当に疲れた。毒龍を100回倒すのに結局20時間程かかってしまい、最後の方は寝不足でテンションがおかしかった気がする。


 Gランクの魔物縛りで毒龍を倒してみたり、「わはは! 俺の剣術は最強だー!」なんて言いながら剣を振り回したりと、かなり狂った行動をとっていたのが記憶に残っている。


 でも、仕方ないよね?だって25時間近く戦いっぱなしだったし、相手はCランクということで命の危険もあった。そんな状況、多少は狂っちゃっても許していただけるだろう。


 そんな狂った状態で毒龍討伐の様子を軽く編集し、『毒龍100体討伐!』というタイトルの動画をアップしてから死んだように眠ったんだったな。


 どんな編集をしたんだろうか。少し、動画を見るのが怖い気がする。


 チラリと時計を見ると、もうお昼になりかけていた。実に40時間ぶりの睡眠だったので、13時間ほど眠ってしまっていたようだ。



 ……さて、回想して現実逃避している場合ではないよな。先ほど頭の中に響いたAランク達成通知の経緯を確かめるためにも、『毒龍100体討伐!』の動画を確認することにしよう。


 恐る恐る動画の再生ボタンをポチッとタップする。


 うわぁ……これはやばい。いつのまにかプチ目標にしていた100万回再生を突破しているし、10万以上の高評価が届いていた。


 確かにいい行いをしたとは思うが、ここまでバズる要素があったかは疑問が残るところだ。 


 その辺を確かめるためにも、大量に届いているコメントをビビりながらチラ見していく。


『掲示板から来ました! 僕たちの治療薬のためにこんなに頑張ってくれてありがとう!』

『あなたは私たちの希望だ! 余命3日だった娘も助かるかもしれない!』

『私のパパを助けてくれてありがとう! 一生応援します!』


 これは、怪林病が治った人とその親族からのコメントかな?なるほど、病気が治った本人だけでなく親族も俺をフォローしてくれたなら、あのファン数の伸びも納得できるところではあるな。


 コメントを一つ一つ読んでいく。


 数万人からの感謝の言葉が綴られていて、全て読むのはとても大変だが読んでいてとても気持ちがいい。それに、昨日の自分が報われた気がする。


 やはり、感謝されるというのはいいな。金を荒稼ぎしてしまい、若干罪悪感のあった心が浄化されていく。

 

 

『100回討伐耐久はえぐいwwwwwwwwwwww』

『強すぎだろ流石にwwwwwwwww』

『え、つい数ヶ月前までGランクだったってマ?』

『流石にかっこよすぎwww』 

『しかも、行動動機が治療薬のためって……これは惚れるやろ』

 


 さらにコメントを読んでいくと、『毒龍100回討伐!』という内容に釣られてきた人たちも沢山いるようだった。


 

『雷電龍! 雷系統の血縁だからビビッと来たわ! また見たい!』

『うっわ、この動画いろんな種類の魔物見れるし、流石に需要ありすぎ』

『それな、リピ確定』


『てか、89回目の討伐のとこ見た?Gランク縛りでCランクの魔物討伐は流石に草wwwwww』

『見た見た! なんというか、技術さえあれば自分みたいな雑魚スキルでも……って思わされちゃった』

『わかる。諦めてたけど、冒険者始めようかな』


『俺は、52回目のリッチ単独で倒すところが気になったかな。リッチに変身した瞬間、指輪が杖になったんだよ! アイテムまで変身すんの!?』



 確かに、十数時間に及ぶダンジョン攻略の動画などはたまに見かけるが、20時間を越える周回動画はなかなか見かけないものである。


 そして、そんなクソほど長い周回動画があまり存在しない理由として、見ている側もやっている側も飽きてしまうというのが大きい。

 

 しかし、多様な魔物とそれによる多彩な戦術を見せられるところが俺の強みであり、飽きが来てしまう問題を解決できた要因でもあるようだ。


 どんな魔物がかっこよかっただとか、今後どんな魔物を見せて欲しいだとか。そんなリクエストのコメントまでが届いていた。


「グッ、ふふふ」


 つい、気色悪い笑い声が漏れてしまった。


 今回のことでファンは増えるだろうと思っていたが、増えてもせいぜい数千人だと思っていたし、それでもものすごく嬉しく思っていた。


 しかし、流石に十数万人が一気に増えるのは予想できないだろう。


 ついこの前Bランクを目標に頑張ろうと気合を入れたところなのに、もうAランクを達成するとは……


 Aランクになったことはとても嬉しいことだ。

しかし、大勢の人が俺のスキルや行動で楽しんでくれていること、喜んでもらえているということが、なにより1番嬉しかった。



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