第38話 呪と聖

 そろそろお会計をしようかと思い、カウンターへ近づくと声をかけられた。


「安い買い物じゃねえぞ?考えなしにスキル付与の効果を外そうってわけじゃねえんだろうな」


 もしや、心配してくれているのだろうか。たしかに、他の人が同じことをしていたら自分でも一度思いとどまるように言うかもしれない。


「もちろんです。スキルが結構万能なので、他のスキルは特に得る必要がないんですよね」


「ほう、万能ときたか。そいつはいいな。例えば、どんなことができるんだ?」


「んー……そうですね。たとえば、呪いも扱えれば聖光も扱えますよ」


 両腕を悪魔と天使に変化させ、実際に軽く力を使って見せる。


「ほう、対極にある2つを扱えるときたか。ちょうどいい、呪いを扱えるなら、俺の依頼を受けねえか?」


「依頼ですか?」


 ここにきて依頼ときたか。呪いが関わる依頼は大抵危険なものだという偏見しか持っていないが、どうだろうか。危なさそうなら断ろう。


「おう、無理なら断ってくれて構わねえが、呪いのアイテムの加工をしなくちゃならなくてなあ。そいつを手伝って欲しいんだ」


 報酬は弾むぜ。と続けて言った。


 んー。アイテムの加工か。それなら、ほとんど危険はなさそうだな。具体的に何をするのか聞いてみて、平気そうなら受けてみよう。


「具体的には何をすればいいんです?」


「そうだな、俺がアイテムの加工をする間、一時的に呪いが発動しないように制御しておいてほしいんだ。

 

 しかし、聖光を使って呪いを弱めたり、浄化して呪いを消したりはしちゃいけねえぞ。加工したら、また呪いを戻さなきゃならねえからな。」


「なるほど」

 

「もう一度言うが、できないなら全然断ってくれて構わない。そっちの制御が甘ければ、俺にも命の危険があるのはわかるだろ?」


「そうですね……それも承知した上で、任せてください。俺があなたを聖光で包んでおき、万が一呪いが暴走したとしても危険がないようにしておきますから。」


「……考えたな。万能者ならではの案だぜ。それに、制御の方も自信がありそうだな。それじゃ、頼むぜ。こっちだ。」


 ガルフさんの後に続き、呪いのアイテムのところまで歩いていく。ガチガチに封印具で固められているが、それでも微量の呪いが漏れ出ているのが見える。


 かなり強い呪いのようだな。張り切ってかかろう。


「外すぜ」


「はい」


 ガルフさんが鍵で封印具を外すと、即座に紫色のオーラが指輪型のアイテムから噴出されていく。


【呪の悪魔】【守護の天使】


 左半身が凶悪なオーラの漂う悪魔へ、右半身は聖なる光を放つ天使へと変化した。


 自身の呪いの力でアイテムにかけられた呪いを包み込んでいく。これで、一時的に力を封印することができるはずだ。


 それと同時に、守護天使の聖なる光でガルフさんを包み込む。これで、万が一のことがあっても安心だ。


「呪いの制御、終わりました。20分くらいは持ちそうです」


「おう、呪いのオーラが一切なくなった。完璧だぜ。10分もあれば終わるからよ」


 10分か。それなら結構余裕を持ってできそうだな。アイテムの加工でも見学させてもらおうか。


 何をしているのかと手元を覗き込むと、指輪型のアイテムを腕輪に加工しているようだった。


 詳しいことは全くわからないが、何か刻み込んでいるのを見るに、呪いの調整なども行っているみたいだな。


 その後も作業は順調に進み、8分ほどだったところで無事に終わったようだ。


「ありがとよ、いい呪術師が見つからなくて困ってたところだったんだ。助かったぜ」


 前まで仕事を頼んでいた熟練の呪術師がいたそうだが、数ヶ月前に遠くに引っ越してしまって困っていたらしい。


「いえいえ、こちらこそいいアイテムを買わせてもらえてありがたいですよ。」


 これは本音だ。同じレベルのアイテムをショップで買おうものなら倍の値段はかかっただろうし、送料と改造料まで込みにしたらだいぶ値段がかさんだだろう。


「そういやぁ、アイテムを買いに来たんだったな。あれ、半額でいいぜ」


「え!呪い関係の仕事とはいえ、8分程度の手伝いでそんなにいただけませんよ」


 金はいくらあっても困らないからな。これはありがたい申し出だが、流石に断っておこう。


「いいや、見事な仕事だった。呪いを扱っておいて、あれほど安全な作業場は初めてだったぜ。それと、あれはBランクの呪いだったし、60万前後が相場だろう。」


「そうですか?ではありがたくいただきますね」


 相場か。そう言われると何も言い返せないな。どうせ報酬としてお金を受け取るならば、ここでの割引に当てても変わらないか。


 冒険者ギルドの仲介料金や手数料がなくなる分、お得に報酬をもらえるしありがたい。


「おう、こちらこそありがとよ。またなんかあったら頼むぜ。そういや、冒険者だと言っていたな、名前を聞いてもいいか?」


「依頼を受けたのに、名乗るのをうっかり忘れていましたね。ヴァリアンといいます」


「がはは、俺もさっきまですっかり忘れてたぜ。ヴァリアン、またこいよ。次もサービスしてやるからな」


 そう言った彼は、清々しいほどの笑顔を浮かべていた。最初の怖そうな印象はもうどこにもない。これは、心を開いてもらえたと考えていいのかな。


















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