第27話 事故物件と浄化

 さて、住居の方の用紙も確認して書き終えたところだ。所要時間は1時間ほどかな。


 書類を書くのはやはり疲れる。先程の受付の元へ戻り、さっさと家に行って休みたいところだ。


「書き終わりました。お願いします」


 先程の受付に戻ると、美人魔族受付嬢の窓口はまた空いていたので書類を提出した。


「……はい、確認できました。こちら冒険者カードとなります。」


 先程入力した個人情報に加え、Gと刻まれた鉄の薄い板が渡された。これが魔界では身分証になるのか。


 人間界では、ランクごとにカードの素材が変わっていたが、ここでは鉄の板で統一されているそうだ。ランク差別を受けてきた身からするとありがたい話だが、これは単純にコスト削減な気がする。


「ありがとうございます」


「……住居の方ですが、ご希望の条件の物件ならいくつかご紹介できるのですが、こちらの金額ですと一軒しかご紹介できる物件がないですね。」


 そして、そちらの物件はダンジョンになりかけの危険地帯として定められています。と、彼女は続けて言った。


 なんでも、昔そこに住んでいた人が地下で非道な人体実験を行っていたとか。そのせいか怨念を持った悪霊系の魔物が大量に住み着いてしまっているらしい。


 ダンジョンから魔物が溢れることはないし、街中にダンジョンができたところで何か困ることがあるわけでもないので、放置されているそうだ。


「なるほど……悪霊ですか。ちなみに、危険度はどのくらいですか?」


「ギルドによる調べですと、Bランク程かと思われます」


「Bランクですか……それなら、何とかなりそうです。契約をお願いします」


 Bランクで、しかも住居という一定の範囲から動くことのできない存在たちだ。それなら、俺1人でもどうにかすることができるだろう。


 訳あり物件に住むことは人間界でもよくあったし、特に抵抗はない。さっさと霊を払って、巨大な一軒家を手に入れよう。


「本当によろしいのですか?」

 

「はい、お願いします」


「それでは、契約金の50万ゴールドと仲介料1万ゴールドをいただきます。」


 51万ゴールドを受付嬢に渡し、家の鍵と契約書類を受け取った。さっさと休みたいし、さっそく幽霊を退治しに行こうか。


 教えてもらった通りに道を行くと、不気味で巨大な一軒家を発見した。確かに、今にもダンジョン化しそうであるので、ここで間違い無いだろう。


【聖熊】


 聖者を喰ったと言われている熊、聖熊に全身を変化させる。


 この魔物は小さく、とても元が凶暴な熊だったとは思えないような見た目をしていて、その見た目通り攻撃力は皆無に等しい。


 聖者を喰らった罰として、神に力を取り上げられたと言われている。

 

 しかしその反面、浄化能力は聖者のそれにも匹敵するレベルで、Cランクの魔物にしてAランクの魔物にも負けない浄化能力を持っている。

 

 ということで、早速魔力を操作し、聖熊の能力を発動させる。


 能力が発動すると、聖なる黄金の光が邪悪なオーラを放つ一軒家に降り注いだ。


 そのまま1分ほど経っただろうか。家に漂っていた邪悪なオーラは消え去り、何か威圧感を放っていた者たちも居なくなったように感じる。


 鍵を開け家に入ってみるも、敵意や殺気は感じられず、悪霊の姿も見当たらないな。うん、完全に浄化できたのではないだろうか。


 念のために1日継続する浄化結界を発動しておこう。それにしても、あまりにも静かで呆気ない終わりだったな。


 霊は火や水など他の魔法でも討伐できるが、それらの魔法で倒すのに比べ、浄化能力で昇天させてあげると、霊たちも苦しみを覚えることなくすんなりとあの世へ旅立ってくれるという説もあるが、どうやら本当のようだな。


 今まで試したことがなかったのが悔やまれるな。この家で長年苦しんでいた者たちへ黙祷を捧げ、住居の見回りを始めた。


 

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