第3話 夫の浮気

「ご主人が女性と会っていそうな時って、心当たりありませんか?」


 ある。


「毎週金曜日は、仕事でかなり遅く帰ってくる。休み前は忙しいと言ってる」


「あやしいですね」


 それで、金曜日に夫を尾行することになった。


 尾行すると言っても、私の仕事が終わってからでは間に合わない。

 休みの日でないと。

 太陽デイサービスは日曜日が休み。あとは平日をローテーションで休んでいる。私は週5日パートに入っているので、平日の休みは1日しかない。

 来週の金曜日が休みだったので、その日に尾行することになった。

 ユウくんは、休みを変更して合わせてくれた。

 こんなことにつきあわせていいのだろうか?


  ※ ※ ※


 金曜日の午後5時、私とユウくんは夫の会社の前にいた。目立たないように距離をとり、物かげにかくれた。

 間違いだったらいいのにな。

 私の勘が間違っていれば……。そう私は願っていた。


 それほど大きな会社ではない。出てきたらすぐに分かる。

 そう思っているとさっそく夫が出てきた。

 金曜日は仕事が忙しいなんて、やっぱりうそだったんだ。


「あの人よ」

 私はユウくんに伝えた。

 そっとつけると、夫は電車に乗った。

 家の方向だ。

 このまま、家に帰るの?

 私はわずかに期待したが、その思いはすぐに裏切られた。

 夫は一駅で降りてしまったのだ。


 夫はそのまま夕暮れの道を一人で歩いていく。

 私とユウくんは距離をとりそっと後ろをつけていく。

 だんだんと悪い予感が現実のものとなっていく。

 もういい。

 もう、帰りたい。

 そんな思いとは裏腹に、目はじっと夫の行動をとらえている。


 人通りが少なくなり、私たちが塀の影で立ち止まっていた時、夫が小さなマンションの階段をのぼっていった。

 じっと、その姿を追う。

 二階で立ち止まった夫が呼び鈴をならす。

 スッとドアが開き、夫がその中に入っていった。


「何号室か、確認してきますね」

 ユウくんはそう声をかけてきたが、私は何も答えられずにいた。


 こんな無様なところをユウくんに見られてしまった。

 こんなことがみんなに知られてしまったら、もう職場には行けそうにない。


「201号室でした。表札は橘と書いてありました」


 タチバナ……。

 知っている名前だ。

 たまに夫の口から出てくる名前。

 職場の同僚女性がそんな名前だった。


「どうします。もうしばらくここで待ちます?」


「ううん、もう帰ろう」

 私は後悔した。

 いろんなことに後悔していた。

 夫のあとをつけ、現実を知ってしまったこと。

 ユウくんをこんなことに付き合わせてしまったこと。

 ユウくんってどこまで信用していいの?

 秘密は守るといっていたけど、本当なの?


 すべて消しゴムできれいに消せたらいいのにな。

 そう思いながら小さなマンションの前で立ちつくしていた時、優くんが話しかけてきた。


「これから、軽く飲みにでも行きませんか?」


 軽く?

 ちょっとその言葉に引っかかりながら、こう返事をした。

「付き合ってくれるの?」


「もちろん」

 ユウくんはあの笑顔を見せてくれた。

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