九月三十日
暇を持て余している俺たちの所に豊和がカラフルな数字や矢印が書かれたカードゲームを持ってきたのは、かれこれ一時間ほど前のこと。お菓子や缶コーヒーを賭け金にダラダラと五回戦目に突入した時に豊和が徐ろに口を開いた。
「俺、前哉が退役する前に『泣いてくれるのか?』って聞かれたんだけど」
「うわ、前ちゃんめんどくさい彼女みたい」
「てか前ちゃんって久しぶりに聞いたし、言った!」
久しぶりに聞いた兄の名に弟と一緒に思わず笑ってしまう。話を遮られた豊和は唇を少し尖らせカードを無闇にシャッフルする。
「話聞いて」
「はい」
「ごめん」
居住まいを正せば豊和は満足したようでカードをシャッフルする手を止め続きを語り始めた。
「俺、その時は『分からない』って言ったし、実際泣かなかったんだけどさ……ゆみたけ居なくなったら泣く、かも」
「あ、『かも』なんだ」
「泣くなよー、ただでさえロービジになって薄い艦名が消えるぞ」
「そのくらいじゃ消えないって」
機雷と向き合うような顔をして言う豊和を揶揄えば、豊和の唇が再び尖り出す。素直で甘え上手で甘やかし上手。このムードメーカーは、これからあと十年は掃海隊を支えていくのだろう。
「騒がしいなー」
「ほんとにな」
明日になれば。
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