平成三十年

八月


 【ゆげしま】と【ながしま】はうわじま型掃海艇の最後の二隻であると同時に、海上自衛隊の最後の掃海管制艇でもある。うわじま型のほとんどは平成に生まれ、平成の間に役目を終えたが、【ゆげしま】と【ながしま】だけは新たな元号を迎える予定である。そして俺はそのうちの【ゆげしま】の方である。通名は弓哉ゆみちかだ。

そして、今年の春に最後の兄と入れ替わりにやって来た弟【ながしま】こと長哉たけすけはわざわざこれ見よがしに、俺の部屋でアルバムを広げている。一緒に見たいなら素直にそう言えばいいのに長哉は俺の口から言わせたいようだ。

「長哉、なに見てるの?」

「遠いとこまで来たなーって思って」

「ああ、もうマストが二本あるの俺らだけだもんな」

長哉の捲るアルバムには見慣れた兄たちの顔や、先輩たちの顔がある。今まで俺達の辿ってきた道を切り開いた先達だ。

「もう、俺達の前に道はないんだな」

長哉がふと呟く。

「俺達の後に道ができるんだよ」

「そうだな」

長哉の手の中のアルバムは最後のページ。そのページにはまだなにも貼られてはいなかった。


 その道を行くものはもういないけれども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る