自殺願望のあるお嬢様の監視役を任された俺は間違って「恋人になってくれ!」と言ってしまった。
倉之輔
第1話 自殺願望のあるお嬢様
俺は今とある女子の監視の任務を遂行中だ。あくまでも監視だから。ストーカーではないからな。勘違いしないで欲しい。
そして対象が今俺の隣の席に座った。どうして俺が監視をしているかは後日話すことにして。
「おはよう、華恋さん」
「……おはよう、間宮くん」
キラッと白いを歯を見せた笑顔も華恋さんのクールなオーラの前では無力だ。
「今日はいい天気だね。ねぇ、華恋さん」
「そうだね」
「こんな日はどこかに出掛けたくなっちゃうな」
「間宮くん、学校をサボるのはダメよ。この学校には一日休む事に各教科の点数が一つずつ減っていシステムがある。つまり五日も休んでしまったらテストが始まる前から既に95点ということになってしまうのよ。そんな間宮くんを私は見たくない」
「誰もそんな心配して欲しくないし、こんなに長く話して欲しいとも思ってなかったよ!」
華恋さんの長い話にツッコミを入られずにはいられなかった。
「あら、そうだったの。それは失礼。それならどう答えれば良かったのかしら?」
「華恋さん、普通に話せないの?」
「普通とは?」
華恋さんが思わず首を傾げる。
「普通っていうのは、ほら。さっきの話の続きだと、「私もそう思うわ」的な感じで返すのが普通なんじゃない?」
「なるほど。ありがとう、間宮くん。勉強になったわ」
「どういたしまして」
今話していた女性が監視対象の
成績優秀、スポーツ万能。腰まで伸びた艶のあるクリーム色の髪が特徴である。おまけに綺麗に整ったすらっとした顔、誰が見ても美人と言うだろう。
「ところで、間宮くん」
「なんだい、華恋さん?」
「どうして急に私に話し掛けるようになったの?」
「え……?それは……」
俺は華恋さんの言葉に動揺を隠せなかった。それもそのはず、俺は華恋さんと話したことがほとんどない。
そんな俺がここ数日の間にストーカーのように話しかけているのだから言われて当然のことである。
「早く答えて貰ってもいいかしら?それとも何か、いかがわしい理由があって私に近づこうと思ったの?」
「そ、それは違うよ!」
「それなら何が理由なのよ?」
ここで俺が華恋さんの監視役であることを自供してしまうと全てが終わる。今の人生も、そしてこれからの人生も全て失うことになる。それくらい俺の任務は重い。
「じ、実は……華恋さんがあんまり人話しているところ見たことないなと思ってさ!それで俺で良ければ話相手くらいにはなるかなって」
「そうなのね。私のことを思っての行動なら感謝するわ。でも、余計なお世話よ。間宮くんには沢山のお友達がいるじゃない。そんなお友達との時間を割いてまで私なんかと話をする価値は無いと思うのだけれど?」
「俺に友達が多いことは事実だけど、俺は純粋に華恋さんと話がしたいんだよ」
「その理由は?」
「なんでもそうやって理由を付けたがる癖やめなよ」
華恋さんは基本一人でいる。入学当初は話をかける人も多かったのだが、日数が経つごとにその人数は減っていった。
それは今述べた通り、華恋さんが何かと理由を付けたがるからだ。遊びに誘われたり、友達になろうと言われても華恋さんは「どうして?」や「理由は?」としか言わない。
皆はその態度に嫌悪感を抱き、華恋さんは入学してから今日まで孤立状態である。
「理由がなければ私は納得出来ない。納得がなければ私は人を信用出来ない。私に話をかける理由は皆同じだった。私の容姿を見て話しかける男子達、勉強もスポーツも出来るから群がってくる女子達。内面を見ずに外見だけで判断するような人と私は友達になるつもりはない」
「それじゃあ、ここ数日俺と話してくれていたのはどういうことなんだ?」
「そ、それはあなたのことを私が少しだけ信用しているからよ」
「信用?俺は華恋さんに何もしていないぞ?」
「教室での立ち振る舞いを見ていれば分かるわ。間宮くんは人の心を考えて行動出来る素晴らしい人間だもの。それは並み大抵の人間に出来ることじゃないわ。だから私はあなたの話を聞いてあげていたのよ」
華恋さんは机に肘を付き手の平に頬を乗せて軽く微笑んだ。
俺は初めて華恋さんが笑ったところを見た。
「俺のこと見ててくれたんだね。なんか嬉しいな。ありがとう」
「べ、別にお礼を言われる筋合いはないわよ……」
窓の外に顔を向けた華恋さんの頬は少し赤くなっていた気がした。
それにしても、華恋さんが俺のことを見ていたなんて驚愕だ。
* *
放課後、俺は先生に頼まれて理科室へと向かっている。華恋さんは一人で帰ってしまった。
華恋さんにも一緒に来ないかと誘ってみたのだがあっさりと断られた。
「さてと、頼まれたプリント持って行って俺も帰るか。今日の報告もしなくちゃいけないしな」
俺は理科室の扉を開けた。
「……え?」
「……は?」
俺の目に映ったのは帰ったはずの華恋さんだ。そして、その華恋さんは天井から吊るされたロープに首を通そうとしていた。
「……えっと、し、失礼しました」
俺は一礼して逃げるように扉を閉める。あれだよな、今のって首吊ろうとしてたんだよな。でもどうして華恋さんがそんなことを。
ひとまず、見なかったことにして一時撤退とするか。
「……間宮くん……見たわね?」
「え?うわっ!び、びっくりした……」
僅かに開いた扉の隙間から華恋さんがこちらを睨んでいた。
「そんなところで立っていないで中に入ったらどうなの?」
「で、でも……」
「いいから、入れ」
「は、はい!」
華恋さんの威圧的な態度に圧倒された俺は理科室へと入る。
「それでここに何しに来たのかしら?」
「俺は先生に頼まれて、その教卓の上にあるプリントを取りに来ただけだよ」
「そうなのね」
「か、華恋さんは一体何を?」
「見たら分かるでしょ?自殺よ、自殺」
椅子に座り、呆れた表情で俺を睨みながら華恋さんは言う。
「なんで自殺なんか……」
「人生がつまらないからよ。勉強もスポーツも出来るのに、一体他に何をすればいいのよ。私は大抵のことは一発で出来てしまうわ。そんな楽しみのない人生で生きていてもしょうがないじゃない」
「それなら友達を作ればいいじゃないか。そうすれば今よりも楽しい生活は少なからず送れると思うけど」
「朝も言ったでしょ。私に友達は必要ない。それじゃあ、今から自殺の続きするから。私が死んだのを確認したら先生を呼んできて頂戴」
なんだよ、その遺言は。死んだのを確認したら先生を呼んでこいって。
そんなの俺は死んでもごめんだね。
「華恋さん待って!早まらないで!」
「嫌よ。私は今日ここで死ぬのよ」
華恋さんは先程と同様に椅子の上に立ち、ロープを手に待つ。
どうすれば華恋さんを助けられるんだ。俺は非凡な脳をフル稼働させて考える。
そして、俺の口から出た言葉は――。
「華恋さん!俺の恋人になってくれ!」
「……はい?」
「……え、あ、今のは違くて!」
焦った俺は必死に弁明をしようとする。どうして「恋人になってくれ」なんて言ったんだ。自分でも理解出来なかった。
「良いわよ。なってあげる」
「え?」
「だから、間宮くんの恋人になってあげてもいいわよ?」
「えぇ~~~~~~~~~~!」
俺は華恋さんの返事に驚倒する。
「ちょっと何もそこまで驚くことないじゃない」
「驚くに決まってるじゃん!友達は作らないのにどうして彼氏は作るのさ!?」
「私、恋愛だけはまだ未経験なのよね。何でも出来る私に果たして恋愛は一発で成功出来るのか興味があるのよ」
意味が分からない。俺達はまず友達ですらないゆえに、ちゃんと話始めたのは本当にここ数日のこと。そんな俺と恋人になるなんてこの人は何を考えているんだ。
「その相手が俺でいいの?」
「間宮くんから言い出したことじゃないの。私は間宮くんのお願いを引き受けたに過ぎないわ……それにあなたなら私は逆に嬉しいの」
最後の方はボソッと呟いた感じだったので俺には聞き取れなかった。
「それじゃあ、もう自殺はしないの?」
「そうね。付き合っている間はしないことにするわ。でも、もしこの恋愛が上手くいかなかったら私は本当に自殺するから。覚悟して挑んでね」
華恋さんの言葉ひとつ、ひとつの重みが半端ではない。生きることに対して、ここまで真剣に考えている高校生は華恋さんだけだろう。
「わ、わかった。華恋さんの人生のためにも頑張るよ」
「期待してるわ、間宮くん」
こうして俺は自殺願望のある華恋さんと恋人の関係になり、より一層監視の任務も遂行しやくすなった。しかし、俺も恋愛経験は皆無だ。何をどうすればいいか分からない。
とりあえず家に戻ったら恋愛について調べよう。全ては華恋さんの命を守るために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます