約束
シャワーを浴び部屋に戻ると結衣は机の上の鏡に向かった。
俊輔の言葉を頭の中で反芻する。
「可愛いと思うけどな…だって!」
声に出すと余計嬉しくて恥ずかしくなる。
急に肌が調子が悪いような気がして、前に買ったまま1度使っただけのパックを探し出す。
鏡を見ながら丁寧に顔に合わせる。
何をしていてもドキドキする。
ベットに仰向けに寝転がり今日1日を思い出していると、机に置きっぱなしのスマホが着信を知らせる。
ドキッとして慌てて起き上がりスマホを手に取る。
画面に中学の時の、部活の友達の名前が表示されている。
「なんだ…あずみか…」
ガッカリしながら電話にでた。
「もしもし?」
「結衣!?久しぶり!元気だった!?」
変わらない少し高めの声が聞こえる。
「元気だよー!本当久しぶりじゃん。急にどうしたの?」
昨年の夏にみんなで遊んだ以降だ。
電話をかけながらパックがズレないように鏡を見る。
「結衣、成瀬兄とどうなの!?」
「何!?突然!!」
急な質問に声が上ずる。
「いやぁ、いい加減告ったかなぁ?って」
「まだ…だけど…」
つい声が小さくなる。
「結衣のことだから、そんなことだろうと思ったぁ」
電話の向こうであずみが笑っているのが分かる。
「もう!そんなことで電話してきたの!?」
せっかくのいい気分が台無しだ。
「ごめん、ごめん!怒らないでよ」
あずみが慌てて機嫌をとる。
「ねえ!少し前に出来た駅前のカフェ行った!?」
「オープンしたのは知ってるけどまだ行ってない」
結衣は話しながら再びベットに寝転がる。
「マジ!?あそこで成瀬弟バイトしてるよね!?この間行ったらいてさぁ!めちゃめちゃカッコよくなってたんだけど!元々キレイな顔立ちしてたけど、大人っぽくなっちゃって!ちょーイケメンじゃん!」
あずみが興奮気味に捲し立てる。
「へぇ…。葵あそこでバイトしてんだぁ」
結衣が関心なさそうに答えると
「ちょっと!何そのテンションの低さ!」
あずみが文句を言う。
「えー…だって…」
あれだけ嫌われてて興味を持てって方が無理だ。
「まぁ、いいけど!結衣は完全に兄一筋だもんね!」
あずみの言葉に結衣が照れる。
「まぁね…」
「でね!結衣にお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「4人で遊び行けるように誘ってくれない!?」
突然の話に結衣が首を傾げる。
「誘うって誰を?」
「成瀬兄弟に決まってるじゃん!」
「えー!?」
結衣が思わずベットから飛び起きる。
俊輔は誘えるとしても葵は絶対無理!
誘ったところで来るとも思えない。
「無理!無理!私が誘ったって葵は絶対来ないよ!」
「そこを何とか頑張ってよ!お願い!」
あずみが無茶を言う。「ダメならダメで諦めるからさ。結衣だって成瀬兄と遊び行きたいでしょ!?」
それはそうだけど…。
俊輔の家に行くことはあっても一緒に遊びに行ったことなんてほとんど無い。
「うーん…。でも遊びに行くって言ったって何処行くの?」
「それ!」
あずみが嬉しそうに声を上げる。「夏なんだからやっぱ、プールでしょ!?」
「プール!?」
「そう!可愛い水着きてさ!」
「プールはダメ!」
「なんでよ!?」
結衣の言葉にあずみが意義を唱える。
まさか、俊輔のことを言う訳にもいかない。
「だって…水着とか無理だし…」
咄嗟の言い訳を口にするが、あながち嘘でもない。
「はぁ!?中学生か!夏、女の子が一番可愛く見えるのは水着姿だからね!」
あずみが呆れ気味に声のトーンをあげた。
「そんなこと言ったって…」
俊輔をプールに誘うなんて無理だ。
俊輔のことだから誘えば来てくれるかもしれないけど。そんなのきっと全然楽しくない。
「シーシティってプール知ってる?」
あずみが構わず話を続ける。
「アスレチック一体型プールなんだって、なんか今デートスポットで人気らしいの!」
「デート…」
急に顔が熱くなる。
「ね!絶対楽しいって!」
そりゃ…俊輔と一緒にそんなとこで遊べたら楽しいだろうけど…。
「うーん…」
「結衣もそろそろ本気でいかないと、今度こそ成瀬兄、誰かに取られちゃうよ!?もう17なんだから!中学の時のくっついた離れたとは違うからね」
結衣が言葉に詰まる。
あずみは相変わらずはっきり物を言う…。
「今でさえ結衣と成瀬兄の経験値は天と地の差なんだから」
「そんなに言わなくてもいいじゃん…」
結衣が落ち込んだ声で拗ねる。
そんなの私が1番解ってるし!
「ちょっと大人っぽい水着きて意識させなきゃ!プール入るのが嫌ならアスレチックで遊んだっていいしさ!」
「まぁ…確かに…それならいいかなぁ」
「じゃぁ決まりね!」
あずみの声が弾む。
「でも!本当葵、無理かもしれないからね!」
結衣が念を押す。
俊輔に頼んんでも8割…いや9割…来るとは思えなかった。
今日だってあんなに悪口言い合ってきちゃったし…。
「そしたら3人で行こうよ!私が結衣のキューピットになったげる!」
「なにそれ」
結衣が笑う。
「でさ!その前に一緒に水着買いに行こ!ケーキくらい奢るからさ」
結衣は結局あずみに押されて俊輔達をプールに誘う約束と、人生初になるビキニを買う約束をさせられて電話を切ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます