06_目玉

 ガタッ。


 鳶野とびのは、飛び台から身を投げて輪っかの中に飛び込んだ。縄が首に触れて一瞬引き締まる。


 なんだ、おかしい。私は、死んだのか。いや、死んでない……身体が、落下してない!浮いている!浮いているぞ!


 鳶野の行いは、失敗に終わった。彼が身を投げた瞬間、黒い影から無数の手が伸びて、彼を止めていた。


 影から、手が伸びている。なんだ、なんだ、なんなんだ!私の邪魔をするのか。私は、死ぬことする許さないというのか!


 影から伸びる無数の手に、身動きを封じられ、鳶野はひどく動揺する。


 体に力が入らない。私の体ではないみたいだ。手も足も、思うように動かせない。まるで、この手に力を、吸い取られているような変な感覚だ。


 彼は身体に何度も力を入れて逃れようとするも体に力が入らない。そんな中、近くの影から、ゆっくりとなにかが姿を現す。彼の方まで巨大な胴体が伸びる。


「うっ、うあああああああ!!!!化け物、化け物だ!!!」


 鳶野は今まで見たこともない未知の存在を目の当たりにし、心底から湧き上がった恐怖を、声にする。

 彼の目の前に現れたのは、影の化け物ダーカーだった。


「目玉ほしい……目玉、目玉ほしい……目玉」


 ダーカーは、虚ろな表情を浮かべる顔を鳶野に、近づけると、そう何度もつぶやく。


 目玉がほしい。何を、何を言ってるんだ。


 影の手が、鳶野の左目の方に、寄っていく。ダーカーの言葉と、彼の目玉に忍び寄る手に、これから何が起こるのか予感した。


 もしかして、この化け物、私の目玉をほじくり出そうというのか。


 恐怖で身体は震え、顔は青ざめる。呼吸は、荒れて次第に早くなる。


「目玉、目玉、目玉……」


 ダーカーは、そう言った直後、漆黒の胴体から複数の目玉が生える。生えた目玉は、焦点が定まらず色んなところを見ている。それぞれの目玉は、形が異なっている。


 目玉が出てきた。目玉の色や形が違う。もしかして、この化け物が抉り出してきた人たちの目玉なのか。私の目玉もこの中に加えられるというのか。


 その直後、ダーカーの手が、彼の左の目玉をえぐり始める。


「あ、あああああああ!!!やめろ!!!やめてくれ!!!」


 鳶野の目玉に、鋭い影の手が突き刺さり、抉っていく。彼は、身体に体が入らず、抵抗しようにもどうすることもできない。ただ、ダーカーに自らの目玉が抉られて行くところを、見ているしかない。


 ポタポタポタ。


 鳶野の左目から、血が流れ落ちて地面を赤く染める。


 ダーカーは、興味深そうに、ほじくり出した彼の目玉を見たあと、大きな口を開けて一飲みした。


 奪われた。私の左目を。


 なんだろう。不思議な感覚だ。私は、死を望んでいた。


 しかし、今、私が抱いている感情は……。


 ただひたすらに生きたいという感情だった。


 左目を奪ったダーカーは、ゆっくりと鳶野の方を見て呟いた。


「右目、右目、右目……」


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