16_揺れ動く心

 僕たちは、ダーカーの中にいるのか……。


 四方八方しほうはっぽうから、複数の目玉ににらまれている。少しでも変な動きを見せれば、何をされるか分からない。


「やっと、人間を私のもとに来させることができた」


 脳内で、ダーカーの言葉が響く。直接、黒瀬たちの頭の中に、話しかけているようだ。


 ダーカーの声が聞こえた直後、黒瀬たちは落下が止まり、水に飛び込んだかのように身体が浮く。


 落下が止まった。


 だけど、うまく動けない。


 この状況で、ダーカーに攻撃されたら、ひとたまりもない。


 黒瀬は、身動きがうまくとれない状況に、考えを巡らせる。

  

 なんとか、影力を使って対抗するか。

 

「まて、私は、お前たち人間に危害を加えるつもりはない」


 ダーカーからは、敵意を感じなかった。二人を魂を食らおうということではないらしい。精神が安定しており、落ち着いた雰囲気も感じる。


 ダーカーは、久々に来た人間に興味深そうに見ている。


「危害を加えるつもりがないということだけど、僕たちをどうする気なんだ」


 黒瀬が、そう問いかけるとダーカーの声がした。


「私は、この暗闇の中を何千年も彷徨さまよい続けている。もう彷徨い続けるのは嫌なのだ。そこで、君たちに頼みがある。どうか私を殺してほしい」


 ダーカーの意外なお願いに黒瀬たちは驚き戸惑う。


 ダーカーが、そんなお願いをするなんて……。


 本当に、このダーカーの言うことを信じても大丈夫だろうか。


 だけど、敵意は感じない。


「僕たちは、君のことをよく知らない。よかったら、何故、そんなお願いをするのか教えてほしい」


 黒瀬の問いかけに、ダーカーは奇声を発し、目玉をしきりに動かせる。


「うう、うううう!!!分からない。私が何者なのか。何故、ダーカーになってしまったのか。私は、どうして、ここにいる……。私とは何なのだ!!!」


 先程まで落ち着いていたダーカーは、ひどく心が揺れて情緒じょうちょが不安定になっている。果てしない時間が、ダーカーの過去の記憶を暗闇に埋もれさせていた。ダーカーにとってとても大切な記憶でさえも。大切なものを失った喪失感そうしつかんがダーカーの心を強く締め付ける。


「い、息が苦しい……」

  

 黒瀬は、周りの酸素が次第に薄くなっていくのに気づいた。


「朱音、大丈夫か?」


「ええ。今のところ……大丈夫。ダーカーは、何とかしないと……このままだと、やばそうね」


 朱音もまた、うまく呼吸ができず話すのでさえ、大変な状況だ。意識が朦朧もうろうとし、なんとか意識を保たないと、気を失ってしまう。


 動揺して、しきりに目を動かすダーカーを黒瀬は見た。


 なんとか、このダーカーを落ち着かせなければ。


 それができなければ、僕らは死ぬ。



 


 


 

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