13_朱音の決意

「もう彼女は私の知る彼女じゃない。姿だけじゃない。心までダーカーに乗っ取られてしまっているように感じる」

 

 紅園は、変わり果てた出雲いずもの姿を見て言った。


「ダーカーが単にその彼女の姿に変わっているだけではなくて?」


 紅園は、首を横に振り答えた。


「私も、ダーカーが姿形すがたかたちを変えて、私をまどわしているのではないかと考えが過った。でも、あのダーカーから感じるの。かつて私を救ってくれた彼女の存在を」


 紅園は、ダーカーの中に眠る出雲の魂を感じていた。そして、ダーカーと彼女の魂が溶け合い、もうすでに彼女を救い出す手立てはないことも直感していた。


「僕は、君のことも、その彼女のこともよく知らない。だけど、このまま終わる訳にはいかない。僕たちで、あのダーカーを倒そう。生き残るにはその道しかないと思う」


 黒瀬は、地面に倒れる紅園に手を差し伸べた。紅園は、一瞬、その手を掴むことをためらったが、覚悟を決めて彼の手を握りしめた。


「ええ、影隠師としてダーカーを倒さなければならない。ダーカーがかつて私を救ってくれた大切な人だとしても」


 紅園は、立ち上がり影を操り、鎌を作り出すとダーカーの方を見た。


「どうして、朱音、私を殺そうとするの?私はあなたを救った命の恩人よ。恩をあだで返すつもり。この人でなし!」

 

 ダーカーから出雲の顔がにょきっと現れて、紅園に心を抉る残酷な一言を浴びせかける。


「あなたはもう私の知る出雲佳織じゃない。私は影隠師の一人としてあなたを倒す!」


 紅園は、出雲の辛辣しんらつな言葉にも負けずに、戦う意志を示した。


 空は曇天どんてんに包まれて、薄暗くなった花畑に不穏ふおんな風が吹き荒れる。風に乗って、はかなく花びらが舞い、これから訪れる望まぬ戦いの始まりを告げる。

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