08_過去の痛み

 黒瀬は、今まで体験してきた数々の痛みを感じていた。


 足をぐねった時の痛み。 


 誰かに殴られた痛み。


 自転車から転倒した時の痛み。


 階段から落下した時の痛み。


 車と衝突した時の痛み。


 身体的な痛みだけではない。心の痛みも、同時に流れ込んできた。辛辣な言葉が、深く突き刺さり黒瀬の心を酷く抉る。


 どうしてあなたはこんなこともできないの。


 うざい。消えろよ。


 あいつ、いじめられてるんだって。


 正義のヒーロ面するからだ。だから、お前は……。 


 過去に、言われた言葉。耳を塞ふさぎたくなる言葉だ。


 他人から言われた言葉に、ずっと左右されて生きてきたのかもしれない。誰かの期待に応えなければならない。誰かを失望されてはいけない。そんな生き方を今までしてきた。 


「己の暗い過去と向き合うのはつらいだろ?逃げ出したいだろ?逃げてもいいんだぞ」


 玉座に座る人物は、光の球に、近づく黒瀬に話しかける。


 黒瀬は、想像を絶する過去の痛みを全身で感じながらも、構わずまっすぐ前を見て光の球に向かって一歩ずつ着実に進んでいく。


「過去の痛みなんかに負けてなるものか!!!」


 光の球に向かって、黒瀬は、手を伸ばす。猛烈な痛みが、黒瀬の身体と心を襲い、身体が見る見るうちに傷つき、軋んだ音を立てる。


「う、うぅ……うあぁあああああ!!!」


 黒瀬は、痛みに抗うように叫び声を上げ、光の球一点だけを見据えてただひたすらに手を伸ばしていく。


 過去の痛みに負けず進む黒瀬の様子を見て、玉座に座る人物は、黒瀬に問いかけた。


「なぜ、お前は辛い過去を向き合っても前に進むことができる?何がお前をそこまでさせるのだ?」


「辛いさ、苦しいさ。でも、僕が目指すものは過去にはないから……辛い過去を乗り越えた先に、きっと良い未来がやってくるって信じてるから、前に進むんだ!!!」


 そう叫んだ直後、痛みに耐えながら伸ばした黒瀬の手は、ようやく光の球にたどり着いた。すると、光の球が輝きを増し、真っ白な光で周囲の闇を染める。


「まさか、本当に光の球までたどり着くとはな。面白い。これでお前は、消滅を免れただけじゃない。お前の中に眠る力が目覚めるだろう」


「僕の中に眠る力だって」


「目覚めれば、気づくはずだ。影を操る力の存在に」


「それって、つまり……」


 黒瀬は男に問いかけようとした時、真っ白な光に包まれる。


 それは心地よく温かい光だった。


 光に包まれながら、黒瀬は自分の中に眠る力が、激しく熱く燃え上がるのを感じていた。

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