04_嫌な予感

 黒瀬は、紅園のことが心配になり身を隠している大木を強く握りしめる。


「このダーカー、身体を変形させて変幻自在へんげんじざいに攻撃してくる。厄介やっかいね」


 ダーカーから放たれた球体は、彼女に近づくに連れて、丸みを帯びた形からとげが生えた形状に変わっていく。すさまじい速度で、トゲトゲの球体は、彼女に一斉に迫る。だが、紅園は、構わず、ダーカーの元へ走り続けた。


 紅園は、迫りくる球体を軽やかに回避して走り抜けていく。彼女を襲う複数の球体が彼女を横切った瞬間、一斉に半分に裂けて消滅する。


「何が起こったんだ。もしかして、一瞬で、球体を鎌で切り裂いたのか」


 紅園を襲う球体が、わけも分からず一刀両断される光景に、黒瀬は茫然とする。黒瀬の目では、彼女の早わざを捉えることは難しかった。


 紅園は、瞬時に持っている鎌を使って球体を切り裂いていた。影を操作し作られた鎌は、自由自在に形状や長さを変形させられる。それも、彼女が、イメージした形に、瞬時に変形する。彼女の多種多様たしゅたような攻撃パターンと瞬間的な形態変化によって目にも止まらぬ攻撃を可能にしていた。


 彼女が近づいていくと、ダーカーが目を赤く輝かせ、再び殺意に満ちた凄まじい叫び声を上げる。


「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあああああ!!!」


 ダーカーの歪な叫び声に、黒瀬は、あわてて、両手で耳をふさいだ。


 なんて、威圧感のある叫び声なんだ。


 彼女は、ダーカーの叫び声をものともせず、鎌を強く握りしめると、ダーカーに視線を向けて迷わず直進する。


「朱音……」


 黒瀬は、心配になり、彼女の名前を呟いていた。嫌な予感がした。彼女は、強い。きっと、ダーカーを倒せるはずだ。そういう気持ちがある反面、なぜだか分からないが、嫌な予感がしてならない。


 紅園を一人、ダーカーと呼ばれる未知の存在と戦わせてしまっている事実が、ひどく黒瀬の心をぎゅっと締め付ける。


「ダーカーのところまで来た。やれる」


 紅園はダーカーのところまで幾度ものダーカーの攻撃を回避し、なんとかたどり着くと、両手で強く握りしめ、鎌にありったけの力を注ぎ込む。

 

 紅園が力を込めた鎌は、禍々まがまがしい紫の光を放ち、曇天で薄暗くなった花畑を照らした。


「これで終わりよ!」


 紅園は、力強い叫びとともに、鎌をダーカーの身体を目掛けて思いっきり振った。その直後、凄まじい破壊音と衝撃音が周囲にとどろき、大気を揺らす。数メートル離れた黒瀬のところにまですさまじい突風が押し寄せる。


 黒瀬は思わず腕で顔を覆い隠し、前から吹く突風を防ぐが、腕を這い上がってきた風と音が、目と耳に沁みた。目を細め、彼女の方を見た。


「どうなったんだ……」


 紅園の懇親の一撃で、砂埃が地面から巻き上がって様子を黒瀬は彼女の様子を確認することができない。


 あの化け物を倒したのか……。


 黒瀬は、唾を飲み込み、紅園とダーカーとの戦いの行末を覆い隠す砂埃すなぼこりが晴れるのを待った。   


 相変わらず嫌な予感がしてならない。嫌な予感が現実になってほしくはないが、たいてい、このような予感は、的中してしまうものだ。

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