第15話 シャルナの決意(第一章完結)

【シャルナの家】


 シャルナの啜り泣く声だけが家の中に響き、ヴィルドレットの亡骸を抱き締め、ただただ悲しみに暮れるシャルナ。


 人から愛される事に憧れ、ずっと夢見てきて、そして、ようやく叶ったと思った。


 シャルナは想像する――ヴィルドレットからの愛の告白を受け入れた後、二人で共に歩む人生がどんなものだったのかを……


 まず、己が『終焉の魔女』と呼ばれる存在である時点で、人並みに幸せな生活は送れなかったであろう。


 それでも、この家に一緒に住んで、二人だけの時間を過ごし、愛を育み、もしかしたら子供なんかも授かったりして……。そんな生活が待っていたのかもしれないと思うと涙が止まらない。


 一度は掴み取ったかに見えたその幸せは幻だったかのように一瞬にして消え去り、シャルナは再び『夢』から『現実』へと引き戻されるが、今更もうこの『現実人生』を孤独ひとりで歩く事は出来そうに無い。


「……ゼルダ。」


 シャルナが、呟くと、眩い光が家中を激しく照らし、神々しいまでに光輝く人形ひとがたのシルエット――最高神ゼルダが現れた。


「君からボクを呼ぶなんて珍しいね。 それにしても……うん。今回は本当に残念だったね」


 シャルナはヴィルドレットの亡骸を見つめながらゼルダへ感謝の意を伝える。


「……ありがとう……ゼルダ。 あなたのお陰なんでしょ? クロが人間に生まれ変われたのは」


「本当はダメな事なんだけどね……『ニンゲンになりたい』とあまりにしつこいもんだから、つい……。この男なら君の事を幸せにしてくれると期待していたんだけどね……」


「この人――クロはまた、生まれ変われるの?」


「そうだね。また、百年後くらいかな。」


 ゼルダの答えにシャルナは、「……そう。」と一言だけ返す。

 ゼルダはシャルナが今考えている事を悟ったかのように続ける。


「この男……いや、この『猫』の事だ。 百年後、また君の前に現れるさ。そして、その時にこそ幸せにしてもらいなよ。」


 『百年待てばまた会える。』


 そんな保証どこにも無い。しかし、ゼルダなりの精一杯の励ましの言葉。


 ゼルダのその言葉が気休めに過ぎない事を知った上でシャルナは再び感謝の意を伝え、


「ありがとう。ゼルダ……でももう、私疲れちゃった。あと百年……頑張れそうに無いよ。だからお願い……」


 そして、シャルナは最初で最後の頼み事をゼルダに託す――


「『不老不死』の加護を解いて。」


「……本気かい?」


 頷くシャルナにゼルダは続ける。


「言っておくけど。ここで死んだら君は今後一切、生まれ変わる事は無い。長く生き過ぎたんだ。文字通り死んだら終わりだ。それでも『死』を選ぶかい?」


 再び頷くシャルナ。その目は虚ろで、生きる気力を完全に失っている事が見てとれる。


「……分かった……」


 こうしてシャルナはヴィルドレットの亡骸を抱き締めたまま最期の時を迎えた。



 ◎



 『不老不死』の加護が解かれた事でミイラ化してしまったシャルナの亡骸。それを見つめながらゼルダは呟く。


「……すまなかった。シャルナ……ボクが間違っていたのかもしれない」

 

 世界に平和の秩序を持たせる為にシャルナに課せた使命――『神判』。


「シャルナ。ボクは君に頼り過ぎたのかもしれないね」


 その『呪い』のせいでシャルナは『幸せ』を知らずに死んだ。それも、永遠の死。


 ゼルダの中で後悔の念が湧き上がる。


「……まさかボクが、こんな思いするなんてね……」


 ゼルダの脳裏に浮かぶとある禁断の所業――


「……これだけは本当に、絶対にやっちゃいけない事なんだけどね……」


 『時間遡行タイムリープ』。


「……君に託すよ。――クロ。 シャルナを幸せにしてくれ。頼んだよ」

――――――――――――――――――――――



 第一章 完。


 

 作者から


 ここまで読んで下さった方。 皆様の貴重な時間を割いてまで読んで頂き感謝します!


 誠に恐縮ながら少しでも面白かったと感じましたら⭐︎の数で評価していただけると幸いです。


 また、ここまで毎日更新を続けてきましたが書き溜めの関係上第二章からは週に二話から三話程度の更新となります。何卒今後とも宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る