第5話 チンピラを蹴散らした

 冒険者ギルドに行く道の途中、インフィは『つけられている』と感じた。

 なのでアメリアに周辺の様子を探らせ、人のいない路地にわざと入り、追跡者をおびき出す。

 相手の用件は想像できた。なにせ武器防具屋の裏庭で魔法剣の試し切りをしたとき、塀の向こうから強い視線を感じたのだ。


「へへ、お嬢ちゃん。こんな人気のない場所に一人で来るなんて危ないな。お兄さんたちが護衛してあげよう。その代わり、ローブの下にある魔法剣を出しな」


 ほら。やはり魔法剣が目当てだった。

 見るからにガラの悪いチンピラ風の男が、前方に二人、後方にも二人、ナイフを持ってインフィの行く手を塞いでいた。


 インフィは彼らの要求通り、袖口から魔法剣を出す。


「素直じゃねぇか。しかもスゲェ綺麗な顔してやがる。こいつ自身も高く売れそうだ。一石二鳥ってやつだな。へへへ……なんなら俺たちで少し楽しもうか? 下のほうを使わなきゃ問題ないだろ」


 男たちは下品な笑みを浮かべる。

 これがもし『病気の親を助けるためにどうしても金が必要で、泣く泣く悪事に手を染めている』などの事情があれば、インフィとしても多少は協力してやりたい。

 だが、これは違う。

 のさばらせておくと被害者が際限なく増えるタイプだ。実に不愉快である。


「な、なんだよ、その目つき……小娘のくせによ!」


 インフィの殺気を感じとったらしく、男たちはナイフを振り上げ、一斉に飛びかかってこようとした。

 そのとき、屋根の上にいた女性が矢を放ち、二人の男の太ももを射貫いた。

 続いて別の女性が現われ、剣の底を振り下ろし、残る二人を殴って倒してしまう。


「やあ、少女。怪我はないかな? それにしても武器を持っているとはいえ、一人でこんな場所を歩くのは感心しないな」


 そう言って女性剣士は、インフィに真面目な顔で言う。背が高く、短髪。ハキハキとした口調は、王子様的なものを感じさせた。


「本当よぉ。あたしたちが来なかったらぁ、身ぐるみを剥がされたあげくに、更に酷いことをされてたんだからぁ」


 弓を持つ女性が屋根から降りてきて、ほがらかに微笑む。剣士と対照的に、間延びした色っぽい喋り方だ。

 二人とも二十代前半くらいの美人である。 


「助けてくれてありがとうございます。けれど……いえ、危ないところでした」


「なんだい? 私たちがいなくても、自分でなんとかできたという顔だね」


「駄目よぉ? 剣の腕に自信があるのかもしれないけどぉ、世の中は怖い人たちが沢山いるんだからぁ。エミリー様が魔王を倒してくれた今、むしろそういう連中が元気づいちゃうかもだしぃ?」


 エミリー、か。

 せっかくその単語が出たのだから、この二人に質問してみよう。

 と、インフィが考えた次の瞬間。


[マスター。チンピラの一人が起き上がろうとしておるぞ]


[分かっていますよ]


 それは矢で太ももを射貫かれた男だった。

 弓士の女性の後ろに立ち、ナイフで背中を突き刺そうとしている。弓士はそれに気づき、転がって避けた。

 そして剣士が反撃しようと構える。が、それよりも速く、インフィの拳がチンピラの腹にめり込んだ。


「ぐえっ」


 カエルが潰れるような悲鳴を出し、チンピラは壁に当たって意識を失う。


「な、なんという動き……この私より速いだと……!?」


「信じられないわぁ……本当にあたしたちの助けなんていらなかったのねぇ……」


 二人の女性は唖然とした顔でインフィを見る。


「えっと。体力には自信があるので。さっき助けてもらったお礼です。それで、このチンピラさんたちはどうするべきでしょう?」


 インフィは地面に倒れる男四人を見回す。

 するとまだ意識がある男が、インフィを睨みつけてきた。太ももに矢を受けた、もう一人のほうだ。


「小娘のくせにふざけやがって……てめぇら! 俺たちがヴィント盗賊団だと知って喧嘩売ったんだろうなぁっ!」


「知りません」


 インフィはその最後の一人にゲンコツを振り下ろして気絶させた。

 そして零敷地倉庫ディメンショントランクから『動くロープ』を取り出し、男四人を縛った。


「ヴィント盗賊団の残党、か。それが本当なら、こいつらを冒険者ギルドに連れて行けば懸賞金をもらえるぞ」


「あらあら。得しちゃったわね、お嬢さん」


「有名な盗賊団でしたか。ならギルドまで運ぶのを手伝ってもらえませんか? 懸賞金が出たら三等分しましょう。それと、歩きながらボクの話し相手になってくれませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る