46 告白

 ──月明かりに照らされた庭園にある、白いガゼボに美形の王子様と二人っきり……。


 そんな物語の中にしか無いと思っていたシチュエーションが、まさか自分に起きるなんて。


(な、何か言わなければ……! え、でもどうしよう……!!)


「え、えっと、この髪の色、自分はあんまり好きじゃなかったんだよね」


 実際私は子供の頃、よく悪ガキに髪の色をからかわれていたので、ずっと自分の髪の色が好きじゃなかったのだ。

 ちなみにその悪ガキも、二年ほど前に孤児院から旅立っている。どこかで野垂れ死んでいなければいいけれど。


「……だから、エルが魔法で髪の色を変えていると知った時は、すごく羨ましかった」


 何とか言葉を絞り出したけど、変なことは言ってないよね、と思い返す。


「僕は貴女の髪色をとても綺麗だと思いますよ」


「そ、そうかな? ……あ、ありがとう。エルが褒めてくれるなら、これからは好きになれそうかも」


「貴女ならどんな髪の色でも似合いそうですけどね。でも、僕はこの髪色が貴女らしくて好きですよ」


「す、好き……?」


 エルの言葉に、思わず胸がドキッとする。


 その言葉が髪の色のことだとしても、今の私には「好き」という単語はとても心臓に悪いのだ。まるで心臓がフル稼働して、全身の血が沸騰しているようだ。


 だからなのか、さっきから胸のあたりがぽかぽかしているし、何だか身体も熱くなってきた。恐らく、私の全身は真っ赤になっていると思う。


 もうこの状況が恥ずかしすぎて、今すぐ逃げ出したくなってくる。ダッシュでここから立ち去りたい衝動にかられてしまう。


 だけど、そんな私の心境を察したかのように、エルが私の髪を一房掬い上げた。

 その仕草に、まるで逃さないと言われているような、そんな錯覚を抱く。


 そしてエルは、掬い上げた私の髪に、そっと唇を落とすと、真っ直ぐな瞳を私に向けて言った。


「──はい。髪の色も瞳の色も──貴女の全てが好きです」


「……………………え? …………ええーーーーっ!!」


 まさかエルから告白されるなんて、全く思わなかった私は驚きの声を上げる。ここ最近驚きっぱなしだったけれど、今のが一番驚いたかもしれない。


「本当はずっと前に想いを伝えようと思っていたんです。だけど中々タイミングが掴めなくて。それなのに、まさかこんな事になるとは……全く予想出来ませんでした」


「あ、貴女が貴族になったから告白したわけじゃありませんから! 確かに身分の違いにはずっと悩んでいましたけれど、もし貴女が僕を受け入れてくれたなら、王族の身分を捨ててもいいと本気で思っていたんです。それに僕が平民になったとしても、貴女を養えるだけの給金を稼げる仕事に就けますし、苦労をさせるつもりは絶対にありませんでした。ちなみに住居は──……」


 照れ隠しもあるのだろうけど、言い訳するかのように、エルが早口で捲し立てる。


(そんなに必死にならなくても、エルの気持ちを疑うわけないのに……)


 エルの気持ちを聞いて、私の胸から喜びがどんどん溢れてくる。エルもずっと、私と同じ様に悩んでくれていたなんて──しかも、身分を捨てることまで考えてくれるなんて。


「……ふふっ」


「サラ……?」


 思わず笑みが溢れた私を、エルが不安そうに見ている。もしかして誤解させてしまったのかもしれない。


「ごめんごめん。エルも私と同じ気持ちだった事が嬉しくて……教えてくれてありがとうね」


「それって──」


「うん。私もエルのことが好きだよ」


 私は心を込めた言葉とともに、エルに笑顔を向ける。


 そんな私の笑顔を見たエルは、一瞬目を見開いた後、嬉しそうにふんわりと微笑んだ。


「……僕もすごく嬉しいです。有り難うごさいます」


 エルの幸せそうな笑顔に、両想いだと知らなかった時は、この恋を諦めようと思っていたけれど……。想いが通じ合った今、あの時諦めなくて本当に良かったと心から思う。


 報われない恋に、たくさん悩んだし、正直苦しんだ事もあったけど、その時の辛さも想いも、全て自分が成長するためのものなのだと、ようやく理解出来た。


 ──結局何もかも、お爺ちゃんが言った通りだったのだ。


「お爺ちゃんにもう一度、お礼を言わなくちゃ……」


 どれだけ感謝の言葉を告げたとしても、きっと私の想いはお爺ちゃんに伝え切れないと断言出来る。


「それなら、僕も一緒にお礼を言わせて下さい。シス殿には一生返せない恩が出来てしまいましたから」


「……うん! 一緒に行こう!」


 私はエルのこういうところが、たまらなく好きだ、と思う。


 一人では伝え切れなくても、二人一緒なら、その想いと言葉は、もっと意味を持つから。


「では、そろそろ広間に戻りましょうか」


 エルはそう言うと立ち上がり、私の方へ手を伸ばしてくれる。


「うん!」


 私がドキドキしながらエルの手を取って、立ち上がろうとしたら、頭がクラっとして身体に力が入らなくなる。


「あれ……?」


「っ!? サラっ!?」


 倒れる私を、エルが慌てて抱きとめてくれるけれど、驚いた表情のエルを視界の最後に、私は意識を手放したのだった。



 * * * * * *



お読みいただき有難うございました!( ´ ▽ ` )ノ


甘い雰囲気をぶち壊すのが作者クオリティ。∠( ゚д゚)/

キリが良かったのでちょっと短めです…すみません。


拙作にお☆様、♡やコメント本当に有難うございます!(∩´∀`)∩ワーイ


次のお話は

「47 激変(エル視点)」です。

サラが倒れてる間エル視点が続きます。(3話ほど)

ちょっと時間軸が戻ります。お爺ちゃんとのアレコレとか。


次回もどうぞよろしくお願いします!(人∀・)

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