6 桜刀ハナ 四
常世桜の近くには常世泉と呼ばれる小さな泉がある。その泉は常世桜の神気の影響で常に清浄な気に満ちていた。
桜色の鳥居をくぐり襦袢に着替えた花奈は、泉の中に身を浸からせた。冷たい水が肌に染み渡り、思わず顔をしかめる。
ここには儀式のたびに何度となく来ている花奈であったが、今日は特に清浄な気が濃いように感じた。
手桶で水を汲み、頭からかぶる。それを三度繰り返して、全身を清めていく。
ふと空を見上げた。周囲を真っ黒な蛇に囲まれているおかげで、ぽっかりと穴が空いたみたいな綺麗な青空が見える。蛙が井戸の底から空を見上げることわざがあったが、まるでそれは自分たちのことのように花奈は感じた。
もしもこの蛙が井戸から飛び出し、世の中の広さを知った時、果たしてどう感じるであろうか。
花奈は辰也のことを想う。井戸から外へと飛びそうとする辰也のことを。
体を拭き、再び巫女装束に着替えた花奈は、桜神社に向けて歩を進める。一歩踏み締めるごとに、桃源島での日々が頭の中によぎった。
色々なことがあった。良いことも、悪いことも。けれど今こうして振り返ってみると、どれもこれもとても大切な思い出だ。この思い出があったからこそ、花奈はこうして迷いなく前に進むことができる。辰也の力になれることがとても嬉しく思える。
神社に着く。花奈は厳かな気持ちで階段を上がる。迎えたのは神主と巫女たちだった。けれど巫女の中に花絵はいない。今日は花奈の家族や部外者は原則立ち入りが禁止されているのだ。例外は一人だけである。
花奈は端の方でただ一人の例外を見つけ、思わず綻びそうになる表情を改めて引き締める。例外は辰也だ。辰也が自ら望み。神主と花奈が認めたことでここにいる。
彼が見ている。そう思うだけで無様な姿は見せられないと思う。
神主が常世桜を称える祝詞を唱えながら先頭を歩き、次に花奈、その後ろに巫女たち、最後尾に辰也が続く。
常世桜の偉容を目前にした舞台に出ると、巫女たちと辰也は両脇に並んだ。神主と花奈はそのまま中央へ進む。そこには純白の布がかけられた長机があり、常世桜の枝が鎮座している。祝詞を唱え終えた神主は、枝と常世桜に礼をした。その後ろから花奈が前へ出て、枝を両手で丁寧に手に取る。
そうしてまた場所を移す。長い工程の儀式。移動の過程においても一つ一つ細やかな取り決めがある。それも全て常世桜の枝を十全に活かすためであり、花奈の儀式への集中力を増大させるための手順だった。
赴いた場所は、桜神社から出て一時間ほど歩いた先にある。そこにあるのは今回のために作られた粘土製の特別な炉。
炉の両脇には大きなふいごが設置されていた。これは上から垂らした縄を支えにして全体重をかけて踏み込むことで空気を送り、強い火を起こす仕組みになっている。いわゆる、たたら製鉄だ。
すでに二人の男が汗だくになりながらふいごを動かし、中に入っている常世泉で取れた砂鉄をどろどろに溶かしている。そのため周囲は凄まじい熱気があり、遠間にいるだけでも熱さが伝わってくるほどだ。
しかしながらこの炉の不可解なところは、炉の中心に向けて階段と足場が置かれている点であろう。そうしてその階段の前で立ち止まったのは、花奈であった。付き添っているのは一人の巫女と神主。神主は花奈とは違い、炉の横へ待機して再び祝詞を唱え始めた。
辰也はそれを瞬きもせずに見つめている。
常世桜の枝を持つ花奈の巫女装束の帯を、巫女が手にかけた。無表情の神主と違い、心苦しそうな表情を彼女は隠し切れていない。手も震えて、動きを止める。
巫女は花奈の友人であった。この役目を仰せつかったのは偶然だった。
花奈の口が動いて、何事か囁いた。
すると巫女はぎゅっと目を閉じる。目端から涙がこぼれ落ちた。そうして震える手先で花奈の帯を解き、装束を脱がす。これは余分な物を炉の中に入れてはいけないからである。
花奈の裸身が衆目に晒された。ほっそりとした身体は起伏に乏しいが、均整が取れている。肌は熱に当てられてやや赤く染まり、飾りのない長い黒髪が背中の上に垂れた。何よりも決然とした花奈の横顔は少しも照れている様子がなく、ある種の神秘的な美しさがそこにはあった。
花奈は草履を脱ぎ、常世桜の枝を携えたまま一段階段を上がった。そしてまた、一段。
見守る巫女たちの中には、直視に耐え切れずに目を逸らし、すすり泣く者さえいる。一心不乱にたたらを踏む二人の男も、作業の辛さによるものとは思えないほど、顔を歪ませていた。
だが辰也は無言で見続けた。それが責務であると。自分に課せられた罰であると。拳は強く握られていた。爪が皮膚に食い込み、腕に太い血管が浮き出た。ぎしりと歯噛みし、ひたすらに耐えている。
花奈は階段を上り切り、足場の上をにじり進む。炉の熱を無防備に受け止めて、肌が焼けていく。最早熱さを通り越して、痛みすらあった。けれども、花奈は決然とした表情を崩すことなく進み、あと一歩足を差し出せば炉の中に落ちる、そういう位置にまで来た。
神主の祝詞が止まる。
ふいごを動かす男たちの荒い息遣いと、すすり泣く誰かのか細い声が聞こえてくる以外に、誰も言葉を発しない。
花奈は辰也を見る。真摯な顔が目に映った。それは花奈が好きな辰也の顔。
柔らかく微笑んだ。苦しんでいる顔は見せたくない。最後に覚えて欲しい顔は笑顔だから。
そして花奈は、常世桜の枝と共に、その小さな体を炉の中に捧げた。
花奈にとって最期の儀式は、こうして終わったのである。
幾日か経った。今日は元服の日である。
正装に着替えた辰也は、桜神社へと向かった。その道中において、例の如く作物を一杯に積んだ荷車を老婆が引いているのが目に入った。しかし辰也は、厳しい顔のまま素通りして先を行く。
これに驚いたのは老婆である。いつもなら率先して手伝ってくれていた彼が、今日は何もしない。思わず老婆は立ち止まり、彼の背中を深い悲しみに満ちた顔で見た。そうして、深々と礼をしたのである。
辰也は桜神社に着いた。鳥居の片隅に巫女装束姿の花絵がいることに気づく。鳥居に近づいていくと、花絵も気づいたようだ。だが辰也を見た途端、おどおどして迷う素振りを見せる。
辰也は一瞬立ち止まった。けれどすぐに思い直し、そのまま通り過ぎる。
「た、辰也お兄ちゃん!」
花絵は焦った様子で声を張り上げた。振り返った辰也の顔は酷く剣呑だった。怖さを感じ、たじろぐ花絵。彼がこうなってしまったのは、花奈がいないからに相違ない。それでも花奈との約束が彼女の背中を押した。
「……元服、おめでとう。これで辰也お兄ちゃんは大人になるんだね」
「ああ」
と、険しい顔のまま辰也は頷く。これだけでも返事を貰えたのが嬉しくて、花絵は今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべた。
本来ならばおめでたい日。だけど彼にとっては他の意味もある。花絵もそれは分かっているが、それでも彼のことを祝ってあげたかった。花奈ならきっとそうしていたに違いないから。
舞台に集まり、元服の儀式が始まる。常世桜の前には、一本の鞘に入った刀と御神酒が供えられている。
今年の元服は辰也一人だけだ。中央にて正座で座る辰也を見て、他の巫女たちと一緒に脇に座る花絵は胸が苦しくなった。本当ならば彼の隣に花奈も座るはずだったから。こみ上げる何かを感じ肩を奮わせると、隣にいる一つ年上の巫女が花絵の背中を摩った。
儀式は厳かに始まった。もの悲しい雰囲気なのもきっと仕方ないことだろう。この場にいる誰もが運命を恨み、罪悪感を抱き、悲しみを胸に募らせている。
儀式は進み、花絵の出番が来た。背中を摩ってくれた巫女が、「大丈夫?」と優しい声をかけてくれた。だけど花絵は知っていた。そう励ましてくれた彼女の目元にも、うっすらと涙の跡があったことを。それを化粧で隠していることも。
返事の代わりにこくりと小さく頷いた花絵は、ゆっくりと立ち上がって進む。白い布が掛けられた長机の上にある盃に酒を注ぎ、盆に載せて辰也の前に運んだ。
目配せを送ると辰也は神妙に頷いた。そろりとしゃがんで盆を置き、盃を両手で持ち、無言で辰也に渡す。同じく無言で受け取る彼を見届けてから立ち上がり、元いた場所に戻る。
花絵の役目はこれだけだった。たったこれだけのことでも、花絵は自分から希望しなければ役目を貰えなかった。みんな優しいから、花絵に役目を与えようとはしなかった。無理して儀式に参加しなくても良い。そうも言われていた。だけどそれは嫌だった。辰也のためにも、花奈のためにも、何かをしたかった。
見守る花絵の視線に応える様に、辰也は盃に口をつけて一気に飲み干す。初めて呑む酒は辛い。
続いて神主が、常世桜の前に供えられた刀を両手で恭しく手にとって、辰也の前に行く。これは、今回だけの特別な儀式だ。
同じく両手で恭しく受け取った辰也は、ゆっくりと刀を引き抜いた。美しい桜模様の刃紋がある刀身はほのかに桜色に輝いて見える。刻まれている銘は桜刀ハナ。
辰也は険しい表情のまま、刀身を鞘に仕舞う。ちん、と鈴のように澄んだ音が鳴り響く。
花絵は胸の奥から再びこみ上げる何かを感じ取った。
あれは、ああ、あれが、お姉ちゃんだ。
今度こそ我慢することはできなかった。ぽろぽろと両目から涙がこぼれ落ちて、床板を濡らしていく。両脇にいる巫女は、何も言わずに花絵の背中を摩ってあげた。
元服の儀式は全て終わった。
辰也は桜刀ハナを腰に提げて鳥居を潜ると、見知った顔が待っていた。辰也が親方と呼んでいる彼は、この島で並び立つ者はいないほどの腕前を持つ刀匠だ。
「その刀は、儂が打った。儂の生涯の中で最高傑作と言える出来前だ」と言う刀匠は、しかし落ち込んだ声だった。「だがなあ、儂は決めたよ。儂はもう弟子に教える以外では、刀を打たん」
「親方……それは」
「辰也を待っていたのは他でもない。この刀について話をしておきたいことがあるからだ。時間はあるか? 良ければ貸してくれんか?」
「はい」
「その刀は知っての通りヒヒイロカネで出来ておる。巫女、特に神気を多く持つ者の血肉と魂と、常世桜様の枝木、それから上質な玉鋼が一体になることで初めて出来上がる特殊な金属だ。すでに忘れられた技術だったがな、これを復活させたのは他ならぬ儂なのだよ」
「親方が? しかし、まさかそんな」
「若い頃、儂は兎角強い刀を求めておった。そこで目を付けたのは伝説に名高いヒヒイロカネ。その製法を調べるため、儂は神社の書庫で古書を読み漁った。どの古書も断片的にしか描かれていなかったが、全てを繋ぎ合わせることで、ヒヒイロカネの製法が判明してしまった」
「一人の刀匠として、強い刀を追い求めるのは当然ではないでしょうか」
「そうかもしれん。だがな、こいつは鍛冶師にとって禁じ手だ。知った時は震えたよ。こんな方法が許されるのか、とね。当時の鍛治師も同じことを考えたんだろうよ。だからこそ、製法は断片的にしか残っていなかった。儂は神主にこの事を訴え、一連の古書を禁書にしてもらった。けどな、因果とは恐ろしいものよ。黒蛇ジャジャには神気を宿した武器でなければ対抗できないと分かった時、真っ先に思い浮かべたのはヒヒイロカネだった。儂はあえて口に出さなかったが、神主は儂に相談してきおったのだ。ヒヒイロカネを復活させないか、と」
辰也は黙って聞いていた。刀匠の表情は自責の念に駆られている。
「……だが神主を悪く思うな。この星を救うのと一人の女の子の命を天秤に掛けただけに過ぎんのだ。苦渋の決断だったろうよ。その時の神主は、目に濃い隈が出来ておってな、見ていて気の毒になってくるぐらいに青ざめておった。そこで儂は一つ条件を出した。全ての運命を知った上で、首を縦に振る巫女でなければ儂は打たんと。儂は、そんな子が出てくるとは思わなかった」
「……しかし、花奈が首を縦に振った、と……」
「そうだ……。儂がどれだけ必死に説得をしても、彼女の意思は変えられなかった。そして儂は、覚悟を決めた」
親方はその時のことを思い出しているのか、遠い目をしていた。
翌日の早朝を迎え、辰也は洞穴の中を進んだ。奥に着くとそこは入り江だった。一隻の小さな帆船が岩に繋がれており、村の者が用意した食糧などがすでに積まれている。
見送りに来たのは辰也の家族、花奈の家族、村長と神主。花絵の頭髪は、花奈から貰った桜のかんざしでまとめてあった。
「この刀が……お姉ちゃんなんだね……」と花絵は複雑な表情を浮かべて言う。「見てもいいかな、辰也お兄ちゃん」
「ああ」
花絵に手渡すと、彼女は重たそうに刀を持った。それから慣れない手つきで鞘を引き抜く。現れた刀身はほのかな桜色に輝いている。
「これが……」
花奈の家族たちは、はっと息を呑んだ。知ってはいても、信じられないような目で見つめている。
「花奈……」
花奈の母親が涙ぐむ。
「お姉ちゃん……」
花絵は刀身に映る自分の顔を見た。悲しそうな目をしていた。
「……私は……決して花奈の想いを無駄にはいたしません、絶対に」強い決意に満ちた瞳で花絵たちを見回した辰也は、何度となく誓ってきたことを改めて断言する。「黒蛇ジャジャ。死力を尽くし、必ずや討伐します」
そのあまりに強い覚悟は危うさすら感じさせて、花絵たちは悲しい瞳で辰也を見返す。だが辰也はそのような視線に気付いていないのか、あるいは気付いていない振りをしているのか、ただただ強い目線を向けていた。
これに喜ぶのは、辰也の祖父ただ一人。彼は深く頷いて、
「うむ。それでこそ剣宮家の男よ」
と満足そうに言った。
辰也は花絵から刀を受け取る。
「それでは、行ってまいります」
踵を返す辰也を、「少し待ってください」と呼び止める声があった。前に出てきたのは辰也の母である景子だ。彼女は持っている火打ち石を打ち鳴らし、火花を飛ばす。
「……どうかご無事で」
今にも泣き出しそうな声だった。
「はい。行ってきます、母上」
そして、今度こそ辰也は船に乗った。岸に縛り付けてあった縄を解き、櫂で漕いで船を発進させる。
「お兄ちゃーん! 絶対に生きて帰ってきてよー!」
大粒の涙を流しながら、花絵は辰也の姿が見えなくなるまで手を大きく振り続けたのであった。
洋上を漕ぎ続け、暖かな光の外に出た。
そこはおどろおどろしい黒蛇の群れが空を覆う、暗黒の世界。
後ろを振り返ると、太陽の光に照らされて輝いている常世桜と桃源島が目に入った。外から見ると、なんと小さくて、なんと美しいことか。しかしもう戻ることはない。このまま見続けても、名残惜しさが募るばかりだ。だから辰也は前に向き直る。目指すべきは黒蛇ジャジャ。
蛇のせいで夜の星すら見えないから、正確な方角は分からない。だが蛇の群れは一定の方向からやってきている。その先には蛇傀列島、ひいては黒蛇ジャジャがいるのだ。だからこそ、道に迷うことなどない。
あらかじめ船に備えてあった提灯に火を灯す。風を読み、帆で受けて、船は前進する。
そうして目当ての潮流に乗ったことを確認した辰也は、手を止めて刀を持った。
ここにはもう誰もいない。いないのだ。
刀身を抜き出し、眼前に掲げる。刃は闇の中で桜色に煌く。
「花奈……」
呟いた声は悲しみに暮れている。力なく腕を下ろした。刀が横たわり、刃の上に滴が落ちた。
辰也は泣いていた。
今までずっと泣いてこなかった。使命が決まった時も、祖父にしごかれたときも、修行の過程で腕が折れた時も。花奈が辰也の刀になると決心したことを知った時も、花奈が炉の中に飛び込んだ時も、昨日初めて刀と共にあった夜も。ずっとずっと泣くことがなかった。
周囲に誰もいないこの場所に来てからようやく、辰也は泣くことができたのだ。
「……辰也」
溢れ出した感情のまま泣き続ける中で、不意に彼を呼ぶ声が聞こえた。他に誰もいないこの場所で、それもよく聞き知っている声が。驚きのあまり涙が止まり、周りを見回す。だがやはり誰もいない。いるはずがない。
「……花奈?」
あまりの悲しみに、寂しさに、辰也は自らが生み出した幻の声だと思った。
「辰也、ここだよ」
けれど聞こえてくる声は、幻とは思えないほど現実感がある。
「私はここにいるよ」
声は刀から聞こえてくるようである。なるほどよく出来た幻聴だ。右手で頭を抱えた。どうにかしてこの声から解放されなければ、使命に差し支える。
「私は幻じゃないよ! 辰也!」
一喝された。
辰也はまじまじと刀を見つめる。
「本当に、花奈なのか?」
「うん。私は花奈。もっとも、今は桜刀ハナだけどね」
刀から間違いなく声が返って来た。辰也は心を落ち着かせようと深呼吸を一つする。そうしておずおずと声をかける。
「信じられん」
「そう思うのは分かるし、当然だと思う。だけど私は、紛れもなく神楽崎花奈だよ」
「花奈……」
辰也はぽたぽたと涙を落とす。肩が震えているその姿は、彼を知る者なら驚くだろう。
「信じてくれた?」
「ああ……もう話すことはできないと、思っていた」
「うん、ごめんね。刀になった時から意識はあったんだけど、喋る感覚を掴むのに今までかかっちゃった」
「本当に良かった……」
「あー。今私、刀になったこと少し後悔してる。泣いている辰也を抱きしめて慰めることができないから」
ここでようやく、辰也は泣いている自分を花奈に見られていたことに気がついて、そっぽを向いた。
「あ、照れてる。可愛い。……まあ、でも、辰也の泣き顔を見れたのは刀になったからだから、良しとするかな」
辰也はもう一度深呼吸した。
「……しかし、なぜこうなることができたんだ?」
「それは多分、常世桜様のおかげ。常世桜様の特性は変わらないこと。だから姿形が変わっても、意識だけは変わらずにあり続けることができた。神様たちにとって姿形は重要じゃなくて、大切なのはその本質だから。……と言っても、私の推論だから本当のことは分からないけど」
ハナの説明に、辰也は「そうか」と呟いた。
「私、本当にすごい刀になったんだよ。常世桜様のおかげで、この刀は折れないし、曲がらないし、朽ちることもない。辰也の旅にぴったりの刀なの」
「……ああ。本当にすごいな。お前は本当に……」
辰也は微笑した。慈しみに満ちた目で手の中にある刀を見つめている。
「ねえ、ちょっと私をさっきみたいに掲げてみせてよ」
「分かった」
と、辰也は刀を優しく持って掲げた。
黒蛇が蠢く空の下、桜色に光る彼女のことを辰也は美しいと思う。
「あー島の外はやっぱり広いなあ!」弾むような声で、ハナは言う。「だけど、やっぱり黒蛇のせいで暗いね! よし! 頑張ろう、辰也! 私たちなら青い空を取り戻すことができるよ!」
暗闇の中、船は進む。
喋る刀、桜刀ハナと辰也を乗せて。
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