第12話 お金 4月18日
目が覚めたら、こおりは自分の部屋のベットの上にいた。4月18日朝6時半だった。
服は昨日のままだった。あいりの家からの記憶がないがどうやって帰ってきたのだろうか。
寝ている間に汗をかいたのか身体中がべたべたする。シャワーを浴びた。
何もかも夢の中で起こったかのような感覚で現実味はなかった。スマホをみると、あいりからの連絡はなかった。
夢かな?そう思うが、あいりの冷たい目が思い出される。
夢ではない。悲しい現実だった。
食欲はなかったが、無理やりトーストを流し込む。仕事はやること山積みだ。リイトの言う通り、集中しなくてはいけない。
ネクタイをきゅっと締め、こおりは出勤するために家をでた。
リイトに言われた50万は昼休みにおろそうと思っていたが、時間がとれなかった。
何のためのお金だろう?慰謝料?
頭が拒否するようで深く考える気にはなれなかった。仕事が終わったのは21時過ぎだった。あいりの家に行かなくてはいけない。
現実逃避したくて、気が進まなかった。
しかし、リイトが早めにと言っていた。いかないと。
こおりはあいりの家の最寄駅で降り、中にあいりがいないのを確認して、バイト先のコンビニでお金をおろした。
足取り重く、あいりの家へと歩く。すると後ろから誰かが追いかけてきた。
「あの、すみませんっ」
振り向くと、コンビニの制服をきた男性が立っていた。
歳はあいりと同じくらいだろうか?暗くてよくわからないが、あいりと話していた定員と背格好が似ていた。
「はい?」
「昨日、たちばなさんに話しかけてましたよね?」
あいりの名字はたちばなだ。
「はぁ」
「何か、言い争ってたみたいだったから心配でみちゃったんですけど、あの……
たちばなさん、今日もシフト入ってたのに、急に辞めたいって連絡来たんです。なにか知りませんか?
先週は体調悪そうなのにシフト増やしてたし、おかしかったんです」
こおりの目を真っ直ぐみて再度問われる。
「何か、知りませんか?」
こおりは目をそらした。
「人違いです」
足早にその場を立ち去る。
相手は追いかけて来なかった。
あいりの住むアパートの前まで来た。この間は気にしていなかったが、だいぶ古いアパートだった。オートロックはもちろんついていないし、宅配ボックスもない。
あいりの部屋は一階だ。誰でも容易に部屋の前まで来れる。若い女がこんなセキュリティの低い場所に住むのはいかがなものか。
シフトを増やしていた。バイトを辞めた。
お金が必要だったのではないのか?
ドアの前まで来ると、嫌でもあの光景が思い出される。
嫌いっ!
どくんっ、どくんっ、どくんっ
自分の心臓の音が聞こえる。嫌な汗が出てくる。
チャイム何てもちろん押せない。
お金の入った封筒に、
【交通費と料理の材料費】
と書いた。
その下に、【ほんとうにごめん】
と綴る。
封筒を手で持って書いたので、余計にへにょへにょの文字になった。
玄関ポストに音をたてないようにそっと入れる。
あいりと顔を会わせる勇気はなかった。
こおりは逃げるように来た道を引き返した。
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