崩れていく余裕
「佐藤さんと三森さんはどうやってこの島に呼び出したんだ。」
まだわかっていない部分を聞き出してみる。
「佐藤はまあ簡単でした。彼女と今は音信不通でも学生時代は仲の良かった人を装って久々に会おうってメールしただけです。彼女は元々ここの近くに今住んでますしね。三森はあいつ実は未だに高橋のこと引きずって拗らせてて。数年前はヤバいストーカーになって警察から厳重注意受けて高橋と関わられなくなって。でもそれでもまだ思い続けてたみたいだったんで、ここに来たら会わせてやるって匿名で手紙出したら本当に来ましたよ。来るかどうか賭けな部分はあったんですけど、彼女はご存知の通り警戒心強いんでね。他の方法は思いつかなかったんで来てくれてラッキーでした。」
塩見と三森が知り合いにも関わらず全くその素振りを見せなかったのは三森が高橋のストーカーになっていたことが原因なのだろうか。
「私も一つ不思議な点があります。佐藤さんが殺された時、そのグループの全員が深く眠り時間になっても降りてこなかったことです。最初の2人が毒殺の中、睡眠薬を飲ませることができたとは考えにくい。」
飯田さんがそう問いかけた。
「あぁ、それはラッキーですよ。まず東條さんと殺された佐藤はまずそもそも寝る番だったので寝てただけです。この緊迫した状況下でそんな時間も長く続いてるから全員疲労が溜まって少しのことじゃまあ起きないでしょう?俺と風間さんで見張りをしていたら運良く風間さんが寝てくれたんです。少し声をかけて起きなそうだったから物音を立てないようにサクッと殺しました。包丁で刺すとか確実な殺し方したかったんですけど、さすがに返り血でバレるんでね。でも口を抑えながらやったら眠るように死んでくれました。あとは風間さんも東條さんも起こさずに飯田さんたちが起こしにきてくれるまで俺も寝ていればあの状況が完成します。」
赤城は一貫してあっけらかんと話している。
「いい加減ちょっといいかしら。」
突然そう空気を変えたのは風間さんだった。
「何か矛盾しているような気がしてすごく気になるのだけれど。まず学校で受けたいじめが原因でこれをやったって言ってたけど、そもそもあなたの年齢じゃ殺された人たちと年が違いすぎて同じ小・中学校に通うのは無理じゃないかしら。」
「あぁ。そんなことですか。それは殺した人たちに万一にも全員殺す前に自分の正体がバレないようにですよ。本当は26歳なんで。だから佐藤と同い年です。塩見と高橋は中学時代の水泳部の先輩です。三森はマネージャーで。これで疑問は無くなりましたか?」
「いいえ、まだいくつか。まあこれは単純な疑問なのだけど、テロリストの偽装の件。猪退治にしてもあんな深夜にやるのは最初から不自然じゃなくて?そこの平塚の後輩くん、よく着いてきたわね。」
「まあ確かに。それは私がうまくルールを長い時間かけて作った感じですね。一応表向きの理由は人を撃たないために深夜にやってるってことくらいです。とは言ってもこの島の人は対して関心ないから深夜にやるよってしっかり伝えとくだけで良くて。ちゃんと騙さなきゃいけないのはテロリストに騙して参加させた私の後輩だけでしたから簡単でしたけどね。」
平塚が代わりに答えた。
「あら、そう。じゃあ次だけど、塩見さんの発言がずっと気になってたのよ。彼は本格的に高橋さんをさがす前、部屋のドアが開いていたと話していたわ。それはあなたの仕業?」
風間は赤城の方を見て話す。
「そうですそうです。いやああれは焦りましたね。というのも自分はいつどこで高橋が死んでるかわからないわけですよ。毒をいつ飲むかわからないので。だからたまに確認に行く必要があった。それで深夜にそっと高橋の部屋に入ったら誰もいないから俺は怪しんでて。そしたら誰かが廊下を歩く音がして高橋が帰ってきたんだとしたらやばいと思って咄嗟にタンスに隠れたんです。そもそも深夜なら誰にもバレないと思って行動してたんでね。多分その時入ってきたのが塩見ですね。そのあとは塩見の廊下での騒ぎが落ち着いた頃にこっそり自分の部屋に帰りました。」
「そう。ある程度疑問は解けたわ。でもどうしても私はおかしいと思う点がある。」
風間さんがそう言うと少し空気が変わったような気がした。というより赤城が雰囲気が少しずつ変わっている。彼の不自然なほどの余裕がなくなってきてるように見える。
たしかに風間さんは今までの話でおかしいと思った点を、冷静に一つずつ赤城や平塚に問いかけている。それに必死に赤城が答えている感じだ。何も隠すことがないのなら慌てる必要もないのだが。
「なんで全員毒殺にしなかったのかしら。」
「いやぁ、本当は全員毒殺にしたかったんですよ?でもみんな毒殺って気づいて警戒したじゃないですか。だからやむを得ず殺し方を変えたまでです。」
「それにしては三森さんの時の殺人セットといい、佐藤さんの時の縄といい、用意周到よね?」
「俺たちは絶対この殺人を成功させたかったんでね。さすがにプランBくらいは用意してますよ。」
「それだけじゃないわよ。そもそも高橋さんが殺された理由が毒殺だって、最初に明確に全員に教えてくれたのあなたじゃない。全員毒殺にしたかったならそもそもあんな推理披露しないんじゃないかしら。」
「それはまあ念のためですよ。もしかしたら死因がわかって黙ってるだけの人がいるかもしれない。俺は殺人をしやすくするためにもみんなに信頼されるリーダーポジションにいたかったんで、あからさまにミスリードして陰で怪しまれるとか避けたかっただけです。」
「そしたらさっきのあなたの発言はおかしいですよね?最初から本当は毒殺で全員殺したかったという発言と矛盾してるわよ。」
「もうやだなぁ、風間さん。言葉のアヤですよ。僕が全員毒殺で殺したかったって発言した意味は、毒殺だと1番自分の精神的負担が減るからという意味です。叶わない願望ってやつです。」
「そういう意味だったとしたらプランBではないんじゃないかしら。プランAを“叶わない願望“に設定するなんて、あまりに愚かじゃない。」
「言いますね〜。まあ殺人なんて正気じゃやってられないってことですよ。」
「はぁ〜。」
風間さんが呆れたようにため息をつく。
「この口がうまい赤城のせいでそれっぽい理由になってる気もするけど。私は惑わされませんよ。そもそもこの殺人を絶対に成功させたいなら最初から毒殺なんて選ばないのよ。それに自分が強制して飲ませるわけでもなく、いつ飲むかわからないペットボトルに入れたり、服用するかわからない睡眠薬と毒をすり替えて置くとか、動機と計画が明らかに一致してないわ。それなのに3人目の三森さんからは自分の手で確実に殺してる。なぜ突然こんな殺害方法を変えたのかよくわからないし不自然すぎるわ。」
「そう言われましてもね〜。さっき言った理由が全てですよ。俺も内心色んな葛藤がありますからね。悩みながら計画を実行したらこうなったってだけです。」
「全く説明になってないわよ。」
「風間さんは俺に何がさせたいんですか?こうやって洗いざらい話して逃げもせずに罰を受けようとしてるのに。何の不満があるんですか。」
赤城が少し苛立ってるのがわかる。先程までの違和感が消えてきている。
「あなたがさらに大きい罪を隠してるのかもしれないでしょ?明らかに不自然な点があるからそれも説明してと言っているだけよ?」
「俺はもう言えることは全部言いました。」
「そう。そしたら違う話をしましょう。」
風間さんは意地でも逃さないつもりらしい。
「そもそもこの5人を殺したいならこんな島に集める必要ないのよ。」
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