銃声

結論から言うとこの休憩時間に被害者は出なかった。

「犯人の目的の殺人はもう終わってるのかしらね。それともここまで警戒されて、毒殺がもううまくいってないのかしら。」


「佐藤さん、これから皆さんで昼食なんですからあまりそういうことは…。」

飯田がそう困ったように言う。

「あら、だからこそ大事だと思いますよ。今からが一番毒殺されやすいんだから。本当に用心していきましょう。」


14時ごろ、誰も欠けることなく再び食堂に集まっていた。おかげで全員少し安堵の表情が見て取れる。


「それにしてもまだ誰も救助に来ないのかしら。管理人さん、何時ごろになると思われます?」

「おそらく今ごろこの旅館と連絡がつかないと、そろそろ気づき出してる頃だとは思います。ただそこまで急ぐ仕事ではないですし、離島ということもあり天候だったりでたまに連絡が取れないことはよくあるので、はやくても誰か来るのは明日以降かと…。」

「まだここにもう一晩は泊まらないといけないんですね…。」

橘が元気なくそう呟いた。


「用心は怠らないようにして、必ず全員で帰還しましょう。」

赤城くんがそう元気付ける。



この食事も何も問題なく終わった。

というのも食べたものはすべて未開封の缶詰。飲み物も高橋が殺された後各自自分で自販機で買い、自己管理していたペットボトルの水なのだから、当然と言えば当然だが。


しかし、その時、またあの嫌な音が全員を襲った。緊急事態の時のサイレンだ。

______伝達します。この島の管理をしている役所の平塚です。現在テロリストにより数名が行方不明。テロリストの目的も不明。未だ事態は改善していません。私も次いつこの放送ができるかわかりません。皆さん、どうかご無事で。建物に無理やり入るような例は報告されていません。そのためみなさん、変わらず絶対室内待機をお願いします。何があっても外へ出ないでください。皆さんのご無事を祈っております。________


「平塚さん…。」

「東條さん、お知り合いですか。」

「いえ、まだ会ったことはないんですが、本来であれば今日、役所でお会いするはずの方のお名前です。」


「じゃあ、この放送は嘘じゃないということですか…。」

飯田は信じられないと言った様子だ。

「私も正直テロリストは犯人が用意した嘘だろうと思ってたんです。ですが今のは明らかに人の声だった。その人が実際いる人と一致するなんて…。」

「自分も正直、テロリストは嘘だと思ってたんですよ。ただ少しわからなくなってしまいましたね。」

東條もそう答える。


「不安を重ねるようで申し訳ないのですが、私は平塚さんを知っています。無論、私はこの島に住む人なら全員知り合いなので…。」

管理人がそう続いた。

全員が驚きの表情で管理人を見る。


「いや、その…今の声、とても似ていたように思います。本人ではないかと。」

先程まで少し安心していた雰囲気が一気に緊迫した雰囲気へと戻った。

誰か気をおかしくしてしまうのではないかという状況だ。


「そうでしたら簡単な話です。」

私は居た堪れず強い口調でその雰囲気を壊した。

全員が驚いた表情で次は私を見つめる。


「その平塚という男も犯人とグル、それだけの話でしょう。テロリストは絶対にあり得ないです。」


「何でそこまで言い切れるのよ。」

佐藤にそう反論される。


「私はなぜこの計画殺人の舞台にこの島が選ばれたのか、本当に分かりませんでした。ただもし平塚という人がグルなのであれば、この今の状況を作り出すためにこの島を選んだという理由がわかります。第一なんですか、とにかく室内にいるだけでいいテロって。意味がわからなすぎる。それに本当に島を巻き込むテロなら警察が絶対黙ってないし、絶対すぐバレるはずです。皆さんだってテロなんてあり得ないって思ってたんでしょう。でもこの旅館の人全員がここから逃げられない状況なんてそう簡単に作れない。苦し紛れでも時間稼ぎのためにやってるんでしょう。おそらく平塚はこの状況を作るためだけではなく、元々犯人とグルで、殺人計画するうちに思いついたのが今の状況なんだと思います。」


「でも、それこそこんな子供じみた嘘を島全体を巻き込んでやるなんて。実際警察が来る様子もなさそうですし。」

管理人の國谷がそう答えるが、そんなことは簡単な話だ。


「この放送が流れているのは、おそらくこの旅館の前のスピーカーからだけですよ。麓の島民の方々はおそらく変わらない日常を送ってるんじゃないですか。」

「なるほど。そんなことも出来るんですね。」

國谷は少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。


「清野さん、そこまで言うなら、あなたが窓を割って外に出て状況を確認してきてもらえない?」

佐藤からそう提案された。

無論かまわない。私はテロが嘘であるという絶対的な自信があった。


「では、窓を破って外に出ます。管理人さん、ハンマーか何かありますか。」

「はい、今持ってきますね。」


全員がこの死と隣り合わせの状況から解放される、少しだけだがそう希望が見え始めていた。


パアアアアアン。


しかしその時、とても大きく衝撃的な音が近くの外から聞こえた。

しばらくそこにいた誰もが動かなかった。私も驚きのあまり、思わず固まってしまった。


「…銃声?」

しばらくの沈黙のあと、私は訳がわからずそう呟いた。


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