第108話 土下座されても絶対に許さない
恐らく当時、私も圭介も悪気なんか一切なかったし犬飼さんに対して酷い事をしているという認識すらなかっただろう。
だからこそ私は当時犬飼さんにした酷い事を忘れていたのである。
そして、犬飼さんが『思い出せないのならば謝らなくても良い』と言った気持ちも理解できる。
結局、犬飼さんに対して何をやったのか分かっていないのならば、謝った所でいったい何について謝罪をして、これから反省をしていけばいいのか分からない状態で謝罪の言葉だけをこちらから一方的に投げつけて『謝ったのだから許せ』というのは流石に無いと私も思ってしまう。
「それで私を呼んだのですか? 過去の事ですし今さら謝ってもらても過去が変るわけでもありませんし、覚えてすらいないのでしたら今さら謝る必要もないと昨日申したはずですが?」
「それは……そうなんだけど……それでも謝らせて欲しい。 圭介が言った事だからと言い訳をするつもりもないです。 私も後ろで笑って圭介を止める事すらしなかったのだから同罪です」
そして私はスマホから犬飼さんへメッセージを送り、早朝人目の付かない場所へと呼び寄せて私が昔犬飼さんにした事を思い出した事、そしてその事について謝罪をしたい事を告げる。
しかしながら犬飼さんは『もう終わった事だ』と言うのだが、いじめた本人がその事について謝罪も何もしていないのに終わった事ではないと私は思う。
わたしの謝罪で許して貰えるとは思ってはいないのだが、これで犬飼さんの中で一つの区切りになればと思う。
そして私は犬飼さんに向かって土下座をして謝罪と、今になって当時私が犬飼さんにしてきた事はどう考えてもいじめであり、当時はいじめとすら思っていなかった事など、自分の気持ちを包み隠さず話す。
「もういいですからっ。 分かりましたからとりあえず土下座は止めてくださいっ! 謝罪も受け入れますからっ! 私も大人になって子供ゆえの無知が招いた事だと理解はしておりますのでっ! それに、誰が悪いと言えば東城であって彩音さんではございませんからっ! これではまるで昔の事を引っ張り出して私が彩音さんをいじめているみたいではないですかっ!!」
そして、わたしと犬飼さんはお互いに抱きしめてわんわんと鳴き始める。
犬飼さんは、私が謝罪をしてしまったら許してしまうと言うのが分かっていたから私に謝って欲しくなかったのだと後で謝られ『意地悪をしていたのは私も同じなのでお互い様です』と言ってくれた。
因みに犬飼さん曰く『東城だけは土下座されても絶対に許さない』との事である。
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