第106話 硬い握手を交わす
なので私がむっつりスケベだからだとかそういうのではないのだという事は理解してほしい。
しかしながら、だからと言って報酬がないのはまた違う話である。
労働を強いておいて対価は払わないというのはやはりあってはならない事であるからして、労働に見合った対価を要求する事は当たり前のことであり私の権利でもある。
そしてその権利があるのに行使せず対価を貰わないというのは後に私と同じように無償の労働を強いてしまうキッカケとなってしまうので絶対にやってはならない。
前例を作るという事は良くも悪くもそういう事なのだ。
だから私はむっつりスケべなのではなくて正当な対価を今から請求するだけなのである。
「それで、私にもその天竺は見させてもらえるのでしょうね?」
「当たり前でしょう。 これはいわば共犯関係でもあります」
「きょ、共犯だなんて……他に言いようがあるでしょう……」
犬飼さんの『共犯』という言葉に少しだけ引っかかってしまうのだが、今から私達がやろうとしている事は私有地だからこそ許される行為であって、これがちゃんとした銭湯や旅館である場合は間違いなく犯罪行為であるため強く否定はできずに口籠もってしまう。
「他にどのような言い方があるのかは知りませんが、とにかく私達は二人で一つの関係になるという事です」
「……それってどういう事……?」
「そうですね、この場合は運命共同体と言ってもいいでしょう。 どちらかが裏切れば終わるという事です。 お互いにお互いへ不平等な事をさせて不満を募らせてしまうような事を相手におこなってしまう事は巡り巡って自分自身に跳ね返ってくるという事です。 例えばの話ですかここで私だけが天竺を見た後に『彩音さんに見せるわけがないでしょう』と言ってしまうと、後日彩音さんは私を裏切って祐也さんに私が祐也さんの天竺を覗いていた事をチクられる可能性が非常に高くなるという事です」
「……と、いうことは……っ」
「はい。 今彩音さんが考えている通り、彩音さんにも天竺を眺めることができるように協力をいたしましょう。 ただし、この作戦を考えて事前に祐也さんの行動を把握していた私の方が今回多く働いたという事で、最初に祐也さんの天竺を覗くのは私からとさせてもらいます」
そして私と犬飼さんは露天風呂の女湯で硬い握手を交わす。
「なぁ、盛り上がっているところ申し訳ないが、隣に俺がいるということはとどのつまりさっきまでの会話は全部筒抜けだからな。 覗きをするときはそれを踏まえた上で覗いてくれよ? その勇気が有ればだが」
「…………と先ほど私は言いましたがここは彩音さんに先方を譲りましょう」
「……………………違うのぉぉぉぉぉおおおおっ!!!!」
そして私はこの後温泉からあがった祐也さんに弁明しまくったので私がむっつりスケベであるという誤解は免れただろう。
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