第91話 やっぱりあれは夢だったんだ


「うっ……」


 どうやらいつの間にか眠っていたららしい。


 それもそうか。


 普通に考えてあの南川が、実は俺のストーカーであり、その衝動を抑えきれずに俺を自宅におびき寄せて襲うなんて事がある訳がない。


 そんな夢を観てしまうくらいには、俺はここ最近のストレスで疲れ切ってしまっていたのだろう。


「あ、やっと起きたっ。 いきなり倒れたんやもん、びっくりするわホンマ。 今丁度晩ご飯作ってるところやからそこでお行儀よく待っとってな」

「お、おうっ。 すまんな」

「ええって事よ。 それじゃウチはキッチンに戻るわ」


 ほら、やっぱりあれは夢だったんだ。


 俺もいくら疲れているからと言って一緒に作戦を考えてくれるという南川をほっといて勝手に眠るだけではなくてあんな夢を観るなんて、いくら何でも南川に失礼過ぎるだろう。


 しかも南川は眠りこけていた俺の晩ご飯ま作ってくれるというではないか。


「それじゃぁ俺も手伝うよ」


 流石にそこまでされては俺の良心も苦しくなるので良い匂いが漂い始めているキッチンへと向く為に立ち上がり、一歩二歩と踏み出して三歩目を歩こうとしたその時である。


「ふべっ!?」


 『ガチャンッ!!』という音と共に俺の右足首が何かに引っかかってしまいそのままバランスを崩して前のめりで倒れてしまうではないか。


「もう、何をやっとんのっ。 せやからお行儀よく待っとってって言ったやんか」


 そして俺が倒れた音を聞いて心配そうに南川が制服にエプロンを付けた格好でパタパタと俺の元へと駆け寄ってくれる。

 

 その姿は可愛いのだが、それとは別に何故かその可愛さを打ち消す程の恐怖も同時に感じてしまう。


「うん、チェーンも足輪も、固定しているベッドも大丈夫そうやね。 少しだけベッドが衝撃でズレてもうてるけど、これくらいならばベッドの位置を直せばええだけやもん」


 そう言いながら南川は制服にエプロン姿で俺の足につけられたチェーンを繋げているベッドの位置を直してくれる。


「あ、そうそう。 今丁度彩音からメールと写真が数枚ほど送られて来てな、向こうも今から晩御飯みたいらしいわ。 ほら、山菜尽くしで意外と美味しそうやって。 確かに美味しそうやね。 でもその料理に負けないくらいの、愛情たっぷりの料理を今から作ってあげるから、今度こそお行儀よく待っとてな?」


 そして、嬉しそうに俺へと見せてくれる彩音から送られた写真には、とても幸せそうな彩音と美味しそうな料理の数々、元気そうな妹の莉音の姿に隠し撮りしていると一目で分かる西條裕也の姿が写っていた。

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