第89話 私が頭一つリードって訳ねっ!

 そんな俺の反応を見た美咲が言うに事欠いて『内縁の妻』などと言い始めるではないか。


 他に例えようがあるだろうし、美咲が常に俺の側に居るのは側仕えだからであり内縁の妻だからではない。


「私は、本気ですから」


 そう反論しようとしたのが美咲に感付かれたのか、俺が口を開くよりも先に美咲が真剣な表情と声音で『本気である』と言ってくる。


 どこぞのハーレム主人公のように聞こえているし理解もしているにもかかわらず『何が本気なのか分からない』と惚ける事もできるのだが、それはあまりにも美咲に対して不誠実であると思った為その言葉は口にしない


「……そうか、分かった。 本当はもう少しだけこのぬるま湯に浸かっていたかったのだが流石にもうそんな訳にもいかないか。 俺も真剣に向き合う事にするよ。 その結果どのような結末になるのかは分からないのだが……」

「……は、はい。 で、でででででではっ。 そそ、そういう事なのでっ!!」


 恐らく相当緊張と覚悟、そして勇気をもってあの『本気ですから』という一言を言ったのだろう。


 そして俺からの返事を聞けて、ホッとしたのか緊張が切れてしまいいつもの美咲らしからぬ狼狽えかたをして、それでも何とか別れの挨拶を言い終えると顔を真っ赤にしながらこの場から走るように去っている。


 うん、はっきり言って眼福すぎると思うくらいには可愛いと思ってしまう。


 しかしながら俺はこれから彩音と美咲の関係をどうしたいのか、そして俺自身はどう思っているのか真剣に向き合っていかなくなった訳である。


 ベターな応えを出すのか、それともそうではない応えを出すのか、もしくはいっその事開き直った答えを出すのか、しっかりと考えて行かなければと気を引き締める。


「あっ、やっと見つけたっ!! なんでお姉ちゃんもアンタも美咲さんも私を手伝ってくれないのよっ!! こんなか弱くて美人で可愛い女の子が仕込み作業で大変なんだから少しは手伝いなさいよっ!! 筋取りの工程を聞いた瞬間に私は目の前のふきの量を見て心が折れたんだからそれくらいの事察しなさいよっ!!」

「いや、そういう話だっただろ……。 あと察しろは流石に俺もエスパーではないから無理がある」

「だからこうやって可愛くお願いしに来ているんじゃないっ!! さぁ行くわよっ!!」


 『可愛く』とは、いったい何なんだろうな。


 そして、彩音と美咲で悩んでいる時に莉音が俺達を探していたようで、心が折れたからふきの仕込みを手伝ってくれと俺の腕を掴んで俺の答えも聞かずに連れて行こうとする。


 今この時に関しては逆に無駄な事を考えないで済む為ナイスタイミングだと思うものの口に出したら調子に乗るのが目に見えているので決して口にはしないが。 


「はっ、これってもしかしてもしかしなくても二人を出し抜くチャンスなのではっ!? これで私が頭一つリードって訳ねっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る