第83話 何で帰ろうとするん?

「とりあえずリビングでテレビでも観といてや。 ウチちょっとトイレ行ってくるわ」


 そして俺は南川からリビングを案内されて一人にされる。


 しかしその間なぜか第六感が逃げろと警告してくるではないか。


 西條の家でそう思うのならば分かるのだが、南川の家でそんな事を思ってしまうのは理解できないのだが、確かにこの家には何故かさっきから違和感を感じるのである。


 そして俺はダメだと思いながら一度気になった違和感の事の正体がなんなのか知りたくなったため、南川には悪いのだが家の中を見て回ることにする。


 すると、恐らく南川の部屋であろう扉の前に来たのだが、彼女の部屋の引き戸にはネジを使って十センチ×三センチ程の鉄板でできたドアロックが取り付けられており、鍵の開いた南京錠がかかっているではないか。


 普通、家族しか住んでいない家で自分の部屋に鍵をかけるか? とは思うものの年頃の女の子ならば反抗期になれば鍵くらいは取り付けたくなるのだろう。


 正直いうと俺も自分の部屋に鍵欲しいしな。


 そんな事を思いながら俺はそのまま南川の部屋であろう扉を軽率にも開けてしまう。


 なぜこの時俺は『何故鍵が外側・・に取り付けられていたのか』を考えるべきだったのだ。


 少し考えれば『家族にすら観られたくないものがそこにはあるのだと考え、この部屋を開ける事もなかっただろう。


「な、何だよこれ……」


 そして彼女の部屋には俺の写真が壁いっぱいに、普通サイズの写真から引き伸ばされた大きいサイズまで所狭しと隙間なく俺の様々な写真がそこには貼られていた。


 登校時の俺、下校時の俺、学園での俺、小等部から高等部までの俺、体育祭や修学旅行など行事ごとの俺。


 そして、休日に友達と遊びに行っている俺、夜中親の目を盗んでコンビニに行く俺、自分の部屋の中で寛いでいる時の俺、そして風呂上がりで全身裸の俺に、自分で慰めている時の……俺。


「な、何だよこれ……?」


 そこには俺の日常から誰にも観られたくないプライベートなものまでビッシリと埋め尽くされているではないか。


 何故? どうして? そしてどうやってこれらの写真を撮ったのか分からないのだが、ただ俺の第六感が逃げろと警告していた事がようやっと理解できた。


 や、やばいっ!! 早くここから逃げなきゃっ!!


 そう思うや否や俺はこの家から出ようと玄関まで走るのだが、そこには鎖で巻かれて南京錠で固定されたハンドルタイプのドアノブがあった。


 俺がここへ入った時に聞こえて来た鍵が閉まる音は南京錠の音であり、家の扉の鍵を閉める音ではない為違和感を感じていたのであると気づく。


「圭介、何で帰ろうとするん? まだ来たばっかりやろ? 連休はまだ始まったばかりやで」

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