第66話 最悪
前の俺の年齢から見て一周りも年下の女の子に慰める俺って……。
そして気がついたら野次馬ができており、涙なんか羞恥心で一瞬にして消え去った。
美男美女過ぎるのも大変だな、と他人事のように思ってしまう。
「あ、ありがとうな……まぁ、泣いてないけどな」
「はい。 そういう事にしといてあげましょう」
そして俺たちは互いに少しだけ顔を赤らめながら野次馬を掻き分けながら今この場所から逃げ出す。
どれくらい走っただろうか?
気が付いたら俺達は逸れないように手を握っていたらしい。
「あ、すみませんっ!!」
その事に気づいた美咲が握った手を離そうとするのだが、俺は逆に力を込めて美咲の小さな手を握り返す。
「何故謝る必要がある? 手を繋ぐ事ぐらい別に良いだろう? 今日は美咲のための一日なのだから繋ぎたくないと言うのであれば手は離すが?」
「…………で、では……このままでお願いします」
そして俺たちは、まるで付き合いたての学生カップルのような雰囲気でとりあえず映画を見に歩き始めるのであった。
◆
「あ、走ってっちゃった。 凄い美男美女だったね」
「本当、まるで物語の主人公とヒロインみたいだったね」
そんな声が周りで聞こえてくる中、私はそれどころではなかった。
「何でアイツが泣いているのよ……泣きたいのは私の方だし、何ならお姉ちゃんの方だし……意味が分からないっ」
アイツに泣く権利すら無いし、私のお姉ちゃんに土下座して謝罪した上で婚約を解消するべきであるとすら思う。
だというのに、何故かアイツが泣いた光景が私の胸に突き刺さる。
アイツの涙に何の価値があるというのか。
ふざけんな、と叫ぶ事ができればどんなに楽であるか。
確かに私が犯されそうになった時に助けてくれたのは感謝はしているのだが、それでアイツの性格が帳消しになったと思われてはたまったものではない。
お姉ちゃんは簡単で単純な性格をしているし騙しやすいかも知れないのだが、私まで騙せるとは思わないで欲しい。
しかしながらアイツの泣いている姿を見ると、まるでコッチが加害者のように思えてくるではないか。
未だにお姉ちゃんを匿っている癖に……。
その後の一日は最悪であった。
折角の休日だというのにあの涙が頭の中で過ってまったくもって楽しめない。
「あーーもうっ! 最悪最悪最悪最悪最悪最悪っ!!」
何でアイツのせいで折角の休みに私がこんな気分にならなければいけないのか。
しかもこうして私が苦しんでいる間にアイツは側仕えと一緒にイチャイチャしていると思えば余計に腹が立って仕方がない。
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