第64話 きっと気のせい

 因みに今日は美咲の為の一日なので彩音にはお留守番をしてもらっている。


 何故だか分からないのだが「一緒に行くのが将来妻となる私の役目では?」と、わりと真面目な表情と声音で語っていたので彩音本人は至って真面目な発言だったのだろう。


 何故そこまでして嫌っているはずの俺と休日一緒に過ごしたいのかは理解できないのだが、これが彩音なりのケジメと覚悟なのかもしれないと思うとしっくり来たのできっとそうなのだろう。


 もしかすれば、北条グループの従業員や両親が頑張って働いているのにも関わらず自分だけ駄々こねているという現状に耐えられなくなったのかもしれない。


 実際には何がきっかけでここ最近に渡って彼女をそうさせているのかは分からないのだが、俺に対して好意を抱いている事は無いという事だけは理解している。


 女生というのは生まれながらの女優であるという事は前世で嫌という程理解させられたものだ。

 

 それこそ覚悟を決めた女性というものは特に。


「裕也様、まさかとは思いますが別の女性の事を考えておいでですか?」

「すまねぇ。 少しだけ考え事をしていただけだ」

「……そうですか」

「そうだ」


 そして、女性の勘もまた、凄い能力だという事も。


 そんな事を考えながら俺は軽く美咲に謝罪し、頭を撫でてやると美咲は機嫌をなおしてくれたのでホッとする。


「それでまた、何でイーオンなんだ?」

「そ、それは……その……裕也様と、その……学生デート気分を味わいたいな……と思いまして……」


 とりあえず話題を変えようと思い何でイーオンに二人で行きたいと思ったのか聞いてみると、美咲は理由を話すのが恥ずかしいのか顔を赤らめながらもじもじと喋り始めた。


 なんだ? この可愛い生き物は。


 そもそも今日は普段の側仕え用の質素な服ではなくて今時の若者が着そうなお洒落な衣服で着飾っており、そのギャップも相まってその破壊力は抜群である。


 それは俺だけの話ではなく、周囲でこちらを見ている男女から「可愛すぎる」「持って帰りたいっ!」「ずっと甘やかしてあげたいっ!」などと言う声が聞こえてくる始末である。


 とりあえず、野次馬達を気にしていると何もできなくなるので無視して美咲とまた歩き出す。


「それにしても、まさか私にこんな日が来るとは夢にも思わなかったです。 今日は本当にありがとうございました」

「そこまで喜んでくれたのならば、これからも定期的にしてあげないとな。 あとまだイーオンに来たばかりだからこれからしっかりと楽しんで行こうか?」

「|そ、そうですねっ!!今日はまだまだこれからですねっ!!《こ、これはもしかして、子種が欲しいと言えばくれるのでは?》」


 なんか、耳で聞こえた言葉と内容が異なっている気がするのだがきっと気のせいだろう。


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