第62話 側仕えとして当然です
「そんな訳がない……」
南川はそう言っているのだが、今までアイツの態度から察するに俺の事が好きだったはずである。
それがいきなりこの短期間で好きな相手が変わるのかと言われれば、俺はあり得ないと断言できる。
何故ならば今好きな人を彩音から南川に変えろと言われても無理だからであるっ!!
「あんた今かなり失礼な事思ったやろ? 顔に出てるで?」
「西條の野郎……覚えておけよ」
「無視すんなしっ!」
そう分かっていながら今の俺は西條を睨みつける事しか出来ないのであった。
◆
未だに何がきっかけでそうなったのかは分からないのだが、ここ最近の彩音は俺に対してかなり柔らかな反応をする様になっており、非常に過ごし易い日々が続いている。
それは別に良い。
流石に俺の事を好きになったとはいくら何でも思い難い上にそんな思春期のような希望に満ちた思考回路は社会に出てものの見事に無くなっている為、彩音が俺の妻になる事を受け入れて覚悟を決めたのだろうと勝手に解釈しているのだがあながち間違ってはいないだろうと思う。
それは別に良い。
いや、彩音自身には俺とは別に圭介という好きな人がいる手前申し訳ないとは思うのだが、流石の俺も大多数の人間を不幸にしてまでこの婚約を破棄させる勇気は無い。
おそらく、もう別に今婚約破棄をしても大丈夫かもしれないのだが、そうなった時ただでさえ元々西條グループにいた人間と北条グループにいた人間との間には表向きはうまく立ち回っているみたいなのだがそれでも注意深く観察すれば小さな溝がある事は内部告知から伝わっているのである。
こればかりは仕方の無い事だとは思うのだが、俺がここで彩音と婚約破棄をしてしまうと更にその溝は深くなり表面化してしまう可能性もかなり内部分裂しかねない。
ここは共同プロジェクトを立ち上げて仲間意識を強く持たせなければいけない時期にも関わらず西條グループを継ぐ人間の俺がそんな態度をして良い訳がない。
ここまで長ったらしく色々理由づけしてきたのだがトロッコ問題と一緒で俺は彩音と大勢の選択しかない状態ならば彩音一人を不幸にする方を選ぶし、トドのつまり大勢の人間を不幸にするようなそんな度胸は俺には無いのである。
その分彩音には優しくしてあげようとは思っているのでそれで勘弁願いたい。
しかしながらそれは良い。
ここまでは良いし、おそらく彩音も俺と同じ考えに至ったからこそのここ最近の軟化した態度なのだろうと考えれば辻褄が合うのだが、これは流石にどう考えても行き過ぎている。
「なんでお前がお風呂に入って来てんだよ。 俺が先に入ると確かにお前に言った筈では? 後、美咲もなんで止めなかった」
「主人の背中を流すのは側仕えとして当然です」
「こ、婚約者の背中を流す事こそ当たり前で、側仕えに私の権利を奪われたくありませんっ」
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