第25話 女の顔になる彩音

 そして俺は周囲の腐りきった空気などお構いなしに婚約者の元まで歩いて行くと、そのまま彩音にわざとらしく肩を抱いて引き寄せ、そのまま校門をくぐろうとする。


「おい待て。 誰が彩音を連れていて良いと言った?」


 そんな俺に向かって圭介が怒りの籠った目を俺に向け、睨みつけながらそんな事を言ってくるではないか。


 お前は何様だよ? という怒りが半分と、初めて向けられた殺意に近い感情に恐怖の感情が半分、それらが混じった感情を感じてしまうのだがそこはグッと抑える。


 今の俺ならばこのクソガキ一人くらいどうにでも出来そうだという安心感と、いつでも潰せるから今じゃなくても良いという余裕があるのが強い。


 今更ながら格闘技を習う事による精神的な利点がありがたく思う。


 今まで格闘技を習ってくれてありがとう、もう一人の僕。


 話は戻すとして、そもそもいつでも潰せるのだ。 わざわざこの、自分の立場も弁えることができないクソガキの為に俺がわざわざ時間を合わせてやる必要も無いだろう。


 むしろこうして自分の感情のまま動けば動くほど悪手であり自分の首を絞めてしまう行為であると教えてあげたほうが良いかもしれない。 とは思うものの、敵からの助言など、いや、誰の助言であろうとも聞く耳持たないのが若さの特権でもあるのだろう。

 

 そうして失敗という財産を増やしていける時期でもあり、自分の身の丈を客観視できる目養う事ができる期間でもある。

 

 それに気づけるか気づけないかがこれからの人生に大きく左右する価値観となるのだが、それはこいつ次第だろう。


 振り返って後悔した時に人は成長するものであると俺は思っている。


 とにかく思春期の、それも愛する者を奪われ、それを取り返しに行くという正義のヒーロー気取りのクソガキにはバカ以上につける薬がないという事は俺自身の思春期がそうであったように良くわかる。


「お前こそ、誰の婚約者にベタベタと近づいて鼻の下を伸ばしている? どちらが正しいか客観的に見れないクソガキが一々突っかかって来るのならば、法の裁きの下で潰すぞ?」

「はんっ、やれるもんならばやってみろよっ!! どう考えても悪はお前だろうがっ!! その時はお前の悪事が裁かれる時だなっ!!」


 若いなぁー。 うん若い。 


 その若さが少しばかり羨ましいとすら思ってしまうのだが、時間は有限なのでバカに構っている時間は無いのである。


「………あっそ。 行くぞ、彩音」

「……はい、祐也様」


 そして俺が、もう圭介に対して興味が失せたとばかりに彩音の肩に腕を回したまま校舎のある方角へと歩き始めるのだが、その腕を圭介に半ば強引に振り解かれる。


「け、圭介くん……っ」


 そして一丁前に女の顔になる彩音にも、言葉が通用しないからと暴力を行使する東城圭介も、その行為が正しいとばかりに囃し立てる周囲も、ぶっ潰してやりたいと思ってしまう。

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