通りすがりのサンタ

 残業を終えて外に出ると白い物がふわふわと降りてきた。

 思わず天を仰ぎ、手のひらを差し出す。

 冷たさを感じるはずのその場所に不意に他人の温度が重ねられた。


「めりー!くりすまーす!」


 赤い帽子を被った見知らぬ誰かの笑顔は、すぐに雑踏に紛れていく。

 作ったようなテンションと逃げるような素早さ。手のひらの上には、雪の結晶を模した小さな指輪がひとつ残されていた。

 世間を彩る、白や緑や赤のイルミネーションが瞬いて、小さく透明な石をきらめかせている。

 小指にも嵌まらないようなサイズに首を傾げて、はたと現実に帰った。


 なんだろうこれは。

 どうしてわたしに。

 あのひとはだれ。


 答えはどこにもなくて、でも、ひとひら落ちてきた雪がその指輪に寄り添うように触れたので……


 私はそっと手のひらを閉じた。

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