第4話 オリビエとハスラム 4

 


 それは数日前のことだった。


「だから付いて来るなっていっただろう」


 森の奥深く、どこか分からない場所に二人はいた。

 今日は歳の近い男子だけで集落近くの森へ冒険に出ていた。

 集落近くはまだ安全だが、森の中となると凶暴な獣や魔物が出没して危なかった。


「だって」


 いっしょに遊びたいという思いからオリビエは、こっそりと付いてきていた。


「危ない所に行くんだから」 


 森に自生する果実を採りに行く予定だった。

 ハスラムたちは案の定、森で魔物に出くわして逃げていれば、離れた所からオリビエの悲鳴が聞こえた。

 一緒に来ていた仲間を先に集落に返して、大人を呼んできて欲しいと頼みオリビエを探していれば、大きな狼のような獣に追われていた。


 今この大陸には魔物と呼ばれる異界から来た異形の生物と、魔物の発する瘴気に侵され狂暴化した獣が人を襲い脅威となっていた。


「このやろう!」


 ハスラムは魔法が使えるようになっていて、簡単に倒せた。


「ハスラム!」


「って、オーリー、なにやってんだ!」


 飛びついてくるオリビエを身体からはがして、文句をいっていると、利き手の左手を突き出してきた。


「さっき見つけたの」


 拾った時に獣に襲われてしまったようだ。


「短剣だよな」


 柄のところどころに宝石がはめられていた跡がある。

 宝石だけ取られて捨てられたのだろうか。


「元の所に戻しておけ」


「きれいだよ」


 キラキラ瞳で見ていた。

 戻す気がないと判断して、オリビエから取り上げようとするが、ハスラムには触れることができなかった。


「え! どうして?」


 再び試すが同じだった。


「持てないの?」


 オリビエは首を横にして短剣を握り直す。


「何故だ?」


 ハスラムは、オリビエの握っている短剣を指でつつくが、そこには何もないように指はすり抜けてオリビエの手に付く。


「……、父さんに聞くしかないな」


 ヤバイものは即捨てるに限るが、気持ち悪いが先に立った。

 こんな気分の時は真実を知りたい方が優先になる。



「また変なものを」


 しばらくしてハスラムの父クロードが二人を見付けた。


「オーリーが拾った」


 見たもの全てが好奇心の対象である性格だからと言い訳をする。


「分かってますよ。これ、触れることができませんね」


 魔術の知識が大陸一の存在が頭を抱えていた。


「父さん、マズい物だよね」


 この様子にハスラムは呪いのアイテムではないかと顔がこわばってくる。


「魔力がかなりある物なのですが、なんといえばいいのか。いずれ継承者に返さないとね」


「継承者? 返すって、誰の物か知っているの?」


 こんな不気味な物とはさっさとおさらばしたい。


「探してということになりますが……。ハスラム、がんばりなさい」


「どうしてオレなんだ?」


 ハスラムからは、当然の疑問が出る。

 拾ったのはオリビエであって自分ではない。


「オリビエ一人を危険な目に遭わせるなんてことをあなたはしないでしょう?」


「いや、まあ、そうだけど」


 父親に真顔でいわれ、戸惑った。

 いつもなら一緒にいたのだから一蓮托生でしょうで終わり、後始末を二人でするのだが。


「かなりのやっかい物ってこと?」


「魔術の修行もがんばりましょうね」


 詳しくは言いたくないようだが、父親のこの態度は相当な覚悟を必要とすると時のものだ。


「まったく、ロクなことしない」


 思わずオリビエの頭を拳骨で小突いてしまう。


「痛い」


 涙目で訴えるオリビエに愚痴が出る。


「オマエのせいでオレ、魔術の修行に予定より早く出なきゃあならなくなりそうだぞ!」


「え! 出るって村から?」


「当たり前だろう」


 魔力があり高位の魔術を扱える資質も十分と弟子にしてくれる人物がいた。


「嫌だ!」


 泣きながらしがみついてきた。


「だったら、なんでもかんでも拾うな!」


 オリビエの頭にもう一度拳骨をおみまいして父親に訊く。


「で、何なんだそれ?」


 オリビエの手に握られている短剣を指さす。

 あのいい方、分かっているはずだ。


「今は、いえません。時が来れば全て判りますよ」


 にっこり笑い誤魔化された。


「今知りたいんだけど」


「そうだ。剣は、しばらく封印しましょう」


 見事に無視され、父親は呪文を唱えていた。

 封印されたと世間ではいわれているが、たまに魔術を使っている。

 これも何故と訊いたが笑いですまされている。

 こういった時はどんなに粘ってもダメだとハスラムは知っていた。

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