02:公爵家からのお誘い
僕は貴族だけが通う学園で最高学年となった。
そろそろ夜会シーズンに入り授業も少なくなるなと思いつつ、
「ここに通うのもあと一年か」
感慨深くそう言えば、悪友のコンラーディが聞きつけて茶化してきた。
「そうだよな、結局エスコート令嬢もなしで卒業か」
うるさいよ。
この国で夜会に参加するということは、紳士として女性をしっかりエスコートできると言う事を周りに示す意味も有る。
一般的な貴族の令息なら十六歳には、夜会にデビューして大人の仲間入りを果たすのだ。
そんな僕は今年の誕生日でついに十八歳になる。
しかし、いまだに夜会の経験は無い。
これは物理的にエスコートすべき令嬢が居ないと言う意味でもある。
付け加えれば、コンラーディには居るということ。
一般的に、デビューの年齢が近くなる頃には、親しい貴族の親同士で年齢の近い子供同士を仮婚約と言う扱いでエスコートを役に決めている。
そのまま結婚する人は半数程度だろうか?
そこで結婚しない者は仮の婚約を破棄して、自分で相手を見つけているようだ。
何度も言うが僕にはエスコート嬢が居ない。
これにはちょっとばかり複雑だけど、実は単純な理由がある。
まず僕の家のような子爵程度の爵位であれば、親しくする相手を特に選ぶ必要は無い。普通の貴族的な常識があればオーケーだ。
だけど、ここに侯爵が入れば事情が変わる。
僕が十二歳だった五年前、姉が恋愛の末に侯爵家へ嫁いだのだ。
侯爵家ともなれば、政敵であったり派閥であったりと、親しく出来る範囲が限られてくる。そんな事情があり、姉の進退が決まっていないその時期、若干十二歳の僕の事は後回しになっていた。
そしていざ姉の結婚が決まれば、今度は勝手に縁組を結ぶ事が出来なくなり、僕の婚約者選びは頓挫し今に至る。
なお、いまだ夜会にデビューはしていない僕だが、跡取りで、決まった相手がおらず、おまけに公爵家の義兄がいるというのは、とても優良物件だそうだ。
従って姉の婚約が決まった瞬間は、方々の縁を結びたいという貴族らが僕の許婚相手にと、十歳未満の幼女から始まり、上はそれこそ三十歳付近まで、もの凄い数の申し込みがあったそうだ。
当然、件の理由により先送りになったわけだが、当時十二歳の僕からすれば三十間近のご令嬢? に決まらなくて心底良かったと思う。
長々と述べてみてもコンラーディが言うとおり、僕が夜会デビューが出来ていないガキと言うことには代わりは無い。
っと、こういう理屈っぽいところが僕の悪い癖だな。
結局、僕は散々に考えた言い訳を放棄し、
「どうせ僕は子供だよ」
そう言っておけば満足なんだろう? と、コンラーディに卑屈に返せば、
「いやいや将来の官僚様ですから、子供なんてことは。それより出世したら俺を雇って優遇してくれよな?」
と、ここまでがお約束で、二人で笑いあっておしまいだ。
そんな事情から、学園が多く休みになる夜会シーズンに入ったとしても、僕には一切関係が無い。
はずだったのに……
屋敷に帰ると、待ち構えていた母に僕はサロンに連れて行かれた。
「リッヒ、貴方。公爵家の夜会に出る気は無いかしら?」
「はい?」
母が突然何を言い出したのか理解出来なかった。
「だから公爵家の夜会よ」
「いえ、そうではなく。僕にはエスコートする令嬢が居ませんが?」
「それがね、今回はエスコートなしで来るようにとお誘いがあったのよ。貴方、夜会のデビューがまだだったでしょう、良かったらと思って」
そう言って母は、「どうかしら?」と僕に尋ねてきた。
きっと、家の事情でデビューできていない事に気を使っているのだろうなと、思った。
しかし……
「エスコート無しで来るようにとか、あからさまに可笑しいでしょう?」
「そこは大丈夫よ、実はこれ公爵令嬢の婚約者を探すパーティらしいのよ。まぁ貴方と公爵令嬢は六つも違うからどうせ選ばれる事は無いわ」
それに、と前置き「変に関わらなければ大丈夫よ」だそうだ。
公爵令嬢と言えば、確か嫁いでいった姉と同じ年齢で二十三歳だったはずだ。
確かに今年で十八の誕生日を迎える僕とは釣り合わないだろう。
「ではなぜ、家に招待状が来たのでしょうか?」
「なんかねー、切羽詰ってるみたいで片っ端から若い男に出しまくってるみたいよ」
そう言ってケラケラと笑う母。
そんな何とも言い辛い、裏側の嫌な事情を聞いた僕は苦笑するしかない。
しかし女性は公爵令嬢のみ、あとは男しか参加しない夜会と言うのはどうだろう?
そんな風に思っていたが、実際は違うようで普通の夜会に加えてエスコート無しの若い男性が多めと言う話だった。
「しかしエスコート無しではデビューしたと言わないのでは?」
「ふっふ~ん。だから当日はご令嬢の代わりに、
よろしくね!」
初デビューのエスコート相手が母親かぁ……
「どう考えても黒歴史になりそうなので遠慮したいのですが?」
「あら、どういう意味かしら?」
この時の母は目が笑っていない本気顔だった。
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