第464話
半端者達が龍と共に消えてから一週間が経った。
当初からの計画通り、半端者達が住んでいた場所のボロ小屋を撤去し、新たに住居を建設しながら漁場も整備した。
これで漁獲量は増えるし住民達ももっと増やせる、と意気込んでいたのだが、龍の最後の一言が気になっていた。
『混ざり者』、龍は私を見て確かにそう言っていた。
この私が、あの半端者達と同じ?
あの後、屋敷に帰ってから、鏡を使って全身を確認したがそれらしき所は無かった。
苦し紛れの戯言、と思う事にしたのだが、どうしても気になってしまう。
後妻として迎えた『キャロル』からも、『気にし過ぎ』と言われてしまった。
確かにそうかもしれないな……
そう思う様にし、部下達と開発計画の方を進めていく。
現在は海に『悪魔』がいなくなった事で、大型船を使って漁が出来る様になったが、従来の港では停泊させるのが難しく、今は沖に留めて、漁の度に小舟で乗り移っている。
これでは余りに不便なので、新しく造る港は底を深く掘る事にしたのだが、これが中々難航していて、冒険者ギルドに追加の依頼は出したが、追加の人手が来るまでは不便だが我慢するしかない。
今回部下達と話し合うのは、新しい漁場で手に入れた海産物を何処に卸すか、という事だ。
貴重な物は有力な貴族家に贈答品として送るが、その中でも優先すべき貴族家を決め、それ以外は商業ギルドや通常の販路で売り捌いていく。
悪魔がいなくなった事で、コレからは漁獲量も増える事は間違いない事であり、多少の無茶は出来るだろう。
そう思いながら、色々と計画を練っていく。
だが、最初の数年はどうしても、整備費用の関係で赤字になる事は避けられず、融資をしてもらっている近隣の貴族家から借金する事となった。
勿論、この状態で失敗など許されない、そう思っていたのだが問題が発生した。
「魔物だと?」
「はい、新しい漁場に住み付いたようで、漁師が何人か襲われてます」
会議が終わった後、緊急と言う事でやって来た兵と漁師の何人からか話を聞くと、漁場に鮫型の魔物が現れ、大型船に乗り込む為の小舟を襲っているらしい。
このままだと漁に支障が出るとの事で、対処の為に冒険者ギルドに依頼を出したい、と言うのが彼等の話だった。
馬鹿な、今でもかなりの額を出しているのに、ここで更に追加を出すなどすれば、財政難に更に拍車が掛かってしまう。
しかし、ここで依頼を出さずに放置すれば被害は増える一方だ。
暫く悩んでいると、ズキンと失った右手の指が痛んだ。
戦場で四肢を失った者が、時に、ある筈のない四肢の痛みに苦しんでいるという物と同じだ。
しかし、そこで名案を思い付いた。
別に冒険者ギルドに依頼など出さずとも、我々には十分に強力な武器を持った兵士達がいる。
確かに龍には通用しなかったが、鮫程度であれば間違いなく倒す事が出来るだろう。
よし、直ぐに部隊の準備をせよ!
部隊を揃え、港に到着した後は簡単だ。
鮫型魔物が現れた場所を確認し、そこに囮となる餌を流し、出てきた所を仕留める。
餌は肉、それも屠殺したばかりの家畜だ。
それをそこに小さな穴を開けた小舟に乗せて海に流す。
これで、その穴から血が漏れて、餌がある事を鮫型魔物に知らせる。
後は兵達には銃を構えさせ、その瞬間が来るのを待っていると、水面下から小舟が上空に吹っ飛ばされた。
「撃てぇ!」
私の合図で、構えていた兵達がパパパパパと連射すると、そこ目掛けて鮫型魔獣が上空へと飛び出し、見事、その胴体に多くの銃弾が突き刺さっていく。
龍と違い、今回は間違いなく銃弾は貫通し、鮫型魔物はいきなりの攻撃に驚いたのか身を捩っているが、このまま逃がす訳にもいかない。
隠していた船に乗り込んだ一部の兵士が、海上に出て逃げようとした鮫型魔物に巨大な槍を打ち込み、鎖を船に縛り付けて逃げられない様に引っ張っていく。
普通であれば、小舟程度なんて簡単にひっくり返されるだろうが、銃弾によるダメージは予想以上に大きかったようで、かなり弱っていたが、それでも危険な魔物には変わりない。
不用意に近付けば、簡単に腕程度なら食い千切られるだろうし、下手をすれば死ぬ。
だが、銃さえあれば不用意に近付く必要もなく、簡単に始末出来る。
「構え! 撃てぇ!」
連続して撃ち込まれた銃弾により、鮫型魔物は絶命、海を血で真っ赤に染め上げた。
漁師達に討伐が終わった事を宣言し、安心させて漁をする様に命じた後、屋敷に戻って次の計画を進める準備を始めた。
先だって優先するのは、港、そして住居の建設だ。
指示を出して数日後、執務室で仕事をこなしながら優雅に過ごす。
と言っても、部下達から上がって来る書類を片付け、その都度、指示を出すだけだ。
それも一段落したので、椅子に深く腰掛けて背を伸ばす。
開発計画の障害となっていた半端者がいなくなり、工事は順調に進んでおり、この計画が成功すれば、私の地位は磐石なものとなるだろう。
そうなれば、今はただの平民上がりの町長だが、爵位を得て上位貴族となる未来も見えて来る。
そんな事を夢見ていた時、何やら部屋の外から慌ただしい気配を感じた。
「た、大変です! みみみみ」
「落ち着け、一体何があった?」
部屋に入って来たのは、普段は警備を担当している兵達の隊長であり、普段は沈着冷静なのだが、そんな男が大慌てでやって来た。
息を整えさせ、改めて報告をさせる。
「し、失礼しました。 港にて海から多数の魔物が出現、現在、兵が対応していますが数が多く、このままでは……」
なんだ、そんな事か……
その程度、銃を使ってさっさと蹴散らしてしまえ。
幸いな事に銃弾は余り気味だからな。
そう指示を出して数時間後、戻って来た隊長から『無事に討伐に成功しました』と報告を受けた。
全く、その程度の事で慌てるんじゃない。
しかし、それからほぼ毎日、港の建設現場では海から魔物が現れ続け、その度に討伐しているのだが、その間は当然、作業が止まってしまい、予定よりも作業が遅れてしまっている。
毎回現れるのは鮫型の魔物で、銃を持った兵達によって倒すのは問題無いのだが、これほど立て続けに現れるのはいくらなんでも可笑しい。
しかも、工事が遅れるだけならまだ後から取り返す事は可能だが、魔物が現れるのは工事現場だけではない。
当然、漁をしている場所にも現れ、不漁続きとなってしまっていて、その補填の為に町の蓄えの一部を払っている。
お陰で港の整備計画が遅延している事に頭を抱えてしまうが、どうしてこうも魔物が毎日現れる!?
この後、町は多くの鮫型魔物によって大不漁が続き、漁師への補填を続ける為に、領主に援助を願い続けた事で、余りの金額に不審に思った領主が調査隊を派遣、調査によって町の財政はボロボロ、その原因となっている魔物の増加について、討伐の風景を見た調査官が驚愕していた。
そして調査の結果、魔物が現れ始めたのは、討伐されたという『悪魔』、そして魔物を退治した後の対応に問題があったと判明した。
悪魔は確かに恐ろしい魔物だったが、この海域を含む広範囲を支配していた魔物であり、その悪魔に怯えて他の魔物は近寄らなかった。
しかし、悪魔が討伐された事でこの海域は空白地帯となったが、通常であればそれを察知した他の魔物達が、徐々に新たな縄張りを確保しようとしてやって来るのだが、ここで現れた鮫型の魔物を討伐した際、適切な処置をせずに放置した結果、流れ出た血の臭いが海に広がり、新たな魔物を呼び寄せ、悪魔がいなくなり空白地帯になった事を察知した事で、加速度的に増える事になってしまったという訳だ。
本来、魔物を討伐するのは問題は無いのだが、調査官が驚いたのは、魔物を討伐した後、一部は回収出来ないからと放置したり、討伐後に血の臭いを消す為の適切な処置をしていない事だった。
これでは、やって来る魔物が減る訳もない。
もしも、ここで魔物の出現増加を疑問に思い、冒険者ギルドで調査を依頼したり、漁師達にも話を聞いていれば、ちゃんとした対処が出来ただろう。
何故、それが出来なかったのかと町長であるヘンリーは詰め寄られたが、彼は殆ど事務的な事しかせずに、実務作業等の他は全て部下に対応させており、今回は大賢者の考案した武器を試す絶好の機会としか考えておらず、魔物を退治した後に行う基本的な事すら知らなかった。
調査隊からの報告を受けた領主は、直ぐに冒険者ギルドで討伐専門の冒険者を集めて管理を行う人員と兵を共に送り出し、町長から権限を取り上げて拘束する様に命じた。
町長を拘束する兵達が屋敷に突入すると、そこには茫然自失になって座り込んでいたヘンリーがおり、抵抗される事無く拘束して領主の元へと護送した。
管理をする人員が財政状況を調べる為に屋敷の中を調べると、金目の物が殆ど無く、最初は財政難で売り払ったのかと思ったが帳簿にはその記載は無い上に、拘束されたヘンリーには妻がいる筈だがその姿も無い事から、屋敷に勤めているメイドに話を聞いた所、兵達が突入する前日、夜の内に後妻とこの屋敷の執事長が突如として失踪、二人して駆け落ちをする際に屋敷内の金目の物を根こそぎ持って行ってしまった事が判明し、その事を知ったヘンリーは茫然自失になっていたと言う事だった。
結論から言えば、港町の方は新しい人員と冒険者達によって、何とか安定して漁が出来るまで持ち直したが、その際、破れた網等を修繕出来る様な手先が器用な者が殆どいない事に疑問を持った冒険者により、手先が器用だった大勢の住民がいなくなっており、新しい漁具を短い期間で買い込んだ事も財政を圧迫した事も判明した。
そして、住民を勝手に移住させるのはかなりの問題で、本来は領主の判断が必要になるのだが、ヘンリーはそれを怠った上に正式に書状として記録してしまった事で、相手に住民の返還を要求する事も出来ない。
拘束されたヘンリーは『領の財政・運営に多大な損害を与えた』として、そのまま監獄に収監される事になり、その際に詳細な検査が行われ、純粋な『獣人』ではない事が分かり、収監先は半端者が多い場所になったのだが、最後までヘンリーは『そんな筈は無い』と騒ぎ続けていたという。
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