第461話




 『黄金龍』殿と翼竜ワイバーン達が急にやって来たから、警戒の為に兵士を集めて来ておる、というのであれば、別に隠れてコソコソとしておる必要は無い。

 堂々と大勢の兵士を並べておれば、獣人側も警戒しておると相手に知らしめる事が出来るじゃろう。

 じゃが、ああしてコソコソと兵士を隠しておるんじゃ、『コレから何かします』と考えておるのがバレバレじゃ。

 『黄金龍』殿達がそれでどうにかなるとは思えんが、一応、警戒はしておいた方が良いじゃろう。


「で、何か用かのう?」


「いきなり龍山から龍と翼竜がやって来たとなれば、町長として防衛の為に応戦するのは当然だろう?」


 移住するケリタ殿達は、引っ越しする荷物をゴンドラに運び込んでもらっておるので、ワシが応対するんじゃが、確かヘンリーとか言う町長はニヤリと笑って、そんな事を言っておる。

 しかし、『黄金龍』殿達は町からかなり離れた所に降りておるし、町に対して攻撃する意思は持っておらんから、用事が済めばさっさといなくなるので、何もせん事をオススメするぞ?

 寧ろ、攻撃なんぞしたら、正当防衛で焼き尽くされても文句は言えん。

 ワシがそう言ったら、ヘンリーと一緒にいた護衛の兵が笑いを堪えておるのが見える。

 何ぞ可笑しい所でもあったか?


「何、大賢者様から齎された知識と力で、我々が何時までも龍如きに怯えている等と思われていたとはな」


 ヘンリーが右手を上げると、町の近くに隠れておった兵士達が何やら動き出しておるが、此方の方に近付いてくる気配はない。

 何を考えておるのか分からんけど、何をするつもりじゃ?

 そして、兵士達が何やら並んだかと思えば、最前列の兵士達がその場で膝を突いて、何かを構えておる。


「さぁ! 今こそ我々の力を見せる時!」


 上げた右手を振り下ろした瞬間、かなりデカい炸裂音が複数響いたんじゃが、成程、あの兵士達が構えておるのはマスケットライフルじゃな。

 それも此処から遠目で見た限り、獣人で運用する事を前提として、ライフル本体を大きくし、銃身も厚くして威力や射程を改良しておるようじゃ。

 射撃時の反動も凄まじく大きそうじゃが、膂力も強い獣人が持つから問題は無いんじゃろう。

 そんな特製マスケットライフルから放たれた銃弾は、相当な威力を持っており、恐らくの魔獣や魔物であれば、当たり所によっては致命傷になりうる可能性はある。


『ん? 何かしたか?』


 カカカカカカッと何かが『黄金龍』殿の方から響き、地面に何かがパラパラと落ちていくのが見えたのじゃ。

 確かに、異世界マスケットライフルの威力は高く、当たれば致命傷を与えられるんじゃろうが、それはであればであり、『黄金龍』殿の様な規格外を相手では何の意味も無い。


「ば、馬鹿な……あの攻撃で無傷だと?」


「ミスリルの鎧でも貫通する威力だぞ!?」


 ヘンリーと一緒におる兵士がそんな事を言っておるが、いやミスリルの鎧て……

 龍種の鱗がミスリル程度と同格な訳が無いじゃろう。

 鱗の強度がミスリルと同程度なら、ミスリル自体の強度は砂糖菓子のマジパン程度じゃ。

 しかし、翼竜達の方を狙わなかったのは幸いじゃ。

 今回輸送にと連れて来た翼竜には、『黄金龍』殿の様な強力な鱗は持っておらんし、翼膜は部分は柔いから、当たれば飛べなくなってしまう可能性があった。

 まぁ、その翼竜達の前にはベヤヤとムッさんがおるから、もし狙われておったり、流れ弾があったとしても、防いでくれたじゃろうけどな。

 『黄金龍』殿が周囲に落ちた弾丸で、自身が攻撃された事にようやく気が付いたのか、遠くに隠れておった兵士達の方に視線を向けた。


『巫女よ、消し飛ばしても良いか?』


 そんな事して下手に危害を加えたら、国や冒険者ギルドから討伐目的の連中が延々龍山にやってくる事になって、後々面倒な事になるじゃろうし、放っておいた方が良いじゃろ。

 そもそも、マスケットライフル程度では、どんなに威力を突き詰めても亜竜以上の防御力を持つ龍種相手では完全に力不足じゃろうし、技術力で龍種を討伐するともなれば、大口径砲の戦車とか戦艦クラスの主砲が必要になるじゃろう。

 それでも多少のダメージが入る程度で、致命傷には程遠いじゃろうけどな。


「さて、御大層な武器も無意味と分かったんじゃから、さっさと戻ったらどうじゃ?」


 別に此方から攻撃する事も無いんじゃが、これ以上刺激して『黄金龍』殿が怒ったら、それこそ殲滅される事になってしまう。

 それに、あの程度で龍種が狩れるのであれば、龍種を狩るのに苦労はせんし、世に龍種素材の武具が溢れておるじゃろう。


「大賢者様が考案された武器が無意味だと!? そんな筈は無い!」


 ワシの言葉でヘンリーが逆上したのか、懐から何かを取り出して『黄金龍』殿に向けたんじゃが、アレは拳銃かのう?

 ただ、拳銃にしてはかなり大型で、分かり易く言えばデザートイーグルより二回りは大きいし、自動拳銃オートマチックは構造が複雑で技術的に作れんじゃろうから、多分単発装填式なんじゃろう。

 しかし、ライフルが通用しておらんのに、いくら大型にしておるとはいえ拳銃程度で効果があるとは思えんのじゃけど……

 もしや装填しておる銃弾が特別製なんじゃろうか?


「我々の知恵を喰らえ!」


 ズガァンッ!と凄まじい炸裂音が響き渡った。

 『黄金龍』殿が怪訝そうな表情を浮かべておるが、そうもなるじゃろう。

 何せ、凄まじい炸裂音はしたが、装填されておった銃弾は発射されず、ヘンリーの持っておる拳銃はその場で爆散してしまったんじゃもの。

 恐らく、装填しておる銃弾か銃身に問題があって、中で詰まって爆発したんじゃろう。


「ウギャァァアッ!!?」


 自身の手の惨状にヘンリーがやっと気が付いたのか、手を押さえてその場で蹲っておる。

 ぶっちゃけ、拳銃の爆発によって、持っておった右手の指で無事に残っておるのは薬指と小指だけで、人差し指と中指は吹っ飛び、親指は皮一枚程度で繋がっておる様な状態。

 護衛の兵士達もまさかの状態に慌てておるが、ヘンリーも押さえはおるがダバダバと流血しておる。

 仕方無いのう。


「全く……ホレ、治療してやるからそっちのデカいの、この男の腕を押さえて手を見せい。 そっちは動かん様に押さえよ」


 ワシが指示を出し、護衛の兵士達にヘンリーを押さえさせると、インベントリから、治療用のポーションを取り出して、中身をボロボロになっておる右手に掛けると、傷口にじわじわと皮膚が出来上がって広がっていく。

 今回使用したのは、単純に傷口を塞ぐだけのポーションじゃ。

 失った指を再生させるポーションも作ってはあるんじゃが、こんな同族にも礼節を欠く様な愚か者に使うつもりは無い。

 

「うぐぐ、こ、こんな筈では……」


『巫女よ、この地より『混ざり者』を連れて行くという話だが、その愚か者は連れて行かなくとも良いのか?』


 完全に血が止まったのを確認して立ち上がると、『黄金龍』殿が見下ろす様にしてそんな事を言っておるが、予想しておったけど、やはりそうじゃったか。

 言われた本人はポカーンとしておるが、意味が分かっておらん様じゃ。

 しかし、検査キットも無しによく分かるのう。


『我等は外見だけではなく、その『魂』を見るからな。 別種族と混ざれば良く分かるのだ』


 『黄金龍』殿曰く、魂と言うのは各種族毎に特徴があり、別種族同士が混ざるとマーブル模様の様になり、完全に混ざり合うには、かなりの世代を経ていなければならぬらしい。

 で、このヘンリーも『半端者』と言う訳なんじゃが、別にコヤツは置いていって構わんよ。

 そもそも、コヤツが原因じゃし、連れて行った所で問題行為しかせんじゃろう。

 という訳で、保護する面々の事は頼んだのじゃ。


『うむ、承った』


 そうして、移住者達を乗せたゴンドラに繋がっておるワイヤーを翼竜達が掴み、空高くへと飛び立って『黄金龍』殿を先頭にし、ルーデンス領の方角へと飛び去って行ったのじゃ。

 その際、ゴンドラに乗っておった住民の子供達が、ワシ等の方に手を振っておったので杖を振って答えておいたのじゃ。

 さて、それじゃやる事もやったし、海鮮も手に入ったんじゃから、次の目的地に向かうとするかのう。


「ま、待て! さっきの事は……」


 ヘンリーが右手を押さえながらそんな事を言っておるが、ワシは答えるつもりは無い。

 どうせ言った所で信じないじゃろうし、真実を知って自らの行いを後悔した所でもう時は戻らぬ。

 精々、今後も悩み続けると良いのじゃ。


 そうして、呆然としておるヘンリーと護衛の兵士を放置し、ベヤヤに馬車を引かせてその場からさっさと立ち去る。

 流石に、コヤツ等に見られるような場所で『飛空艇』を出す訳にもいかんからのう。

 さて、次の目的地じゃが、ケリタ殿曰く帝都以外では情報が一番集まるという『ノーフォーク』と呼ばれる街で、そこで『魔虫』に関する詳しい情報を集める予定となっておる。

 まぁ他にも物流の中継点の一つらしいので、各地の珍しい食材やそういった情報も手に入るかもしれん。


 そう説明したら、予想通りベヤヤ料理熊は反応しておるが、あくまで主目的は『魔虫』の情報じゃからな!

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