第188話




 地下闘技場?で、多くの武装したゴブリンらしき相手を、それをレイヴンと一緒に退治している。

 一体はそこまで強くは無いが、その数が問題になる。

 攻撃を盾で防ぎ、カウンターで斬り倒していくのだが、正面にばかり気を取られていると、側面から忍び寄って来た相手に奇襲を受けてしまう。

 もしも、ここで奇襲を受けて怪我なんてすれば、後でレイヴンから受ける修行の内容が倍以上に増える事になるのは確実だ。

 何せ普段から、レイヴンとの模擬戦で振られる木剣を目で追えば『目で追うな』と言われ、剣速が上がって行って追い付かなくなり、ぶん殴られて吹っ飛ばされ、音や気配で分かる様になっても『油断するな』と虚実フェイントを織り交ぜてくる。

 かと言って妨害しようと攻撃を繰り出すと、あっさりと剣を弾き飛ばされて『思慮が足りん』と吹っ飛ばされる。

 ハバルが補佐する様に手伝ってくれているが、彼の力では直接戦闘は難しい。

 そう思うと、レイヴンの強さはかなり異常だ。

 今も、両手に持ったショートソードで、まるで無双ゲーの様にゴブリンを倒しまくっている。


「それにしても、かなりの数がいたんだな……」


「そうっすね、まさかここまで多いとは思ってなかったっすよ」


 俺等が考えていたのは、坑道から見えていた数がほぼ全てで、他の坑道にいるのは少ないと考えていた。

 だが実際には、別の坑道の奥からワラワラと多くのゴブリンが現れて来る。

 そうしていたら、闘技場の中心部に巨大な魔法陣が出現し、そこから巨大なフルプレートアーマーを装備した巨大なモンスターが現れた。

 アレが恐らく、村の子供が見たって言っていたサイクロプスなんだろうが、確かに巨大だ。

 ハバルが瞬時に坑道へと戻り、レイヴンが下がって坑道の前でゴブリンが侵入しない様に立ち塞がる。

 当然、サイクロプスの相手をするのは俺になる訳だが、コレは事前に決めていた事だ。

 盾を構えて一気にサイクロプスに接近し、サイクロプスが振り抜いた斧を盾で受け流して、その足に向けて精神力を集中したショートソードを振り抜く!

 サイクロプスの装備しているフルプレートアーマーを易々と切り裂いた事から、使われている素材はそこまでレアな物では無く、鉄とかにミスリル辺りを僅かに混ぜた合金かな。

 ただ、サイクロプスのサイズからしてみれば、その傷跡は小さい。

 サイクロプスの攻撃は大振りで、受け流す事は簡単なのが救いな上に、サイクロプスにゴブリンを気遣う感情は無いのか、周囲にいたゴブリンが巻き込まれていく。

 この調子なら、ダメージを与え続けていけば、問題無く勝てるだろう。


「ヒィッヒヒヒヒヒ、そこまでじゃ招かれざる者共よ」


 その声を受けて、サイクロプスから一気に飛び退いて距離を取り、声のした方向を見ると、そこにいたのはローブ姿の人物。

 声の感じから、老人の男性だと思うが今回の件の首謀者か?

 サイクロプスやゴブリンが攻撃を止めて、ローブ姿の前に集結している。


「一体何者だ! 何故にこんな事をしている!?」


「儂はただ実験をしておるだけじゃぞ? 此処は実験に最適じゃからのう……しかし、お前達も酷い奴等じゃのう?」


 ローブ姿の男がそんな事を言っているが、一体何の話だ?

 そうしていると、レイヴンが俺の隣に移動して立った。


「取り敢えず、俺達はサイクロプスらしき魔獣が現れたって話で調査と討伐に来た訳だが……爺さんが首謀者ならとっ捕まえねぇといけなくなるんだが?」


「ヒィッヒヒヒ! 儂を捕まえると! それこそ不可能な事じゃな!」


 レイヴンの言葉を聞いて愉快そうに言ってるが、実力的な事を言えばサイクロプスやゴブリン程度じゃレイヴンを止める事なんて出来ない。

 例え、奴隷の様に使っていた冒険者達を嗾けたとしても、あっさり無力化されるだけだと思うが……


「何せ、儂がおらねばを治せぬからのう!」


 一体どう言う意味だ?

 ローブの男が隣に立っていたゴブリンの兜に手を置き、それを外した。

 その兜の下にあったのはゴブリンの顔だが、その肌の色は緑や肌色、灰色と斑になっている。


「悪趣味な見た目だな」


「ヒィッヒヒヒ、まだまだ改良が必要じゃが、お主達もしてもらうから問題は無いのう」


「協力? する訳ないだろう!」


 どうして、俺達が協力する事になるのか理解に苦しむ。


「さっさととっ捕まえるぞ」


 溜息交じりにレイヴンがショートソードを構えて歩き出すと、ゴブリンが此方に駆け出してくる。

 それをレイヴンが斬り飛ばしたり蹴り飛ばし、俺も盾とショートソードで迎え撃つ。

 此方に来たゴブリンに向けて『シールドバッシュ』を使って吹っ飛ばし、その背後から来ているゴブリンを巻き込んでいく。

 確かに、この鎧の下のゴブリンの見た目は奇妙だが、それ以外は多少知能が高いくらいで別に……


『…ギィゥゥゥ……ィ……ダ……ィィ……』


 起き上がったゴブリンから何か聞こえた。

 それは今までの様な鳴き声では無く、明らかにだ。


『グゥゥゥ……ダズゲ…テェ……』


『……ゴ…ロ゜ジ……デ……』


 巻き込まれて倒れていたゴブリン達からも、明らかに異常な声が聞こえて来る。

 思わずレイヴンを見るが、声はレイヴンにも聞こえた様で、ローブの男を睨んでいる。


「……実験ってのはまさか……」


「ヒィッヒヒヒ! 知っての通り、魔獣と言うのは知能が総じて低い! じゃが、それなら知能の高いを混ぜれば良い! 実に簡単な事じゃ!」


 高笑いしながら男が言うが、ソレが本当であるなら、このゴブリン達はもしかして……

 その言葉でとある考えに至った瞬間、ゴブリンの一体が飛び掛かって来たので、慌ててショートソードで迎撃した。

 だが、もしかしたら、と言う考えによって、斬り飛ばせずにショートソードで薙ぐ様に弾き飛ばしたのだが、剣の切っ先がゴブリンの腕を斬りつけていた。


『ギャァッ! イダィィッ!』


「クソッ!」


 このゴブリン達は、全員の可能性が高く、元に戻せるのはそれを行ったあのローブ男にしか出来ないという事になる。

 つまり、彼等を助けるのであれば、俺達は手出しが出来ないし、ローブ男の機嫌を損ねる訳にもいかなくなる。

 成程、協力しなければならないというのは、俺達が手出し出来ないからか。

 悔しい事だが、コレでは俺達に出来る事は、此処から逃げてギルドに報告するくらいしか……


「さて、さっさと武器を捨てて……っておぉっ!?」


 そう言ったローブ男の隣を、吹き飛ばされたゴブリンが通り過ぎていく。

 更に、何体ものゴブリンが斬られ、蹴られ、殴られてローブ男に降り注ぐ。

 そして、数体がローブ男にぶつかって、一緒に吹っ飛んでいった。


「止めろレイヴン! 彼等を元に戻せなくなる!」


 思わず止めに入ったが、レイヴンが溜息を吐いている。


「あのな、正直なのは良いが、少し考えたら分かる様な嘘に引っ掛かるな」


 嘘だと?

 奴の言った何処に嘘があったんだ?

 ゴブリンは片言だったけど喋っていたし……

 そう言ったら、再度溜息を吐いてる。


「此処にいるゴブリン共は軽く数えても50体以上だ。 一体に付き一人だとしても、50人以上の人間が消えたら大騒ぎになって無きゃ可笑しいだろ。 で、ここに近い村や町は、あそこにあった一つだけ、騒ぎになってたか?」


 そこまで説明されてやっと気が付いた。

 ローブ男が言った事が本当であるなら、材料になった人が大勢消えて大騒ぎになっている筈だが、あの村で騒ぎになっていたのは、『サイクロプスらしきモンスターが目撃された』と言う物だけで、行方不明者の話は一つも出なかった。

 つまり、あの村では行方不明者はいなかったという事になる。

 だが、あのゴブリン達は喋っていたんだぞ?


「そんなん、オウムとかインコとか、人の言葉を喋れる動物にしろ魔獣にしろ探せばいるだろ」


 と言う事は……


「十中八九、嘘って事だ。 分かったらさっさとサイクロプスもどきを片付けろ」


 レイヴンが飛び掛かって来たゴブリンを蹴り飛ばし、起き上がろうとしたローブ男に直撃して再び吹っ飛んでいった。

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